【2023年1月施行】サステナビリティ情報の開示義務化について解説

サステナビリティ情報とは、企業が環境・社会・経済の3つの観点から、持続可能な社会の実現に貢献するために行っている活動や取り組みの情報のことです。2023年1月31日に改正された「企業内容等の開示に関する内閣府令等」により、企業はサステナビリティ情報を開示することが義務化されました。今回は、サステナビリティ情報と法改正の内容、企業が対応すべきことについて解説します。

サステナビリティ情報の開示とは?

サステナビリティ情報とは

サステナビリティ情報とは、持続可能な社会の実現に向けた取り組みに関する企業情報です。具体的には、環境負荷の削減・社会的課題の解決・経済活動を通じた地域社会への貢献に関する情報などを指します。またサステナビリティ情報というと、企業においての環境保護と経済発展の両立に関するイメージが強いですが、人権・貧困といった社会倫理的問題も解決すべき課題に含まれます。企業は持続可能な発展の行方を左右するきわめて重要なプレーヤーであり、今後もサステナビリティ情報に対しての関心はますます高まっていくでしょう。

法改正によりサステナビリティ情報開示が義務化

2023年1月に「企業内容等の開示に関する内閣府令」が公布され、企業のサステナビリティ情報開示が義務化されています。以前から日本企業においても独自のサステナビリティ情報の開示が増えており、また世界的にもサステナビリティ情報開示を推進する動きが活発となっていました。そんななか、金融庁のディスクロージャー・ワーキンググループが有価証券報告書へのサステナビリティ情報記載を提言、2023年3月31日以後に終了する事業年度の有価証券報告書等から義務化が適用されています。

サステナビリティ情報開示の概観

今回サステナビリティ情報開示が義務化されるにあたり、有価証券報告書に「サステナビリティに関する考え方及び取組」欄が新設され、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標及び目標」の項目が追加されました。また、既存の「従業員の状況」欄においても、人的資本における多様性確保の指標となるよう「女性管理職比率」「男性育休取得率」「男女間賃金格差」の項目が追加されています。
前者の4項目は、国際機関TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)とISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が提言した4項目に沿った内容となっています。

   

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すべての企業が開示することが求められる事項

ガバナンス

ガバナンスとは、サステナビリティ関連のリスク・機会を監視・管理するためのガバナンス体制を指します。該当するのは、取締役会や任意に設置した委員会などの体制・役割です。ガバナンスの記載例としては、「気候変動の脅威に対する取り組みの実行計画を立てKPIを設定し、目標達成に向け、取締役会・社内設置委員会・社内各部門の役割を明確化したうえ、連携監督体制を構築する」といった内容が考えられます。
カバナンスの項目は、すべての企業において記載が義務づけられています。

リスク管理

リスク管理とは、サステナビリティ関連のリスク・機会を識別・評価・報告・管理するプロセスを指します。リスク管理の記載例としては、「社内委員会が各部門に気候変動にかかわるリスクの発見・報告を指示し、報告されたリスクの重大性を評価したうえ、重大リスクを取締役会に報告するプロセスや、対応方針を示し各部門に対応を指示するプロセス」といった内容が考えられます。
こちらの項目についても、すべての企業において記載が義務づけられています。

   

各企業が重要性を判断して開示することが求められる事項

戦略

戦略とは、サステナビリティ関連のリスクなどにおける取り組みのことです。なかでも、企業の経営方針や経営戦略などに影響があるものを指します。
戦略の項目には、企業が発見した具体的なリスク内容と対応策などを記載しましょう。例えば「異常気象による自社農産物損失のリスクを具体的に挙げ、気候変動に耐える品種の導入・開発を対応策として記載する」といった内容が考えられます。

指標及び目標

指標及び目標とは、サステナビリティ関連のリスク・機会に関する企業の実績を、長期的に評価・管理・監視するために用いる情報を指します。
例えば「温室効果ガス排出量・エネルギー使用量といった数量的指標を定めて、削減目標と進捗状況としての実績値を記載する」といった内容です。

   

サステナビリティ開示の動向

海外の動向

海外においても、企業価値に影響を与える重要項目として、サステナビリティ情報開示が投資家などから注目されています。また企業価値を評価する目的から、比較可能な企業情報開示が求められています。
その影響により、国際会計基準財団(IFRS財団)は国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)を発足させました。2022年3月に「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」草案を公表したISSBは、2023年第2四半期末をめどに「IFRSサステナビリティ開示基準」を正式に発表する予定です。

日本の動向

2022年7月、ISSBへの意見発信や国内開示基準の開発を目的として、財務会計基準機構がサステナビリティ基準委員会(SSBJ)を発足させました。金融庁においてはディスクロージャー・ワーキンググループ報告で開示に関する制度整備が提言され、2023年1月に企業内容等の開示に関する内閣府令等が改正・施行されています。
さらに、2023年3月SSBJとISSBが会合し、SSBJは日本のサステナビリティ開示基準の草案を2023年5月に公表し、2024年度中に確定基準を公表する予定です。

   

サステナビリティ情報開示の義務化で求められる対応

金融庁の提言を受け、2021年6月に東京証券取引所が「コーポレートガバナンス・コード」改訂版を公表しました。改訂版では、企業統治におけるサステナビリティへの配慮のあり方が示されました。ここではサステナビリティ情報開示の義務化に際し、企業が求められる対応に関して、コーポレートガバナンス・コードを参考に読み解きます。

サステナビリティをめぐる課題について適切な対応を行うこと

企業価値向上の観点からも、企業はサステナビリティをめぐる今日の課題に積極的に取り組む必要があります。具体的には、環境問題・人権問題への取り組み、従業員の公正な処遇と健康・労働環境への配慮、取引先との公正な取引、自然災害への危機管理などの課題です。これらに取り組むことがリスク削減となり、収益機会をもたらす重要な経営課題であることを認識しましょう。

サステナビリティについての取り組みを適切に開示すること

今回の義務化の要請に応じ、サステナビリティについての取り組みを適切に開示する必要があります。とくに上位上場企業においては、サステナビリティ関連のリスク・機会が、事業活動に及ぼす影響についてデータ収集・分析を行い、質・量ともに充実した情報開示をすることが望まれます。
また、今回の義務化の範囲に留まらず、TCFDやISSBが提言する国際水準にのっとった詳細な開示をすることが推奨されています。ただし2022年のISSB草案は要求水準が高すぎるとの声も多く、緩和された基準が今後発表される見通しです。過剰な内容の開示を行う必要はないことを認識しておきましょう。

サステナビリティをめぐる取り組みについて基本的な方針を策定すること

さらに望まれるのは、将来に向けて企業価値を向上させる観点から今後のサステナビリティをめぐる取り組みについて、取締役会が基本方針を策定することです。近年では「サステナビリティ基本方針」を公表する企業が増えています。

   

まとめ

サステナビリティ情報の開示が義務化されることによって、企業が新たな負担を感じるケースもあるでしょう。
しかし、サステナビリティ情報の開示により企業のリスク削減や収益機会確保をステークホルダーが知れるようになることは、企業の資金調達のために有益です。くわえて情報開示の義務化により、サステナビリティに向けた取り組みが実現していくことで、リスクから自社を守るというメリットもあります。自社にとって、負担である以上に利益の機会であることを意識して、積極的なサステナビリティ情報の開示に取り組んでいきましょう。

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