「働き方改革」や「リモートワーク」、「テレワーク」、「フリーランス」がトレンドワードとして注目されています。しかし、実際にリモートワークを導入し、成功している事例はあまり多くありません。
そんな中、株式会社ゲイト(東京都墨田区, 以下、ゲイト社)ではあえて本社のある東京から330kmも遠方の三重に住むフリーランスの方に社長秘書の仕事を依頼することで、本社業務を約十分の一まで激減させることに成功したそうです。
今回はフリーランスとリモートワークをかけあわせて導入し、成功に至った要因について株式会社ゲイト代表取締役五月女圭一氏(以下、五月女氏)と、三重県桑名市在住、フリーランスで五月女氏の秘書を行っている福田ミキ氏にお話をお伺いしました。
働き方改革がますます重要視される背景
まず、事例紹介の前に、リモートワークが注目されるようになった背景についておさらいします。
日本はこれから「人口減少社会」へ突入していくと言われています。厚生労働省のデータによると、日本の人口は2060 年には 8,674 万人に減少する見込みで、更に65 歳以上の人口の割合は約40%に達すると推計されています。
現在でも、少子高齢化によって労働人口の減少が大きな問題となりつつあります。また、それに加えて長時間労働や残業の習慣が日本の労働の生産性を低下させているという議論も起こり、昨今では、「働き方改革」が叫ばれています。
その中で、新しく柔軟な働き方としてリモートワークが注目されるようになりました。しかし実際に導入し、活用できている企業は少ないのが現状です。今回インタビューを行ったゲイト社は他に先駆けてリモートワークを成功させている会社といっても過言ではないでしょう。
ゲイト社は飲食店やリラクゼーションサロンの運営、農業、漁業など幅広い事業を手がけている企業です。また、福田氏はゲイト社の社長秘書として働きつつ、三重の情報を発信しているウェブマガジン「OTONAMIE」の副代表も務めています。
今回の取材で福田氏には、普段東京本社と打ち合わせ等を行う際に利用しているというビデオ会議サービス「Appear.in」を使って参加して頂きました。
今後日本が真剣に向き合わなければならない働き方の問題に、独自の考えを持って実際に改革に取り組んでいるゲイト社の様子は、これから自社の労働環境を変えていきたいと考えている方にとって参考になるはずです。前編では、ゲイト社五月女氏が考える「これからの働き方」や、リモートワーク導入の経緯をご紹介します。
株式会社ゲイトについて
——まずは、ゲイト社のサービスについて詳しく教えて下さい。
五月女氏:まず、東京都内中心に近郊も含めて20店舗程居酒屋やカフェ、リラクゼーションサロンなどを経営しています。一見、BtoCのビジネスを行っている会社のようですが、我々はBtoBのビジネスをやっている会社だと認識しています。例えば、居酒屋はBtoCに見えますが、実はビジネスでご活躍されているサラリーマンの方々に向けたサービスなので、BtoBのビジネスだと考えています。
加えて、居酒屋などの第三次産業から遡って六次産業化を行うという取り組みを始めています。飲食業界の中でも居酒屋などはコモディティ化が進んでいるものと考えられ、多くのお客様はどの居酒屋に行っても大して変わらないと思っているのではないでしょうか?我々は、「このお店は他と違う」と感じて頂けるように差別化を行うため、従来は業者から仕入れていた食材を自分たちで生産して調達しようとしています。
一般的に六次産業化とは、一次産業から始まって二次、三次と進んでいくのですが、それを逆に第三次産業側から、二次、一次と、上流に遡るような活動をしています。このような経緯で、農業や漁業、ラボなどの事業も行っています。
一方で、「第四次産業革命」と言われている内容についても取り組みを始めています。その1つが、今回テーマになっているリモートワークによる自動化・効率化に関する取り組みです。こちらは、まだテスト段階なので、クローズドサービスで行っています。
株式会社ゲイト代表取締役五月女氏が考える今後の「理想の働き方」とは
―お話でいただいたように、ゲイト社では一般的にBtoCビジネスとして捉えられている飲食業やサービス業を、あえてBtoBビジネスとして捉えて、他との差別化を図るために独自の調達ルートを確立させていったのですね。
それでは、そのような独自の成長を遂げたゲイト社では、どのような働き方が行われてるのかお伺いしたいと思います。 ゲイト社の人数構成や、社内での働き方、五月女氏自身の働き方に関する考え方についてお伺いさせてください。
五月女氏:社員数は約200弱人です。正社員契約に該当するのが20人、ミキさん(福田氏)もそうですが、フリーランスの契約の方が100人、パートタイムの契約の方が60人から70人です。
また、彼らは基本全員兼務で働いています。「この人はこれだけしかやらない」という形にはしないようにしています。加えて、組織全体を自立した集団にするために、個々が自立していくようにしたい、ということも考えています。そのため、実は、正社員の雇用契約というのも徐々に減らしていっており、気持ちの上でも自立して働きやすいようなフリーランスの契約に変えていっています。
確かに世間的には、正社員の方が、ちゃんと仕事をしているように見え、社会保険など、安心できる仕組みが整っているように見えますが、実はそれは間違っていると思っています。
やはり雇用契約だと「この時間は拘束されている」という意識が強くなってしまいます。しかし本当の意味で「働く」というのは時間拘束とは違うと思っています。フリーランスで集まって、きちんとチームで連携を取れば、時間ではなく仕事の質に意識を向けることができ、仕事の生産性も高まると考えています。
そして昨今、働き方改革が注目されていますが、私も経営者として同じように重要な課題であると感じており、できることなら主たる業務は最大でも週に4日で済むようにして、それ以外の3日間は、その主たる業務がより効率化されるように、他の仕事や趣味などに時間を使った方が良いと思っています。ミキさんのようにね。
福田氏:そうですね。私も普段の仕事とは別に、「OTONAMIE」というウェブマガジンの運営やライターをやっています。
五月女氏:やはりもう歯を食いしばって仕事をするような時代ではないので、楽しんで好きなことに取り組んでいくべきだと思っています。
福田氏:楽しければ、仕事であってもワクワクとできたり、趣味から仕事に発展していったりすると思っています。仕事と趣味の境界線がないイメージです。
今では、趣味で始めていたウェブマガジンの方で、ゲイト社の仕事と重複している部分があり、趣味だったのか仕事だったのかわからなくなってきています。例えば、ウェブマガジンで紹介するために知り合った三重の漁師さんが、ゲイト社で行っている六次産業化に向けた事業にいつの間にか参画していた、ということもありました。
——時給によって給料が決まり、決まった時間拘束される雇用契約では、「仕事をさせられている」という気分になり、仕事自体が楽しくなくなり非効率になっていく、ということですね。
自立した個人が自由に、自分がやりたいと思う仕事や、より効率的な工夫を積極的に行える職場環境は、働く側としても経営者側からしてもプラスなものなのでしょう。
リモートワークを導入し始めたきっかけ
―では、なぜリモートワークを使った効率化を始めたのでしょうか?きっかけを教えて下さい。
五月女氏:先程お話しした通り、居酒屋などの店舗ビジネスを20店舗ほど展開しているのですが、本来店舗ごとで行う会計などのバックオフィス業務を本社でまとめて行っていました。これによって店舗でやるべき業務が三分の一程度まで圧縮され、効率化を行うことができました。
ところがそれを進めていくと、今度は本社の業務が増えてしまい、もともと効率化を目的にしていたのにも関わらず、本社の業務効率が低下してしまうという本末転倒な事態に陥ってしまいました。
そこで、さらに効率化するための工夫として、2年前にミキさんと三重県桑名市に事務所を作り、そこで本社や店舗の業務を行う取り組みを始めました。あえて簡単に行くことができない場所で業務を行うことで、データや通信でやりとりすることになります。その結果、工夫や知恵が生まれて、効率化が進んでいきます。それによって本社の業務を三分の一まで減らすことができました。2段階外出しすることによって、業務量を本来の約十分の一にまで減らすことができたといえます。
―リモートワークによって約10倍の業務効率化がなされたと言っても過言ではないですね。では、桑名市で福田さんがリモートワークを行うことになったきっかけを教えて下さい。
五月女氏:まずミキさんがゲイトにメールで問い合わせをくださり、連絡を取って少しやりとりをしていたら、直感的に普通の人とは違う印象を感じたため、私が桑名に行って直接会ってみることにしました。
福田氏:私は元々東京に住んでいて銀行で働いていたのですが、夫の転勤を機に、仕事を辞めて一緒に桑名に引っ越しました。その当時、桑名で仕事を探していたのですが、楽しそうと思える仕事を見付けられませんでした。とりあえず働ければ何でもいいかなと考えてしまうこともありました。
五月女氏:ミキさんと実際に会って話を聞くと、本当は以前のように働き、やりがいのある仕事をしたいと思っていることが分かり、ミキさんのような有能な人材が地域で埋もれてしまうのはもったいないと感じました。ミキさんが今までのスキルを活かした仕事をすることが、ゲイトにとっても必要なことだとマッチングし、その場で協力することを決めました。
福田氏:当初は三重県と東京という離れた場所での働き方にイメージは全然つかなかったのですが、「実際にやってみてから考えよう」ということになりました。
五月女氏:リモートワークはとにかくやってみることが大切だと思っています。実際に始めてしまえば、難しいことは何もありません。一緒に仕事をすると決まった後は、すぐにミキさんと事務所用の物件を探しに行きました。口約束だけではなく、そのタイミングで行動に移したことで、リモートワークを実施するきっかけを作ることができました。
「リモートワークをやりたい」と言うだけではなく、実際にアクションを起こすことが大切です。もしミキさんが結論を先延ばしにしていたら、リモートワークは実施されなかったと思います。
まとめ
ゲイト社では、社員の働きやすさを重視し、楽しく仕事ができる労働環境作りが意識して行われています。このような考えが、地域でのリモートワークという新たな働き方を導入する土台となっていたと言えます。そして、導入の際に重要なポイントとなっていたのは、「あえて遠方に切り離し効率化を図ること」と、「実際にアクションを起こすこと」の二点でした。
さて、このような経緯でリモートワークを実施し始めたゲイト社と福田氏。その後、桑名市に事務所を借りて、パソコンを4台用意し、バックオフィス業務のリモートワークを始めました。
【後編】では、リモートワークの導入後の様子を詳しく見ていきましょう。また、実際にリモートワークを通じで感じた仕事や働き方に対する”想い”もお伝えしたいと思います。今後のリモートワークのあるべき姿について考えていきます。