近年、至るところで話題にあがる「ワークスタイル変革」。喫緊の課題として、取り組みを進める企業も増えてきています。本企画では、先進的なワークスタイルをサポートするビジネスを手がけながら、自ら実践もしている方々にお話を伺いました。
エッセンス株式会社 代表取締役 米田 瑛紀氏
「新しい仕事文化をつくる」をミッションに掲げ、各領域で活躍しているプロフェッショナル人材の持つ知見を企業間でシェアするビジネスを展開。また大手企業の優秀な人材を「ベンチャー留学」させる研修など、他社にはない“雇用だけではない人材活用サービス”で注目を集めている。
株式会社スタディスト 執行役員 CMO 豆田 裕亮氏
間接業務を中心に、あらゆるタスクをマニュアル化することで業務の平準化・汎用化を推し進めるツール”Teachme Biz”を提供している。福岡に在住しながら東京の会社で仕事をする、というワークスタイルを実現するため、自社ツールを積極的に活用。社外に間接業務をアウトソーシングすることで経営の効率化を実現している。
somu-lier編集長 渡邊 謙人
クラウド型勤怠管理サービス”AKASHI”のプロジェクトリーダー。また、日本企業のバックオフィス業務従事者に向けたメディア”somu-lier”の編集長を兼務し、総務担当者の悩みを解決するための情報や、今後求められる職場環境のあり方などの情報を発信している。
渡邊
最初に、ワークスタイル変革のポイントについて、それぞれのお考えを聞かせてください。
米田
働き方の多様化や長時間労働の是正など、いろいろなことが言われていますが、要は「生産性をいかに上げるか」これに尽きます。ただ、企業の中の人材だけで生産性の向上を実現するには限界があります。そこで、経験値が豊富な社外のプロの知見をピンポイントで活用することが有効です。すべてを自社でやらず、やるべきことをプロの目で「見極める」ことで生産性は大きく向上できます。
豆田
労働人口の減少で、人の採用もままならない状況ですから、今いる人材でいかに生産性を上げるかは最大のテーマですよね。当社では、顧客の業務を洗い出し、可視化し、マニュアル化するツール「Teachme Biz」を提供していますが、それによって、どうしてもできないことや、誰にでもできる業務をアウトソースし、業務効率を向上させることができます。私自身、できるだけ自分から仕事を剥がして、企画や戦略を練ることに集中しています。
渡邊
渡邊
次は実際のワークフローに関するヒントをいただきたいと思います。お二人が手掛けた事例についてお聞かせください。
豆田
では、当社の事例をお話したいと思います。もともと5人くらいで事業をスタートしたこともあって、自分の仕事を見直さないと回らない状況にありました。そこで、業務を可視化し、請求周りなどの顧客マネジメントはすべて、三重県のとある会社さんにアウトソーシングしているんです。また、自分でなければできないと思われがちなKPIの数値取得なども、マニュアル化しアウトソースしています。考える以外の仕事はしない。それくらいのスタンスでいますね。
米田
そんなことまで外に出せるんだ? それは、驚きですね!
豆田
当社では、業務を「感覚」「選択」「単純」の三つに分類し、「感覚」と一部の「選択」以外の業務はすべてマニュアル化し、外に出してしまいます。自分でなければできない仕事って、実はそれほど多くなくて、全体の2割くらいなんです。それ以外を人に任せることができれば、時間を大幅に短縮できますし、その分、アイデアを練ったり、人に会いに行ったりすることができるようになる。削ぎ落とすプロセスを経ることで、自分自身や自社のコアなバリューがどこにあるかも見えてくると思いますよ
渡邊
そこまで徹底できれば、劇的に仕事が変わりますね。一方、プロの人材・知見を活用することでも、大きなメリットがありそうですね。
米田
当社のサービス「プロパートナーズ」のお客様が、事業ごとにばらばらだった自社の顧客管理システムを統一して、それを同業他社に外販しようというプロジェクトを立ち上げたことがありました。けれど、ITに精通した人材がいなかったため、システム会社からの提案の良し悪しも、価格が適正かも判断できない状況でした。そこで当社から、世界的なIT企業で日本法人のトップを経験した人材を紹介したことで、新たな事業部が立ち上がり、ビジネスそのものを成功に導くことができ、海外展開にまで発展しました。社外の優秀な人材を折り込んだワークフローを設定することにより、スピーディな事業推進を実現できたのです。
豆田
当社も創業時には、広報やファイナンスなど、自社にナレッジがない業務範囲については、外部顧問をお願いしました。彼らの知見によって、自分たちでは実現できない価値を得ることができたんです。そもそもこちらは、まったく知識がないわけですから、ピンポイントで会議に出てもらうだけでも相当なメリットを享受できますよ。
渡邊
誰にでもできることや、自分たちではできないことは外の力を借りる。そうすることで、自分にしかできないことに注力できるようになり、より生産性の高い組織が実現できるわけですね。もちろん、システムを活用することもその選択肢のひとつ。当社が提供する勤怠管理サービス“AKASHI”でも、タイムカードなどアナログで管理していた勤怠をシステム化し、10%以上もの工数削減に成功したお客様もいます。「すべてを社内で完結させる」とか「個人のがんばりに依存する」といった日本にありがちな価値観から、いかに脱却するかがポイントだと言えそうですね。
渡邊
米田
ルーティンワークに甘んじている人が本当に多いですよね。辛辣なようですが、ただの作業に変なプライドを持っていては、より生産性高い組織へと変革することはできませんし、その人材も会社という看板がなければ生きていけなくなります。まずは、固定観念を払拭するところからですね。
豆田
そうした意味では、「オフィスにいなくてはいけない」という会社も、いまだに多いですよね。デスクに座っていることで、生まれるものなんて何もないのに……。私は福岡からテレワークしていますが、まったく不便はありません。今はフリーのテレビ会議システムもありますからコストもかからないし、上空1万メートルにいても、会議に参加できる環境も整っている。仕事に対する認識を改めなくては、何かを変えることなんてできないはずです。
渡邊
単純作業が失われると、自分の存在意義も失われてしまう。AIの進化によって、そんな話もよく聞かれるようになりました。それでも変化を恐れる人が多いのは、「クリエイティブな方向性の仕事をしろ」と言われても、何をしていいかがわからないことが根底にある気がしているんです。よりよい組織を実現するための提案をしていく。企業のビジョンを具現化する施策を考える……。いろいろやることはあるけれど、それを明確にイメージすることって、かなり難しい。
豆田
単純作業には、「考える余地」がありません。だからこそ、私はマネジメント層が果たす役割が大きくなると考えています。単純作業を与えるだけでは、部下の成長はありません。大切なのは、考える余地を持たせる仕事や機会を用意すること。その積み重ねでしかクリエイティブな能力は育ちませんからね。
米田
部下の方もただ与えられるのを待っているようでは、ダメですよね。自ら覚悟を持って、仕事をしていかないと、「上司が悪い」「会社が悪い」なんて愚痴ばかり言って、成長していくことができない。「精神論でしょ?」なんて言われるかもしれませんが、会社の看板にすがることなく生きていけるプロフェッショナルにとって、必要不可欠なことなんです。
渡邊
誰にでもできる単純作業ではなく、自ら考え、新たな価値を生み出していく……。そうした方向にシフトできれば、仕事が楽しくなっていくと思っています。そうした意味で、「ワークスタイル変革」は大きなターニングポイントになりますよね。
米田
はい。組織はもちろんですが、個人にとっても自らの価値を高められるチャンスだと思っています。会社の看板がなくても、価値を提供できる。自分の力で生きていける。そんな「プロ」になれる絶好の機会なんですよ。実際に当社には、現役の経営者で他社の支援も行うプロや、フリーランスで複数のメガベンチャー企業の成長を支えたプロ人材など、第一線で活躍するプロがたくさん登録しています。そうした人たちが今後ますます増えていけば、日本の社会全体が元気になっていく。そんな夢を描いています。
豆田
私自身、同じことを二度やるのが大嫌いなのですが、同じ作業の繰り返しでは仕事が楽しくないですよね。仕事は人生の大部分を占めるものですから、そこが楽しくなければ人生がアンハッピーだし、成果だって生まれないはず。もっとハッピーな人生を実現するためのきっかけだと思っています。
如何に「単純作業」を減らし、「自分でやるべきこと」に使う時間を創り出すかがワークスタイル変革成功の秘訣である、ということが伺えた座談会でした。そのために必要なツールの導入やアウトソーシングの活用、あるいは第三者の視点を取り入れることなど、これから変革を推進しようとしている企業の皆さまの参考になれば幸いです。
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