昨今、政府が推し進める「働き方改革」。しかし、漠然としすぎて目的や意義が見えない、具体的な手法がわからないといった声も多く、特に地方の中小企業にとっては、縁遠い取り組みとなっているのが現状です。
そこで、独自のアプローチで成果を上げている企業の事例をご紹介。婦人靴の企画販売、製造、小売りを展開し、急成長を遂げている株式会社クリエイティブ・エナジーの皆さんに、改革のプロセスや手応え、またそのポイントについて語っていただきました。
梁川 正美
株式会社クリエイティブ・エナジー (経理課)
日々の経理業務から、給与計算などの月次業務、決算対応まで、幅広く経理業務を担当。
林 延子
株式会社クリエイティブ・エナジー (アタガール事業部店舗運営開発部長)
店長、エリアマネージャーを束ねる立場で、全店舗の運営管理を統括。
横山 豊
株式会社クリエイティブ・エナジー (アタガール事業部ディレクター)
Webサイト運営管理を担当。受発注から在庫管理業務までを指揮する司令塔として、この数年で急成長したネット通販事業を支える。
阪口 郁夫
阪口総合事務所(所長/社会保険労務士・行政書士)
1994年社会保険労務士事務所開業。2017年より株式会社クリエイティブ・エナジーのアドバイザー役に就任し、今回の働き方改革においても相談役として活躍。
環境激変により、人材不足が深刻な問題に
― 働き方改革を行う以前の職場環境について、また、どのような経緯を取り組みに至ったかを教えてください。
梁川
弊社の創業は1988年。以来2014年頃までは大阪のみ3店舗の運営で、社員は20名ほど、アルバイトを入れても総勢60名程度でした。そんな規模の中小企業ですから、意思疎通・意志統一もスムーズで、全社一丸となって営業・販売に取り組めていました。
林
「売り上げてなんぼ」の商慣行が根強くあり、給与も出来高制を採用していました。営業職、販売職は自分で稼ぐ意識で頑張る。一方バックヤードでは働きやすい環境づくりに努める。相互に信頼関係を築けていたので、労働問題などはほとんどなく、残業時間の問題も皆無で。
阪口
エリアマネージャーがマメに各店舗を巡回し、現場の意見・要望を反映する体制もしっかりしていましたからね。
梁川
もちろん、昨今は「働き方改革」がニュースになっているという認識はありました。でも身近には感じておらず、管理者側も、スタッフ側も特に問題意識は持っていなかったと思います。
阪口
それが、この2~3年で状況が変わってきましたね。
林
爆発的に観光客が増え、ネット環境の発達で世界中から注文が殺到するようになり……
横山
気がつけば店舗数は4倍、社員数は2倍に膨れ上がり、今までのスタッフ管理手法では追いつかなくなってきたんです。
阪口
人が増えれば、それだけ横のつながりが希薄になり、自分の成果だけにこだわるようになります。成果を出そうとして働く時間が長くなり、残業や休日出勤が増え、疲弊していく。悪循環です。
林
実際、業績の良いスタッフほど長時間勤務をしている状況でした。エリアマネージャーが今まで以上に店舗を訪問して、指導をしたり、意見や要望を聞いたりして改善を試みたのですが、それが逆にプレッシャーになったようで、1年間の離職率が30%を超えてしまうという事態に陥ってしまったんです。
梁川
スマートフォンなどの普及で労働問題関連情報が手軽に入手できるようになり、スタッフの働くルールへの意識が大きく変わっていったことも背景にあったと思います。さまざまな要因が重なって人手不足に拍車がかかり、労働環境の改善に取り組まざるを得なくなりました。
阪口
その状況から“土台から改革していかなければ未来はない”と、経営者陣が気づいたのです。大げさではなく、切羽詰っていたと思います。
勤怠管理システムの導入で仕事の質が格段に向上
― 差し迫った状況があり、年明けから一気に動き始めたのですね。
林
はい。最初に取り組んだのは、勤怠管理の方法を変えることでした。そこが働き方改革の出発点になりました。
梁川
そこで阪口先生が推奨してくださったAKASHIを導入することにしたんです。
阪口
私がAKASHIを勧めた理由は、包み込むような安心感です。これは使った人でないとわからないかもしれませんが、機械で管理されている殺伐感がなく自主性に重きをおけるシステムなんです。ここが他社の勤怠システムにはない魅力ですね。
梁川
確かに(笑)インターネットを通じて勤怠管理をし、スタッフに共有できる公正な手段があることで勤怠に対する意識を啓発することができ、勤務時間のコンプライアンス浄化が自立的に行われていくのでは、との考えがありました。
― 導入に当たって混乱が起きたりはしなかったのでしょうか。
林 それはありました。導入前にスタッフ用LINE等で何度も具体的なオペレーション詳細を回覧し、周知したのですが……賃金に関する問い合わせが殺到。
阪口
当然といえば当然なのですが、「働く時間が短くなれば残業手当がつかなくなり、給料が下がるのか?」という切実な現場の声が多く上がってきました。
梁川 その不安を解決するために、会社の基本方針として前年賃金額の保証を提示し、また、残業時間が月に45時間以内のスタッフも、前年より勤務時間が削減できれば同額保証する方針を打ち出しました。
林
一番時間をかけたのが、スタッフ全員との個別契約です。5月導入を目標に、2月に120人の前年賃金の傾向と対策を分析、3~4月で全店舗へ出向いて、①勤務時間の削減目標、②削減による賃金低下解消額の根拠説明、③削減する具体的な方法・対策・効果・成果との相関関係を一人ずつに説明し、契約したスタッフに会社の考え方を共有し、同意を得ることに、労力を惜しまず取り組みました。
― 勤怠管理システム導入後の変化、手応えはいかがでしょうか。
梁川
スタートした5月から、全スタッフの残業時間が月45時間以内(平均40時間)を達成。その後、毎月順調に5%ずつ削減し、2017年9月時点で平均30時間となっています。環境さえ整えば、労働時間を減らしても成果を上げることができることがわかりました。
阪口
たとえば、8時間かけていた仕事を4時間でやれるようになったら、空いた4時間で他の仕事ができます。そういう点で、スタッフが自主的に考えて動くことが増え、効率化につながったのはないでしょうか。また、人件費は変わりませんが、店舗間接経費が月間5%程度削減できており、年間ベース10%程度削減できるという2次効果も見込めています。
林
正確な数字は出ていませんが、導入後、離職率は下がっていると思います。世の中の流れに即した制度があることは、働く上での安心感につながりますから、やはり大事ですね。
― ご担当の立場での変化の実感をお聞かせください。
横山
労働時間や休暇などの確認がいつでもすぐにスマホからできるのはいいですね。特に若いスタッフから自分の働き方がクリアに見えることでモチベーションが上がる、などの声が多く上がってきています。
梁川
経理の立場からすると、やはり給与計算にかける時間が大幅に短縮され、格段にラクになりましたね。
林
店舗を回っていて、短期間で意識改革が進んだなという実感があります。皆、効率を考えるようになり、仕事の質がレベルがアップしていると思います。
環境を整えれば、良い人材が育ち、会社が育つ
― 御社の働き方改革はまだスタートしたばかり。今後の展開についてお聞かせください。
阪口
勤怠管理システムの導入によって良い土台ができてきたので、次のステップを見据えています。具体的には、勤務形態や休暇制度の見直しなどでしょうか。
横山
若い人々は敏感なので、わかりやすく働いて、わかりやすく休んでもらうことが結構重要なんですよね。加えて、プライベートな時間を増やし、外部の環境からインプットが増えることは、お客様のニーズを察知する感性にもつながると思います。
梁川
まずは人が長続きする会社にしていくこと。そのうえで、人材育成という面にもフォーカスしていくことを視野に入れています。今後、若年労働者数が減少してくる実情を踏まえ、高度な人材を育成して社会に貢献することは、企業としての使命でもあると考えています。
林
もちろん長く働いてもらえたらうれしいですが、ノウハウを吸収し、自分の価値を高め、どこの会社にいっても通用する人材になるのが到達点で、たとえ他社に移ってもそこで活躍してくれるのなら、いま私たちが推し進めている改革の意義はより大きなものになると思いますね。
編集後記
皆さんの熱い想いが伝わってくる対談となりました。長く根付いていた商慣行を変えることには、抵抗や反発もあったと思われます。しかし、目先のことだけにとらわれず、未来を見据えて前に進んだことで、会社にも、現場にも良い形がつくられつつあり、また新しい景色が見え始めているのを感じました。
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