仕事以外の理由が原因で労働者がケガや病気をした場合、企業はその従業員を解雇する選択肢以外に、回復まで勤務を免除する私傷病休職という形を取ることが可能です。従業員は、期間中に賃金が支払われないものの、復帰後の居場所を確保することができ、企業は新たに人材を探すコストがかからないといったメリットがあります。今回は、私傷病休職の意味と企業側にとっての大事なポイント、傷病手当金、私傷病休職のメリット・デメリットについて解説していきます。
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私傷病休職制度とは、企業と労働契約を結んでいる従業員が、業務外で負ったケガや病気(私傷病)のために一定期間仕事を休んで療養が必要な場合に、労働の義務を免除する制度です。この際、従業員の地位は維持されたまま、従業員は休職することが出来ます。
このような制度が存在する背景には、従業員の保護と企業側のコスト削減という2つの目的があります。従業員が日常生活を送る中で、体調を崩してしまったり事故に遭ってしまったりして、長期的に業務から離れざるをえなくなることは往々にしてあります。一定期間後の復職が見込めるにもかかわらず、年次有給休暇の日数では足りないため、一時的な業務不能状態を理由にすぐ解雇されてしまう事態となれば、従業員にとって酷であると言えます。一方で、企業側は長期雇用を前提に多大なコストをかけて従業員を教育・訓練しますので、一時的に就労が不能になったからといって解雇することは、企業側にとってもコストの観点からは痛手と言えます。
休職制度は、労働基準法などの法令により制度化が義務付けられているものではありません。その制度化は任意であり、導入する企業によって制度の細則は異なります。細則には、休職事由、休職中の賃金の処遇、休職期間の長さ、復職の手続き・判断、復職後の処遇などの事項を規定しておくべきです。また、労働基準法第89条により、これらの規定を盛り込んだ就業規則を作成・改定した場合には、管轄する労働基準監督署に届出を提出する必要があることも忘れてはなりません。
ここでは、休職に関して就業規則で規定しておくべき事項のうち、特に載せておくべき重要なポイントについて解説します。
病気の再発等により、復職後に再び欠勤となることもあります。このような場合を見越して、一定期間内の再度の休職の際には、休職期間を前回から通算で数えるものとする規定を設けておきましょう。そうした規定がないと休職期間が新たにカウントされ直すことになるため、企業側としてはその分だけ、回復の見込みなしとして解雇の判断を下せるようになるまで待たなければならない期間も延びてしまいます。さらには、制度を悪用して休職をいつまでもし続けることが実質的に可能になってしまいます。そのような事態を避けるためにも、休職期間を通算で数えることを定めておく必要があります。
休職者が復職する際に、休職の理由となった私傷病が治癒しているかどうかの判断をめぐって争いとなることがしばしばあります。そのため、私傷病治癒の判断の方法に最も有効な、医師による診断書を提出する義務などを就業規則に定めたほうがよいでしょう。
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通常、病気やケガによる私傷病休職の期間中は収入がありません。このような場合に、療養中の生活保障として、全国健康保険協会や健康保険組合などの保険者から、傷病手当金という金銭給付が行われます。ここでは傷病手当金の特徴について解説していきます。
傷病手当金は、最長で支給開始の日から1年6ヵ月間給付されます。仮にその期間中に仕事に復帰したものの、その後再び同じ病気やケガにより仕事に就けなくなったという場合は、途中の復帰期間も1年6ヵ月に算入される仕組みになっています。また、給付期間終了後には、復職できないままの場合でも給付を受け取ることは出来ません。
傷病手当金を受け取るためには以下の4つの条件を満たしていなくてはいけません。
傷病手当金の受給額は、標準報酬日額の3分の2です。賃金が休職期間中に支払われた場合、その分だけ手当金は減額されます。標準報酬日額とは、健康保険等の社会保険料決定の基礎になる標準報酬月額の30分の1に相当する額のことです。詳しい保険料額表は、健康保険協会や健康保険組合のウェブサイトに載っているので参照してみてください。
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従業員が労務不能であるにもかかわらず無理をすることで、病状が悪化して、二度とまともに働けなくなる事態を避けられるという点で、私傷病休職制度は企業と従業員の双方にとってメリットのある制度です。しかし、法律上規定されているものではないため、企業側が就業規則に細かく規定しておかなければ、従業員とのトラブルの元になってしまいます。従業員が業務外のケガや病気によって労務不能になったときに備えて、企業側は私傷病休職の制度について細かく規定しておくことをお勧めします。
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