交通の利便性が高く、アジアや九州の玄関口と言われる福岡県。自治体からのUターンやIターン転職への支援が後押しとなり、人口増加を続けています。2017年には政令市で初の「ふくおか『働き方改革』推進企業認定事業」をスタートさせ、今もっとも「働き方改革」に力を入れている都市。その福岡の地に根付いて「働き方改革」を推進しているアドバンスの伴 芳夫先生に、改革にあたっての具体的な取り組み方を教えていただきました。
伴 芳夫
社会保険労務士法人アドバンス 代表社会保険労務士・所長
主に企業の労働環境の整備(人事制度の構築や規則の作成など)を行う。自社内で実際に行ったコミュニケーション方法や環境づくりなどの生きた情報を元に、クライアントへ「働き方改革」を提案・推進している。
目次
人材確保のためには「働く環境」の見直しが必要
—さまざまなクライアントと関わっていらっしゃると思いますが、福岡の「働き方」の実情はいかがですか?
主要都市が抱える課題と同様に、私が担当するクライアントの中小企業の多くが人手不足や従業員定着率の低さを大きな問題として挙げています。従来通りの採用方法でよい人材が獲得できたとしても、働く環境や制度が整っていないと人材はすぐに離れていってしまう……。企業側が受け入れ体制として、従業員が働きやすい環境の整備や多様化するライフスタイルに合った制度を設けていくなど、これまでとは違った対応が必要になってきます。
特に福岡県の中心地である福岡市中央区は全国で最も女性比率が高い市区町村ということもあり、働く女性が多い街。そのため、女性のライフスタイルにあった柔軟な制度もこれから検討していく必要が出てくるのではないかと思いますね。
ただ、これまでの環境や体制を変えることで企業側の負担が増え、業務に悪い影響が出てしまうことを懸念してなかなか一歩踏み出せないクライアントが多い。大手企業のようなことはできない。でも中小企業であるからこそ、フットワーク軽くできることがあるはず。そこでまずは、私の事務所で何ができるのか?スタッフたちとも相談しながら、成功事例をクライアントにフィードバックできるようにと「働き方改革」の一歩となる取り組みをスタートしました。
課題の周知・改善に役立つ「ふくおか『働き方改革』推進企業認定事業」
—具体的にはどのような取り組みをされたのでしょうか?
これまでも独自にさまざまな取り組みをしてきたのですが、改めて自社の課題を見直していた時に「ふくおか『働き方改革』推進企業認定事業」が始まることを知りました。この事業が指標として選定した「取り組み項目」全28項目のうち、16項目以上の実績がある企業を認定するということだったので早速、私の事務所でどこまでクリアできているのかチェックしたんです。すると、これまで取り組んできたことばかりで。クリアできていないところもあと少し手を加えれば改善できそうなものでした。一見、ハードルが高そうに見える認定事業ですが、蓋を開けて見たら意外にも手の届く取り組み内容。これはクライアントの「働き方改革」の参考資料としても役に立つなと感じました。認定を受ける・受けないに関わらず、この取り組み項目を参考にしながら、少しずつ課題発見・改善していくことで中小企業の働き方を変えていくことはできると思います。
そして、こういった認定を受ける際には、過去の「従業員の労働時間」を示す資料を提出する必要が出てきます。その場合は、AKASHIなどの勤怠管理システムを導入しているととても便利だと思いました。アナログで資料をつくるのはかなりの労働ですから……。作業効率や生産性を上げるためにシステムを導入していくというのも、一つの環境づくりですね。
企業の特性やよさを魅力的にアピールする!
—人材確保・離職率を下げるために企業がすべきことはなんでしょうか?
働きやすい環境が整っていることをアピールするのが大切だと思います。「ふくおか『働き方改革』推進企業認定事業」の認定企業を目指しているのもそのうちの一つなんですよね。あと私の事務所では2017年4月の移転をきっかけにスタッフが自由に使えるブックカフェラウンジを、一級建築士の方に設計してもらいました。デザインの力は大きいですね!これまで以上にスタッフの笑顔が見られるようになりました。
このブックカフェラウンジでは毎朝の朝礼や、キャリアアップのための就業後の勉強するスペースとしてスタッフに使ってもらっています。朝礼ではスタッフ持ち回りでアイディアを出し合って、毎朝15分間コミュニケーションを図るゲームなどを実施していますね。これまでに行ったものだとレゴで乗り物をつくったり、ヨガをやったり。仕事以外のコミュニケーションを深める場として活用していけたらと思っています。
あとは、最近フットサルチームを結成したんですよ!事務所としては余暇の支援としてオリジナルで作成したユニホーム代の半額補助をしました。この取り組みは嬉しいことにスポーツ庁より「平成29年度スポーツエールカンパニー」として、福岡市の企業では唯一認定を受けました。また他にも年次有給休暇を1週間まとめて取るように促していますね。有給休暇の消化という意図もあるのですが、休暇の間は周りにサポートしてもらう必要が出てきます。あえてそういった状況をつくりスタッフ同士の協力体制を育むことが、仕事によい影響を与えてくれるんです。「大手企業でないと、なかなかできないよね」というクライアントも多いのですが、逆に提案しています。このように何か形として「見える」企業の魅力が、人材確保につながっていくんですから。
社内での円滑なコミュニケーションが課題を改善!
—実際に社内で起こった問題・課題などはありますか?
育児制度ですね。法律上、育児休業はお子さんが1歳になるまで・保育園に入れなければ最大で2歳まで取れることになっています。短時間勤務は3歳になるまで対応することを企業に義務付けています。3歳以降は法律上短時間勤務の制度はありません。ですが、それまで保育園にお子さんを預けてフルタイムで働いていたうちの正職員スタッフの女性が、お子さんが小学校に入った時に相談があったんです。「小学校の学童保育だと保育園よりも早く帰宅しないといけなくなるので、これまで通りに働けないのでパートになるか、退職するかどうしようか」と。とても戦力になっていたので、どうにかならないかと本人にも色々ヒアリングしました。
すると、小学校高学年になればある程度手が離れるということだったので、お子さんが小学校低学年までの間は1時間の時短勤務を認めることにしました。元々は8時間のところを7時間勤務としたんです。3歳までは2時間の時間短縮を義務付けているので2時間でよいのでは?という意見もありましたが、6時間勤務となってパートの方と変わらなくなってしまう。それだとパートの方からの不満が出てしまうので、うちでは3歳〜小学校低学年の間、正職員のまま1時間の短時間勤務を認めることにしました。該当者だけでなく、その周囲のスタッフともバランスを取ることも大切。コミュニケーションを密に図ることは人材確保にもつながりますし、トラブルを未然に防ぐという役割も果たしてくれますね。
こういった小さな課題を丁寧に一つ一つ「改善」していくことで結果、大きな「働き方改革」へと発展していくんです。少しずつでもいいので中小企業の方々にも取り組んでいってほしいですね。
編集後記
魅力的な企業だということを社会へとアピールしていくこと。小さい課題を少しずつでもクリアしていくことが、よい人材確保への道だと伴先生は語ってくださいました。そして何よりコミュニケーションの活性化は必要不可欠。政令市の中で住みたい街ナンバーワン・福岡の地で育まれている「働き方改革」が、全国へと広がっていく日もそう遠くなさそうです。
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