<左>勝山 竜矢氏 <中央>工藤 博樹氏 <右>副島 智子氏
近年、IT技術の発達により、バックオフィスのアウトソーシング化が進んでいます。これからの時代、バックオフィスはどうあるべきなのか、またそれはどうすれば実現できるのか。今回は、バックオフィス業務を客観的に分析し、コンサルティングするサービスベンダーの3人に「これからのバックオフィス業務」をテーマに語り合ってもらいました。
【プロフィール】
副島 智子氏 株式会社KUFU 労務手続きを自動化するクラウド型ソフトウェア「SmartHR」のプロダクトマネージャー
工藤 博樹氏 中小企業向け経理代行サービスを提供するメリービズ株式会社の代表取締役社長
勝山 竜矢氏 中小企業専門の給与アウトソーシング会社「株式会社リーガルネットワークス」代表
―ソムリエ編集部:お忙しい中、お集まりいただきありがとうございます! まずは自己紹介を兼ねて、みなさんがバックオフィスとどのような関わりを持っているのか教えてください。
副島さん:社会保険・雇用保険の手続きを自動化できる「SmartHR」というクラウド型ソフトウェアサービスを提供しています。人事や労務担当者が今まで紙で扱っていた履歴書や各種申請書を簡単にデータ化できるサービスなので、労務管理を行うバックオフィス担当の方や社労士さんとのやりとりが多いですね。個人としても、数名から数千人規模の企業で人事と労務を経験してきました。
工藤さん:ウチは「メリービズ」という経理のアウトソーシングサービスを提供しています。330人の簿記や経理の知識を持つ在宅スタッフが、レシートや領収書、通帳のコピーなどの金額の入力を、経理の方や税理士さんの代わりに代行するサービスです。
勝山さん:僕は社会保険労務士として、中小企業さまをメインにコンサルティングしています。いわゆるスタートアップ企業が多いこともあり、労務管理だけでなく経営面を含めて幅広い相談を受けることが多いですね。
―ソムリエ編集部:みなさんのようなアウトソーシングサービスが充実してくることによって、仕事を奪われてしまう、と心配するバックオフィスの方も出てきそうですが、実際バックオフィスがいらなくなるということはあるのでしょうか。
副島さん:そういった不安を持つ方の声を実際に聞いたことはありますが、バックオフィスはなくならないと思います。バックオフィスは会社の潤滑油的な役割も担っているからです。人の気持ちを察したり、企業の理念や価値観を踏まえて仕事を進めたりするのは人間にしかできないことです。
工藤さん:同じ意見ですね。私たちはバックオフィスの方々がより働きやすい環境、よりクリエイティブな仕事ができる環境を作ることを目指しています。経理に関して言えば、自分たちの業務を見直して生産性を上げたり、ミスを減らしたり、数字を分析して経営課題を見つけたり。こうした業務は会社にとって大きな価値があると思うので、バックオフィスの必要性がなくなるとは一切思っていません。
勝山さん:ただ、環境が変わっていくので、求められるスペシャリティは変わっていくと思います。バックオフィスの方は今後マネジメントの領域に入っていくべきだと個人的には考えています。会社を俯瞰できる立ち位置だし、社長さんに近いところで働いていることも多いので、本人の意欲次第で可能なはずです。価値を生み出す仕事にはやりがいがありますしね。
―ソムリエ編集部:みなさんそれぞれの立場でバックオフィスの必要性を感じられていると思うのですが、今のバックオフィスにはどんな課題が見られるのでしょうか?
工藤さん:総務や経理の方たちが本来力を入れるべき仕事は、誰でもできる単純作業ではないと思います。注力すべきは、会社を良くするための施策を考えたり、情報を分析したりといったクリエイティブな部分。ここに集中できていないことが問題だと思っています。
勝山さん:労務関係の仕事に関して言えば、仕組み化すべきことが仕組み化できていないというのが、課題の1つとして挙げられます。労務の仕事は定型のものが多く、だいたい決まったフォーマット上での作業なので、仕組化できる部分は多いんです。
副島さん:人事労務の面から見ると、従業員がどうやったら輝けるか、どうしたら働きやすい環境ができるのかを考えるのが大事な仕事のはずなのに、その時間を確保できているところの方が少ないですね。給与計算、勤怠管理、そのほかにも処理する仕事が膨大にあって、それに追われてほかのことを考える余裕がないという企業が多いんじゃないでしょうか。
工藤さん:便利なツールやソフトウェアへの投資に積極的じゃない企業も多い気がします。
勝山さん:そうですね。直接売上を上げるための営業ツールだったら飛びつくんでしょうけど…(笑)。
―ソムリエ編集部:そういう状況を変えていくためにはどうしたらいいんでしょうね。
工藤さん:まず経営トップがバックオフィス業務に関心を持つことではないでしょうか。そうすると、いろんな疑問が出てくるはずです。生産部も経理部も支店も同じデータを入力しているけど、これってひょっとしたら無駄なんじゃないかといったことです。
副島さん:たくさん事業所がある会社だと、ちょっとした人事労務系の手続きが発生しただけで、何回も郵送で書類のやりとりを行い、コストも時間もかなりかかっている場合もあります。それを知ったらトップの方もきっと対策を考えますよね。
勝山さん:バックオフィスの仕事はミスが許されないものが多いので、現場の方が保守的になってしまうのはよく分かります。でも、それでは何も変わりません。経営者の方には、バックオフィスで働く方たちにチャレンジする機会を与えてほしいですね。新しい仕事の進め方や、効率化するためのツールを取り入れてみるとか。
工藤さん:そうですよね。あるクライアントは、総務や労務などにシステム投資を積極的に行っていて、役員の方が「業務ごとにバラバラになっていたシステムが繋がって、もうすぐ稼働するんだよ」とうれしそうに効率化を進めています。こうした方の元なら、バックオフィスの皆さんも活き活きと働けると思います。
―ソムリエ編集部:経営トップとバックオフィスで働く人、それぞれにマインドチェンジが必要ですね。
工藤さん:バックオフィスの業務に関心を持って、積極的に投資していくためには、まず経理や総務の業務に対する認識を変えていくと良いのではないかと思います。バックオフィスはそれぞれのスペシャリティを発揮したクリエイティブな業務をする部門だと。現場で働いている人たちには、世の中を見渡すといろんな仕事の進め方やサービスがあるということを知ってほしいですね。
副島さん:私も同じですね。バックオフィスへの投資は、すぐには効果が出ないし、目に見えづらいものですが、採用面での効果など意外なところでリターンがあるので、前向きに考えていただきたいです。バックオフィスで働いている方には、今までやってきたやり方を変えるというチャレンジをしてほしい。それがご自身のキャリアのプラスになると思います。
勝山さん:経営者の方には、自分たちがやろうとしているコア事業に注力するためにも、バックオフィスの強化を経営戦略の中に入れてもらえたらと思っています。バックオフィスで働く方には、目の前の仕事をただこなすのではなく、総務なり人事なりの職種の人間として会社の課題にどうアプローチできるのかを考えてほしいです。人材の流動化が進む今、自分がどんな成果を残してきたのか、どんな風に業務改革したのか、という経験はご自身の価値を大いに高めてくれるはずです。
―ソムリエ編集部:ありがとうございました!
バックオフィスは会社を俯瞰して見ることができ、経営者にも提案しやすい立ち位置にいるから、会社を良くするための「仕掛け」をするチャンスも多いですよね。それってすごくクリエイティブだし、やりがいも大きいと思います。
ただし、それをするためには、時間的にも頭のスペース的にも余裕が必要。業務の仕組み化やアウトソーシングの利用も前向きに考えていきたいですね。
以上、ソムリエ編集部員のレポートでした!
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