長時間のデスクワークによる肩こり・腰痛・手足のむくみ。デスクワーク勤務の方なら誰しも身に覚えがあることでしょう。やむなくマッサージ師による施術を受け一時的に解消するものの、また業務をしているうちにツラくなる。そんな繰り返しは働くモチベーションの低下にすらつながりかねません。
そんな不調を防ぐための秘訣(ひけつ)がオフィスチェアの「選び方」と「使い方」には隠されている、という話を聞きつけ今回訪問したのが、「キャンパス(Campus)」ブランドで知られるノートなどの文房具やオフィス家具、事務機器で知られるコクヨ株式会社(以下、コクヨ)。数々のオフィスチェアを設計してきたコクヨの奥一夫氏に、快適なデスクワークを実現するためのアドバイスと、オフィスチェア選定のコツを伝授して頂きました。
目次
なぜデスクワークがツラいのか……。
自分が座るオフィスチェアを一度じっくりと見てみよう
腰が痛くて仕事に集中できない……。足のむくみが気になってしまう……。カラダに現れる症状は人によってさまざま。例えば、比較的体格が大きめである男性は腹筋に負担がかかるのを避けようと、お尻を前にずらしのけ反るような姿勢を取りがちで、腰に大きな負担がかかります。一方、女性は、背筋を伸ばして正しい姿勢を取ろうとする人が多いものの、体格のせいで浅座りの姿勢に。その結果、ふくらはぎ部分を圧迫したり、余計な負担をかけてしまったりで、むくんでしまうことになります。
「長時間のデスクワークによる体の不調の多くが、正しい姿勢がとれていない(正しい体重の負荷分散ができていない)ことに原因があります。」と奥氏は言います。
コクヨ株式会社 ファニチャー事業部 ものづくり本部 チェアバリューチーム奥一夫(おく・かずお)
1999年入社。オフィスチェアのマーケティング・商品戦略・企画・開発 とオフィスチェア開発に関わる全般の業務に従事。進化するデバイスや変化する働き方に影響を受ける「座る姿勢」を最適にサポートするオフィスチェアを研究・模索している。
ノートPC画面に目線を合わせるため猫背になったり、窮屈な格好でキーボードを打ち続けて肩こりがひどくなったり…。自覚はしていても、なかなか正しい姿勢を取り続けるのは難しいことです。古くなった座面のスポンジがヘタってお尻が痛くなったり、調整機能が壊れたりしているようなオフィスチェアは「座る」ことしか担保されておらず、座り続けるだけで体に疲労は蓄積されてしまいます。しかし、企業の中には壊れかけであっても「座る」ことができれば買い替えは不要と考えているところも少なくありません。
「一般的にオフィスチェアの買い替え時は、購入から8年が目安とされています。ただ、日本のものづくりは品質が高く、極端な表現になりますが、使おうと思えば何年でも使えると錯覚してしまっています。イスのクッションがヘタって全くクッションとして機能していない状況でも買い替えていない例は、お客さまからよく聞く話ですね。相談に訪れた購買担当者の方から『会社の経営陣に対する説得材料を一緒に整理してほしい』なんて切実なお願いをされることもあるくらいです」と奥氏は話します。そこにはオフィスチェアの状態によって、そこに座り続けるワーカーに与えるダメージを考慮していない、という現状が浮かび上がってきます。
オフィスチェアの調整機能を正しく使えている人は少ない?
「先のクッションの話は、『イスは座れればいいのだ』という認識を、まだまだ多くの企業が持っていることを象徴しているエピソードです。しかし、オフィスチェアは座る人間にフィットした状態であれば、長時間のデスクワークにおける負担を大きく軽減し、ひいては仕事に対するモチベーションを大きくアップすることにつながります。」(奥氏)
体と心は密接に関連しており、どちらかが不調に陥ると両方悪くなる、というのはよく言われる話ですが、奥氏のお付き合いしてきたお客さまでも実際にオフィスチェアの変更が従業員のやる気の向上につながった、というケースは多いようです。
それでは、正しい姿勢をとり、デスクワークによる負担を軽減する、快適なオフィスチェアにはどのような条件があるのでしょうか。コクヨでは、快適さを実現するために「3原則」を定め、ものづくりをしているとのこと。その3原則を教えて頂きました。
①体圧が適正に分散されること
②背骨を自然なS字形状に近づけること
③適正なサイズに調整できること
これら3つの原則を実現する機能をコクヨのオフィスチェアは備えています。さらに、トップブランドとして快適なオフィスワークを実現するための『+1』(快適に座るためのもうひとつの価値)へこだわり、あくなき追求を続けています。
一人ひとり異なる体形の個人差に対応するかがポイント
座面のベース部分に骨盤を支える面形状を設け、その上に厚みのあるクッション層を乗せることで、安定した着座姿勢を保持し、体圧を適正に分散する「ポスチャーサポートシート」や、背骨をS字形上に保つ設計をはじめ、コクヨのオフィスチェアには、研究結果をもとにしたさまざまな工夫が施されています。とはいえ、人間の体形や背骨の形状は千差万別。その違いを前提に、いかに調節できるかが快適なイスを実現する最大のポイントのようです。
「一人ひとり異なる体形を前提にいかにフィットさせるか。その調節ができるかできないか、という点はオフィスチェア選定における最大と言えるポイントです。当社の製品にも座面の奥行きを細かく調節する機能や、背もたれの形状をその人にフィットさせる機能が搭載されており、体形に応じた調節が可能です。しかし、このオフィスチェアの調節機能を正しく使えている方が意外と少ないと感じています。」(奥氏)
この奥氏の言葉に思い当たりがある方もいるのではないでしょうか。確かに、座面の高さなどを変更しても、自分の体に『フィット』するよう、しっかりと細かい調節をしている姿をオフィスで目にするケースはあまり多くありません。もしオフィスチェアが調節機能を有しているのに体の不調を訴えているならば、その機能を活用していくべきでしょう。
【製品紹介】
INSPINE
オフィスチェアのフラッグシップモデル。6本のワイヤで体形にフィットする「ワイヤランバーサポート」をはじめ、快適を実現する機能が満載。
M4
不特定多数の人が座るアクティブワークに特化したチェア。フリーアドレスの増大に対応し、調節レバーのみの簡単な操作でワンタッチフィット。
PUNTO(プント)
エアバッグを用いた「エアランバーサポート」を採用。サポート力と柔軟性を持つ空気の圧力で、一人ひとりのS字形状にしっかりとフィットするスタンダードクッションチェア。
Wizard2(ウィザード2)
2つの動きを組み合わせた「デュアルモーションメカニズム」によって、自由に上半身を動かせるチェア。時間と共に蓄積する「静的疲労」を軽減する。
がんばっている社員に“部長の椅子”を!
快適なオフィスチェアは、余計なストレスから社員を開放してくれるもの。健康面でのメリットはもちろん、それによって集中力が増し、業務効率も大きく向上します。かつて、イスの快適さをアピールする映画館が多くあったように、“社員にハイスペックな椅子を用意していること”を採用のうたい文句にするIT企業もあるほどです。
「“王座”という言葉や、“部長のイス”という慣用句に見られるように、”イス”はヒエラルキーや特権の象徴とも言えます。現在でも、そうした一面は残っているかもしれません。とあるお客さまから“優秀な成績を残したチームのオフィスチェアをハイスペックなものに新調したい”といったオーダーをいただいたこともあります」(奥氏)
インセンティブといえば、お金や旅行などが一般的ですが、「部長が座るような良い椅子」をインセンティブにしてみても面白いかもしれません。努力の結晶が可視化されることで、従業員がより仕事に集中でき、大きなモチベーションが湧き出す仕掛けになる可能性すらありえます。
空間のチカラで会社を変える!
快適性に着目し、さまざまな視点からオフィスチェアを見直してみれば、それはただ座るためのものではなくなります。オフィスチェアひとつ変えただけでも、社員の生産性やモチベーションは大きく変わる。それは、デスクやオフィス空間全体のデザインにも同じことが言えるはずです。
「コクヨでは、オフィス家具を単一で捉えるのではなく、現代のビジネス課題や、働く人の動きを考慮し、よりビジネスを快適に後押しするオフィス空間を実現しています。当社のライブオフィス(※)では、単一の製品だけでなく、生産性を高め、コミュニケーションを活性化するためのモデルケースとして、実際にコクヨ社員が働くオフィスを公開しています。興味がある方は、一度足を運んでみていただければ幸いです」(奥氏)
(※)ライブオフィス http://www.kokuyo.co.jp/com/liveoffice/
全国25ヶ所 2016年10月現在(ご見学は法人のお客様に限らせていただきます)
よりよい空間のチカラは、社員の意欲を向上させ、組織を大きく発展へと導くもの。さらに、そうした会社には、さらなる優秀な人材が集まってくるものです。特に女性は快適な環境を声高に求める傾向があると言われます。「ちょっとイスが古いなぁ……」「デスクワークがつらいなぁ……」と感じたなら、それはオフィスからのサインかもしれません。ぜひ、オフィス空間全体を見直してみてはいかがでしょうか。