みなさんの勤務時間のうち、メールや電話、会議などのコミュニケーションはどれくらいの時間を占めていますか?そのコミュニケーションに使用するツール次第で、仕事のパフォーマンスが大きく変化するかもしれません。今回はチャットを利用した次世代の業務のあり方について、ビジネス用のチャットサービス「チャットワーク」を運営するChatWork株式会社常務取締役CMOの山口勝幸様、プロダクトマネジメント部の小西芳樹様からお話を伺いました。
目次
−−「チャットワーク」の誕生へ至るには、どのような理念があったのでしょうか?
山口 今の日本企業では、労働力不足や業務に割ける時間の減少が問題になっています。人手の足りないなかで仕事をやり繰りするため、生産性を上げる「生産性革命」が必要とされていますが、実行にあたってのポイントは2つあります。
1つめは、時間を確保すること。無駄な作業や非効率的な手段をなくして、仕事がサクサク進む環境や文化へ変えていくことです。
2つめは、労働力を確保すること。せっかく雇った貴重な人材を逃さないよう、生き生きと働ける環境を整備することです。
この2つの効率を今の2倍にすれば、生産性は4倍になるわけです。これらを気合いと根性だけで解決するのは難しく、確保のためのしかるべき「道具」が必要ですが、日本では「道具」は高級なイメージがあって敬遠されがちで、多くの中小企業では食わず嫌いされています。
この会社を立ち上げた自分たち自身も、最初は個人事業主・零細企業といったところから始まりました。そんな時、人もお金もないなかで、心強い味方になったのがITでした。そこで、自分たちが中小企業のお手本となってITという道具を使い、幸せな働き方を作り出していくことを目指しました。
「幸せな働き方」というと漠然としていますが、働き方を変えて時間にゆとりができると、心に余裕ができて人に優しくなれる。そうして円満な人間関係を築くことで、お客様に選んでいただけるようになり、経済効果が現れる。そのような時間とお金・人に効く働き方が、「幸せな働き方」だと考えています。
幸せな働き方を自分たちが実践して全ての企業に広めていく、ということに18年間こだわり、実践し続けています。
−−「チャットワーク」のコンセプトについて教えてください。
山口 幸せな働き方を実現するにあたって普段の業務内容を振り返ると、どの企業でも業務の内訳は電話・メール・会議・移動が大半ではないでしょうか。仕事する上で情報共有・情報連携は重要ですが、そのためのコミュニケーションは非常に時間がかかります。メールに3時間、会議に2時間、電話に1時間…と考えると、実際に自分の仕事をする時間は2時間程度になり、一日の業務時間の7〜8割をコミュニケーションに費やすことになります。ここを削るための次世代型の通信手段として、チャットワークを開発しました。
コンセプトは「クラウド上の会議室」、ビジネス向けに特化したチャットサービスです。メールと違って短いメッセージでやりとりでき、必要に応じてビデオ通話や音声通話に切り替えられるので、時間短縮に繋がります。クラウド上にグループを設置することで、全員が同じ時間、1つの部屋に集まらなくても会議へ参加することができ、1つのプロジェクトのメンバー全員が情報を共有することができます。時系列順のチャットがログとして残るため、議事録のような役割をも持ち、何度でも検索して確認できます。データ・ユーザーの管理機能を設けてセキュリティ対策にも対応しています。
−−どのようにしてユーザーを獲得しているのですか?
山口 チャットワークに慣れると、枕詞を求められるメールや印刷の必要な紙媒体が面倒になるようで、既に利用している企業の方が取引先企業の方をチャットワークに招待し、フリープランで登録してもらってやり取りをする、という連鎖が起きています。そのことがユーザー数の増加に繋がります。その業界でリーダー的存在の方に利用していただき、良さを実感していただいた上でその方と一緒に業界全体へ広める、という取り組みをすることもあります。
現在は19万2千社(2018年9月末現在)にご利用いただいており、毎月3、4千社程度のペースで増加しています。
−−やはり、中小企業のユーザーが多数なのでしょうか。
山口 そうですね。とはいえ、引き合いで大企業にも徐々に広まりつつあります。他社とのやりとりのためにフリープランで登録して、使っているうちに社内でも使ってみようか?となり、チームで1人あたり500円の有料プランへ移行、ということもあります。
−−コミュニケーションの時間を短縮することで業務を効率化するとのことで、実際に導入時に目標を立てた事例はありますか?
山口 介護事業者や美容院のように、日中は利用者への対応で手一杯、その他の時間帯に練習や会議などがある業種では、そういった事例もあります。チャットワークを導入するにあたって業務改革委員会を立ち上げ、「会議の回数を年内に半分にする」という目標を設定して取り組んでいました。
−−チャットワークを使えば必ずしも対面で仕事や会議をする必要がないとなると、働き方が大きく変わりますよね。出社する必要がなくなりオフィスを縮小する、というケースもあるのでは?
山口 チャットワークを全社で導入してから、3分の1の広さのオフィスに移転してテレワークを進めた企業もあります。これが一般的になると、オフィスも通勤補助も不要になって、コスト面でも抑えられますよね。
−−さらに中小企業の方々に利用してもらうために、改善したいことはありますか。
山口 モバイル版を強化したいと考えています。お客様のうち7割が非IT系の方々で、現場を中心に働いているお客様はモバイル版をメインに利用しています。例えば建築・建設業の方々には、ビデオ通話で建設状況を確認する、という形でご活用いただいています。WEBブラウザ版と同様に、今後さらに使い勝手を良くしていきたいですね。
−−他のサービスと比較して、チャットワークの強みはどこにありますか?
小西 他のサービスもそれぞれ良いところがあるのですが、他サービスと比較した時のチャットワークの最大の特徴は大きく2つあります。1つめは、「直感的に操作できる」ところ。ITに詳しくない人が初めて使ってもわかりやすいように設計されています。2つめは、社外の人とも気軽に一つのグループで作業できるところです。チャットワークがカバーするコミュニケーションは、「業務」全体の中で行われるコミュニケーション。社外とのやりとりももちろん「業務」上で必要なコミュニケーションに含まれているので、社外の人とのグループチャットも簡単に作成できるように設計してあります。
−−全てチャットでやり取りしていると、社内での会議はほとんどありませんか?
山口 チャットではなく対面で話す必要のあることは、会議で話し合いますね。
よく社内では、「情報の共有」と「意識の共有」は分けて考えようという話をしています。前者はチャットで、後者は対面でやる必要がある。意識のすり合わせをする時、「そうじゃなくて……」と説明していると何往復にもなることがありますよね。
とはいえ、後者も最小限になるように努力しています。例えば、少し意識がずれていると感じたら、自席のまま2・3分ほどビデオ通話でやり取りすることもあります。
小西 プロジェクト・チームごとにグループチャットを設けてあり、すべてのメンバー・情報がその場に集約されているので、何か問題が発生した時はそこに書き込めば誰かが反応してくれる。そうやって会議の前に情報共有をしておくと、会議を開かなくてもその場で解決することもあります。
−−今後、チャットワークをどんなツールにしていきたいですか?
小西 「仕事の基盤」として機能するプラットフォームにしたいです。コミュニケーションは、個別に行われる様々な業務の接点にあって、判断のために意思疎通を図る、仕事のインフラの部分に位置付けています。それゆえ、業務時間との接点がとても長いのがコミュニケーションツールの特徴でもあります。
しかし、コミュニケーションだけでは仕事のすべての問題を解決できるわけではありません。どれだけ密にコミュニケーションを行なっても、勤怠管理や経費計算など、手の届かない部分があります。そこで、チャットワークを基盤として、勤怠管理システムなどの外部ツールと連携したサービスを提供できればと考えています。自社で用意するわけではなく連携サービスを充実させることで、ユーザーが自分の環境にあったカスタマイズをしながら利用できるようにしていきたいです。
−−具体的には、どういった連携をするのですか?
小西 例えば、「17時になったら承認できていない項目がないかどうか確認する」という作業は、人がわざわざ覚えておいて実行するのではなく自動化できたら嬉しいですよね。チャットとこういったものを連携して、適切なアナウンスをできるようにしていきたいです。
−−勤怠管理システム「AKASHI」との連携で、チャットワークから出勤・退勤などの打刻もできますよね。今後、さらに連携を深めていくのでしょうか?
山口 そうですね。業務の基盤になるために必要な連携を充実させて、単純な作業や自動化できることはなるべくシンプルにして、「人だからできること」に集中してほしいと思っています。
−−総務に勧めたい、チャットワークと連携できるサービスはありますか?
小西 先ほど紹介した勤怠管理システム「AKASHI」、経費申請システムなどは日常的に使用するものなので、連携しておくと便利ですね。いつも開いているチャットワーク上で出勤や退勤の打刻管理、稟議や経費精算の申請内容をリアルタイムで確認できるようになります。
あとは、ワークフローシステムで各種申請・承認をスムーズにできるようになるバックオフィスサービスの「X-point」、従業員同士で褒めたり感情を送ったりできるピアボーナスサービスの「Unipos」がおすすめです。チャット上では業務上のコミュニケーションに始終しがちなので、感情を伝えるサービスとの連携はぜひ広げていきたいところです。
山口 様々な業種で利用いただいているので、業種・業界同士で企業を繋げやすくなりつつあります。そういう業務の基盤を司るツールならではのプラットフォーム性を、今後はもっと生かしていきたいです。チャットワーク同士でコミュニケーションを取りたい、という企業がたくさん集まっているわけなので、その同じ性質を持った人々同士を繋げて、一つの経済圏として売上UPにも貢献できるような価値を提供できるようになるのではないかと。
さらに現在、「ChatWork 電話代行」「ChatWork アシスタント」のようなBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスも提供しています。社員がやる必要性の低い仕事はすぐアウトソースして、その分野を得意とする業者がスムーズに引き受けられるようにすることも、プラットフォームとして企業同士を繋ぐことに通じると考えています。
小西 様々なサービスと連携していても、ユーザーへの認知度は低いことがあります。これまでは自発的に「こういった形で活用したい」というビジョンを持った方々に活用いただいていましたが、今後は企業が導入したことがきっかけでチャットワークを始めるユーザーが増えると予想されます。そのため、悩みながら使う方がさらに増えていくことでしょう。そういった方々へ必要な情報を提供するために、ユーザーに向けてチャットワークと外部サービスとの連携法などを発信していくサイトを立ち上げ、ユーザーへの情報提供を強化する予定です。
仕事の要となる情報共有を担うコミュニケーション。場所や時間に縛られず、素早く柔軟にやり取りできる次世代のコミュニケーションツールとして誕生したチャットワークは今、様々な業界の働き方へ変化をもたらしています。皆さんも日々の業務の効率化を考えるにあたって、コミュニケーションのあり方を見直してみてはいかがでしょうか。
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