2015年9月、労働者派遣法が改正されました。労働者派遣法は、派遣労働者の保護や雇用の安定を目的として定められた法律ですが、近年では、派遣労働者を受け入れる派遣先企業に対しても、派遣労働者の待遇改善や正社員転換のための積極的な取り組みが求められています。
今回は、労働者派遣法の概要や、派遣労働者を受け入れるにあたって企業に求められる事項について解説します。
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労働者派遣法は、労働者派遣事業の適切な運営を確保するとともに、派遣労働者の保護を図ることで、派遣労働者の雇用の安定や福祉の増進に資することを目的として定められた法律です。正式名称は、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」といいます。
労働者派遣は、「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること」と定義されています。労働契約上の雇用主(派遣元)と業務の指揮命令を行う者(派遣先)が異なることから、労働者派遣には、雇用主責任が不明確になりがちであるという課題があります。また、派遣労働者は正社員と比べて賃金水準が低いことや、正社員の職に就けずに不本意ながら派遣労働者として働いている人の割合が高いことも課題となっています。
労働者派遣法は、このような課題を解消することを目指し、派遣元企業・派遣先企業について様々な責務を定めています。さらに、労働者派遣法は2015年に改正され、派遣労働という働き方やその利用は臨時的・一時的なものであることを原則とするという考え方のもと、常用代替を防止するとともに、派遣労働者のより一層の雇用の安定やキャリアアップを図ることとされました。
労働者派遣法では、派遣元企業・派遣先企業それぞれについて、様々な責務を定めています。ここでは、労働者派遣法の概要について、主に派遣先企業に求められる事項を解説します。
労働者派遣法では、下記の事項について禁止されています。
港湾運送業務、建設業務、警備業務、病院等における医療関係の業務(紹介予定派遣等の場合を除きます)については、労働者派遣が禁止されています。
派遣先は、派遣労働者の国籍、信条、性別、社会的身分、派遣労働者が労働組合の正当な行為をしたこと等を理由として、労働者派遣契約を解除することはできません。
また、派遣先の都合により派遣契約を解除する場合には、派遣労働者の新たな就業の機会の確保や、休業手当等の支払いに要する費用の負担など、派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置を講じなければなりません。
派遣労働契約の締結にあたっては、紹介予定派遣の場合を除き、派遣先が派遣労働者を指名することや派遣就業の開始前に派遣先が面接を行うこと、履歴書を送付させることなどは原則的にできません。
派遣先は、自社で直接雇用していた社員やアルバイト等の労働者(60歳以上の定年退職者は除きます)を、離職後1年以内に、派遣労働者として受け入れることはできません。
2015年9月30日以降に締結された労働者派遣契約に基づく労働者派遣については、すべての業務で、「派遣先事業所単位の期間制限」と「派遣労働者個人単位の期間制限」の2つの期間制限が適用されます。
派遣先の同一の事業所に対する派遣可能期間は、原則3年が限度です。派遣先が3年を超えて派遣の受け入れを継続しようとする場合、派遣先は、その事業所の過半数労働組合から意見を聴く必要があります。意見聴取は、事業所単位の期間制限の抵触日の1ヶ月前までに行うことが必要です。
同一の派遣労働者を、派遣先の事業所における同一の組織単位(「課」など)に派遣できる期間は、3年が限度とされています。
派遣元事業主に無期雇用されている派遣労働者を派遣する場合や、60歳以上の派遣労働者を派遣する場合、一定期間内に完了する有期プロジェクト業務に労働者を派遣する場合、日数限定業務(1ヶ月の勤務日数が通常の労働者の半分以下かつ10日以下であるもの)に派遣労働者を派遣する場合などは、例外として期間制限の対象外となります。
派遣労働者を受け入れるにあたって、派遣先には、下記の事項が求められています。
派遣先は、受け入れる派遣労働者について、社会保険・労働保険の加入が適切に行われているかどうかを確認することが必要です。
派遣先は、受け入れ事業所ごとに、派遣先責任者を選任し、派遣先管理台帳を作成しなければなりません。また、派遣労働者からの苦情の処理体制を整備する必要があります。
派遣先は、派遣労働者の労働時間を適正に把握する必要があります。派遣先が派遣労働者に時間外労働や休日労働を行わせる場合、派遣元の事業場で締結・届出された36協定が必要であり、この範囲を超えて時間外労働等を行わせた場合、派遣先が労働基準法違反となってしまうので注意しましょう。
労働者派遣法では、派遣先は、派遣先管理台帳に派遣就業日ごとの始業・終業時刻等を記載し、これを派遣元に通知しなければならないと定めています。勤怠管理システム等のツールを活用しながら、派遣労働者の労働時間を適切に管理することが欠かせません。
派遣労働者と派遣先で同種の業務に従事する労働者との待遇の均衡を図るため、派遣先に対して、以下の配慮義務が課せられています。
◯派遣元に対して、派遣先の労働者に関する賃金水準の情報提供等を行うこと
◯派遣先の労働者に業務に密接に関連した教育訓練を実施する場合に、派遣労働者にも実施すること
◯派遣労働者に対して、派遣先の労働者が利用する福利厚生施設(給食施設・休憩室・更衣室)の利用の機会を与えること
派遣労働者のキャリアアップ支援のため、派遣先には、下記の事項が求められています。
派遣先は、組織単位の同一業務に同一の派遣労働者を継続して1年以上受け入れており、派遣元からその派遣労働者を直接雇用するよう依頼があり、派遣終了後に引き続き同一の業務に従事させるために労働者を雇用しようとする場合、受け入れていた派遣労働者を雇い入れるよう努めなければなりません。
派遣先は、同一の事業所で同一の派遣労働者を継続して1年以上受け入れており、その事業所で働く正社員を募集する場合、受け入れている派遣労働者に対して正社員の募集情報を周知しなければなりません。
派遣先は、同一の組織単位の業務に継続して3年間受け入れる見込みがある派遣労働者について、派遣元からその派遣労働者を直接雇用するよう依頼があり、その事業所で働く労働者(正社員に限りません)を募集する場合、受け入れている派遣労働者に対して、労働者の募集情報を周知しなければなりません。
2015年10月以降、派遣先が違法派遣を受けた時点で、派遣先が派遣労働者に対して、派遣元との労働条件と同じ内容の労働契約を申し込んだとみなす「労働契約申し込みみなし制度」が施行されています。
この制度の対象となる違法派遣の類型は、下記のとおりです。
○派遣労働者を禁止業務に従事させること
○無許可事業主から労働者派遣の役務の提供を受けること
○事業所単位の期間制限に違反して労働者派遣を受けること
○個人単位の期間制限に違反して労働者派遣を受けること
○いわゆる偽装請負等
派遣先が労働契約の申込みをしたものとみなされた場合、みなされた日から1年以内に派遣労働者がこの申込みに対して承諾する旨の意思表示をすることにより、派遣労働者と派遣先との間で労働契約が成立します。
近年では、派遣労働者の保護や雇用の安定という観点に加え、派遣労働者の待遇改善やキャリアアップが重視されるようになってきています。
派遣先企業においても、例えば3年間の期間制限の抵触日となるタイミングで、派遣労働者を正社員として雇い入れることを検討するなど、積極的に派遣労働者の正社員転換に取り組むことが重要だといえます。
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