2016年春、とあるドラマが話題となりました。その名も、「ゆとりですがなにか」。“ゆとり世代”と呼ばれるアラサーの若者たちが懸命に生きる姿をリアリティたっぷりに表現し、オリコンのドラマアワードで脚本賞・主演男優賞・助演男優賞とトリプル受賞するなど、非常に高い評価を受けました。
読者の中には、ゆとり世代の社員に振り回されている人、周りにはゆとり世代の社員がいないためその実態が分からない人、自分自身がゆとり世代だという人、様々な人がいることでしょう。“ゆとり世代”に対して抱くイメージは人それぞれあると思いますが、そのイメージは果たして実態と合っているのでしょうか? 今回は“ゆとり世代”の若者たちにインタビューを行い、その生態に迫ってみました。
“ゆとり世代”がいつからいつまでを指すのかは、諸説あります(広い意味では、いま40代の人だって“ゆとり世代”なのです!)。しかし一般的には、2002年に施行された学習指導要領で教育を受けた世代のことを指すことが多いでしょう。
この考え方でいくと、2016年現在で20代の人は、ほぼ“ゆとり世代”に該当することになります。一口に“ゆとり世代”といっても、20代ほぼ全員と、その対象は幅広いのです。
“ゆとり世代”は、他の世代から揶揄されることが多いという印象です。しかし、本当に“ゆとり世代”は劣っているのでしょうか? まずは、学力の面から検証してみましょう。
ここで参考になるのが、2012年に行われた国際学力調査(PISA2012)です。この調査では、日本の子供たちの成績は科学的リテラシーと読解力がOECD加盟国中第1位、数学的リテラシーがOECD加盟国中第2位と、世界的に見て高水準にあるという結果が出ました。また、読解力・数学的リテラシー・科学的リテラシーの3分野すべてにおいて、比較可能な過去の調査回と比べて平均得点が高いという結果が出ているのです。
この調査を受けたのは、2012年に高校1年生だった世代。なんと、小学校・中学校をまるまる“ゆとり教育”の中で過ごした、“ハイパーゆとり世代”なのです。どうやら、“ゆとり世代”は学力が低い、とは言い切れないようです。
確かに“ゆとり世代”は、学力的には高い水準にあるのかもしれません。しかし、他の世代から揶揄されているということは、やっぱり何かしらの欠陥があるのではないのでしょうか? 例えば、“ゆとり世代”はとんでもなく意識が低くて、上の世代の人たちに日々「この、“ゆとり”め!」と罵られているのではないでしょうか?
…ということで、それを検証すべく、実際の“ゆとり世代”の若者たちにインタビューをしてみることにしました。でも、まずはその前に。“ゆとり世代”ではない、少し上の世代の人に“ゆとり世代”の印象について聞いてみましょう。
Aさん(女性、年齢は秘密) 「“ゆとり世代”は、本当にひどい! 時間は守らないし、上の人に注意をされても全然直さずに平然としているし、そもそもまず謝らない」 |
…なるほど、なかなか“ゆとり世代”への不満が溜まっている御様子。きっと、“ゆとり世代”のトンデモ社員に、大変な目に遭わされたのでしょう。
そして、“ゆとり世代”の若者たちは、上の世代の人々に日々「ゆとり!」と責められ、さぞや肩身の狭い思いをしているのではないでしょうか。
それではいよいよ、“ゆとり世代”の若者たちの声を聞いてみましょう。
Bさん(27歳女性、社会人5年目) 「うーん、“ゆとり!”と言われたことはないですね。私が優秀だからでしょうか。…というのは冗談ですが、仮にゆとりだなぁと思っても、あまり本人には言えないのかもしれませんね」
Cくん(26歳男性、社会人4年目) 「僕は“ゆとり”と言われたことないです。周りの友達も言われていないから、あまり自分が“ゆとり世代”であるという実感がありません」
Dくん(24歳男性、社会人2年目) 「僕も言われたことはないですね」
Eくん(24歳男性、大学院1年生) 「僕も言われたことはないです。そもそも学生で、周りもみんな同世代なので、上の人たちに“ゆとり”と言われるシチュエーションにならないです。」 |
…なんと意外にも、「自分が“ゆとり”だと罵られたことがある」という人はいませんでした。それでは、“ゆとり世代”とは幻想だったのでしょうか…?
Cくん(26歳男性、社会人4年目) 「自分はいま社会人4年目なのですが、自分より下の代で入ってきた子に対してゆとりだなぁと思うことはあります」
Dくん(24歳男性、社会人2年目) 「社内で“ゆとり”と言われている人はいます。その子は1年目なのですが、平気で嘘をついたり、やるべきことをやっていないのにそれを報告もしなかったり…というような問題行動を起こしています」 |
…なんと、“ゆとり世代”が下の世代を“ゆとり”だと感じているとのこと!そして、“ゆとり世代”のトンデモ社員は確かに存在するのですね。
ただ、ここまで聞いた話から考えてみると、巷で騒がれている“ゆとり世代”の問題は、単なる世代の問題ではないという気がしてきます。若くて社会経験が未熟な人のうち、ごく一部の人がその未熟さ故に過ちを犯してしまい、それが“ゆとり世代”全体の問題とされているのではないでしょうか?
このことを踏まえると、若者が何かミスをした場合に「あいつは“ゆとり世代”だから」ということで終わらせてしまうのは大変危険です。誰でも若いうちは社会経験が不足していて、時にはミスもします。その若者を粘り強く指導して立派に成長させるのは、上の世代の責任なのです。
最後に“ゆとり世代”の若者に、上の世代の人にどう接してほしいかを聞いてみました。
Bさん(27歳女性、社会人5年目) 「甘やかしてほしいです。…すみません、嘘です。まぁ、あまり“ゆとり世代”だということを意識せずに、普通の人間として接してもらえればよいです」
Eくん(24歳男性、大学院1年生) 「自分はまだ就活もしていない身なのですが、仕事上で厳しく接してもらう分には大歓迎です。ただ、こうあるべき、という価値観の押し付けはやめてほしいですね」 |
…上の世代の方々、肝に命じましょう。
いつの時代も、若者は扱いにくいとされてきたもの。身近に“ゆとり世代”の社員がいるみなさま、「あの子は“ゆとり世代”だから…」という先入観は持たず、ぜひ暖かくその成長を見守ってあげてみてください。
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