「直接収益を上げることがない」と思われがちな総務部門の存在を、企業のトップはどのように捉えているのか。今回は、総務に携わるスタッフたちが、経営のピンチにあった企業の回復を支え、やりがいを持って働くことで成長の原動力を生み出していったというエピソードを紹介します。
ご登場いただくのは「株式会社ユリーカ」の代表取締役である青山雅司氏(以下、青山氏)。大学卒業後、システムエンジニアとしてキャリアをスタートさせ、ITコンサルタントとしての経験もある青山氏に、総務に対する考え方の変化、その重要性を認識したエピソードに加え、今後「稼げるバックオフィス」を形にするための思いについてお聞きしました。
株式会社ユリーカ 代表取締役 青山雅司(あおやま まさし)氏
経営回復への挑戦は、総務部門の強化から始まった
――御社では、長野県塩尻市と東京都渋谷区に拠点を置き、業務基幹システムの企画・開発・運用保守を中心に、ソフトウェアやサービスの販売、システムアウトソーシングといった事業を展開されていますね。その中で、総務の業務体制、仕事内容についてお聞かせください。
青山氏:ユリーカは1981年設立。もともと私の父が代表を務めていた企業です。長野本社に加え、早い段階から東京にも拠点を構えていました。
ところが私の入社した2010年当時は大きな負債を抱えている状況で、その経営の立て直しから始めることになったんです。
その時に私が感じたのは「総務の体制が脆弱(ぜいじゃく)」ということ。膨大な仕事内容があるにもかかわらず、長野には請求関連業務を任されているスタッフが1名、東京にはバックオフィス業務を一手に引き受ける取締役が1名という状況でしたので、その体制を変える必要がありました。
私が代表に就き、東京にいる取締役をリーダーとして、人事や経理などにそれぞれ専任のスタッフを配置。総務の業務権限も強化しました。
――社員数38名の企業としては、総務の人員がとても充実している体制ですね。
青山氏:ユリーカでは、各プロジェクトの原価を把握し、月次の決算も行っているので、経理関連の業務は多忙を極めます。
また人事業務に関しても、少数の企業であるがゆえに採用人数や人員配置が売上に直結する仕事内容となるので、応募者にとって企業の顔となる人事担当者は重要な役割を担います。そうした理由から、総務に厚みを持たせる必要があるというのが私の考えです。
社長ができないことをフォローする総務が、事業存続から成長への原動力に
――ご自身はSEとしてキャリアをスタートさせ、ITコンサルタントという経験もお持ちですが、そうした総務の業務に対する考えは以前からあったものですか?
青山氏:いいえ、前職まではむしろ真逆の考え方でしたね。総務の人員は少ないほうが効率的だし、積極的にアウトソースするべきだと考えていました。
しかし、当社の場合は間接部門である総務こそが事業の原動力となる重要なキーなんだと、マインドセットが切り替わりました。
私がユリーカの代表となった当時は、経営不振の影響で税金や社会保険料の滞納もあり、普通に考えれば口座凍結などの事態もあり得る状況。しかしそうなっていないことを不思議に思って、ある時総務部門のリーダーである女性社員に聞いてみました。
その時初めて彼女が毎週、税金や保険料の支払いを待ってくれるよう説得に行っていたことを知ったのです。事実を知らされた時、想像もつかないほどの覚悟を持って、総務が経営を支えてくれていることに気付かされました。
――企業の代表として手が回らない、対応できないような部分での支えとなっているという、特徴的なエピソードですね。
青山:人事・採用に関してもそうですね。前職では、私は採用計画から予算組み、面接まで携わっていたので、いい人材を多く獲得することには自信がありました。ユリーカでも社長である私が採用に関することはすべてやろうと考えていました。
しかし、それでは総務が育たないという考えもあったので、2年前からは当時新卒社員だった総務スタッフに任せるようにしたんです。その結果、2014年度の採用人数はなんと17人。40人規模の企業としては驚くべき数字で、「私より採用できるのか…」と自信が崩れる瞬間でもありました(笑)。
この時に感じたのは、社長の私が採用の前面に出ると、応募者に対しても、総務担当者に対しても、「うちに来たまえ」とか「これをやりなさい」といった具合に、必要以上に「上から命令を受けている」という雰囲気を出してしまっていることでした。
そして、新人スタッフが苦労しながらでも懸命に取り組む姿を見せることで、周りの人間も心を動かされることにも気付かされました。この経験を通して、社長にはできないことを総務が責任とやりがいを持って支えてくれる場面はたくさんあり、その仕事を担ってくれるからこそ、会社が成長していくのだと思うようにもなりましたね。
総務とは、会社の「下支え」的存在として、収益を最大化してくれる要
――長い歴史を持つ御社が将来に向けて事業を展開する中で、総務に求めるのはどんなことですか?
青山氏:前述のとおり、これまで当社の支えになってきたのは総務であり、メンバーの心には常に会社を思う強い気持ち、仕事への高いモチベーションがあったと思います。
それはユリーカの特徴的なところでもあり、少なくとも会社がピンチを脱して生き残れた重要な要因になっていることは間違いありません。今後も総務に一番に求めたいのは、こうした総務体制の伝統を受け継いでもらうことです。
経営者としては、会社を思ってくれるスタッフやその部署に対しては権限を与えていきたいと思っています。ユリーカでは総務に対し、制度づくりや予算配分などの権限を持たせており、社員たちが働きやすい環境づくりのための施策を考え、実践してもらっています。
その際に、自分たちの業務効率化などは二の次に、会社の利益を最大化するための制度やルールを生み出してくれる。これは会社への愛着と総務の仕事への高いモチベーション、やりがいを持ってくれているからだと思います。
――仕事の成果が数字として見えにくい総務部門に関して、最後に青山さんの考えを聞かせてください。
青山氏:私自身にとって総務とは、会社の収益を最大化する重要な部門。ユリーカにおける「総務」という仕事内容のノウハウを、事業の柱のひとつとして展開してもいいのではないかというのが私の考えです。
実際に長野県の企業の方々と話をしてみると、地方では事業予測や経理・人事といった総務業務を充実させられていない企業がたくさんあるとわかりました。当社で持っている業務ノウハウを例えばコンサルティング・サービスとして展開することで、各企業の総務が収益を上げる頼もしい下支えになることは十分に可能です。
そんなアイデアを形にすることで、総務がより大きなやりがいを感じながら仕事に取り組み、愛着のある会社の中で力を発揮できるのではないかと、私は思っています。
- 会社名 :株式会社ユリーカ
- 設立 :1981年5月
- 事業内容:システム開発、ニアショア開発、BIツール導入支援、コンサルテーションサービス、エプソン販売代理店
- 所在地 :〒151-0053 東京都渋谷区代々木1丁目4番地1号 SEED141ビル1階
(情報は2016年3月時のものです)
ライター後記総務部門のメンバー全員が女性で構成されているユリーカさんでは、青山氏曰く「お姉さんたちに現場のスタッフがやり込められてシュンとなっちゃう(笑)」というシーンも見られるそうです。しかし、さまざまなエピソードを通して伝わってきたのは、現場のスタッフたちが総務の持つ会社への愛情・愛着を理解し、お互いに尊敬し合う雰囲気が醸成されていること。どちらかが上に立つのではなく、同じ「社員」として会社の発展を考え、それぞれの役割を果たしていることこそ、ユリーカさんならではの強みなのだと感じさせられました。