2015年度の不払残業代は約100億円!―監督指導による賃金不払残業の是正結果について

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公開日:2017.1.20

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2016年12月末、厚生労働省は2015年度の監督指導による賃金不払残業の是正結果を公表しました。この結果によると、2015年度の監督指導により100万円以上の残業代不払いが認められた企業は1300社を超え、支払われた割増賃金の合計額は約100億円に上ることが明らかとなりました。

今回は、賃金不払残業の是正結果の概要や、賃金不払残業を防止するために企業が行うべき取組について解説します。

 

監督指導による賃金不払残業の是正結果について

労働者が長時間労働や残業代不払いに悩まされているとき、まず相談するのが都道府県労働局や労働基準監督署です。労働基準監督署は、労働者の申告等に基づいて、企業が労働基準法等の労働関係法令に違反していないかについて立入調査を行い、法令違反が認められた場合には事業主等に対して是正指導を行います。

厚生労働省は、時間外労働などに対する割増賃金が支払われていないとして労働基準法違反で是正指導した結果、不払いの割増賃金が労働者に支払われたもののうち、支払額が1企業で合計100万円以上となった事案を毎年とりまとめ、公表しています。

2016年12月末、2015年度の監督指導による賃金不払残業の是正結果が公表されました。是正結果の概要は、次のとおりです。

 

2015年度の監督指導による賃金不払残業の是正結果のポイント

・是正企業数(100万円以上):1,348企業(前年度比19企業増)

・支払われた割増賃金合計額:99億9,423万円(同42億5,153万円減)

・対象労働者数:9万2,712人(同11万795人減)

・支払われた割増賃金の平均額:1企業当たり741万円、労働者1人当たり11万円

・1企業での支払額上位3社:金融業「1億3,739万円」、その他の事業(協同組合)「1億1,368万円」、電気機械器具製造業「9,009万円」

 

過去10年分の是正結果を見てみると、ピーク時の2007年と比較し、是正勧告企業数および是正支払額は、ともに減少傾向にあります。

しかし、未だに年間10万人近くの労働者に賃金不払いが認められるのが現状であり、すべての企業において徹底した労務管理を行うことが求められています。

 

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違反企業の取組事例

厚生労働省は、2015年度の監督指導の対象となった企業において行われた、賃金不払残業の解消のための取組についても公表しています。厚生労働省の公表事例の中から、金融業A社と製造業B社の取組事例を紹介します。

 

金融業A社の事例

労働基準監督署(以下、労基署)の監督指導が入る前、A社の労働者は始業・終業時刻を手書きで「申告書」に記入し、A社はそれに基づいて賃金の計算を行っていました。

しかし、労基署が夜間に立入検査を行ったところ、複数の店舗で、労働者が自己申告した終業時刻以降も働いていることが認められました。

また、店舗内外や近隣の公共施設における清掃活動を「ボランティア活動」と称していましたが、この時間について、労働時間に該当する疑いが認められました。

 

労基署による指導内容

労基署はA社に対して、「申告書」の始業・終業時刻が適正であるか実態調査を行い、適正でない場合には賃金の不足額を労働者に支払うよう指導しました。

また、ボランティア活動とされていた清掃活動について、参加が義務付けられている場合には労働時間として取り扱い、適正な賃金を支払うよう指導しました。

 

A社が実施した解消策

A社は労基署の監督指導を受け、労働者のパソコンのログなどを調査し、労働時間の実態調査を行いました。その結果、賃金不払残業が認められたため、不払いであった2年間の割増賃金(約770人分、約1万5,000時間分)を支払いました。

また、 労働時間の管理については、手書きによる「申告書」を廃止し、新たに静脈認証システムによる出退勤管理システムを導入しました。

さらに、従来賃金が支払われていなかった近隣の清掃活動については、従事した場合に手当を支給するようにしました。

 

製造業B社の事例

労基署の監督指導が入る前、B社の労働者は、始業・終業時刻をICカードにより入力していました。また、入力された始業・終業時刻と併せ、入退門記録によって労働時間が管理されていました。

しかし、労基署の調査により、多くの労働者について終業時刻と退門時刻の乖離(最長12時間)が認められ、申告されていた乖離の理由(「自己研修」や「本人都合による業務外の出社」など)についても、メールの送受信記録から、虚偽である疑いが認められました。

 

労基署による指導内容

労基署はB社に対して、割増賃金が適正に支払われていないことについて是正勧告を行うとともに、労働時間に関する実態調査に基づいて不足額を支払うよう指導しました。

また、労働時間を適正に把握することや、時間外労働を削減することについても指導を行いました。

 

B社が実施した解消策

B社は労基署の監督指導を受け、労働者に「労働時間確認書」を提出させることなどにより、労働時間に関する実態調査を行いました。その結果、賃金不払残業が認められたことから、不払いであった14ヶ月間の割増賃金(約380人分、約2万7,800時間分)を支払いました。

また、始業・終業時刻と入退門時刻に30分以上の乖離が認められた場合には労働者に詳細な理由を申請させて上司の承認を得ることや、休日出勤をする際には事前申請を行うこと、正しく自己申告が行われているかを把握するために人事責任者と労働者の面談を実施することなどの改善策が講じられました。

 

賃金不払残業を防止するためには

賃金不払残業を防止するには、労働時間を適切に管理することが何よりも欠かせません。労働時間を管理するにあたっては、労働者自らの手書きによる申告ではなく、勤怠管理システムなどを用いて客観的に記録することが望ましいといえます。

また、A社とB社の事例から分かるとおり、実労働時間と申告時間の乖離は、賃金不払残業の大きな原因となります。労働時間を虚偽なく申告するよう労働者を教育するとともに、実労働時間と申告時間が乖離していないかを適宜確認し、必要に応じて労働者と管理者の面談を実施するようにしましょう。

厚生労働省が2016年12月に公表した「過労死等ゼロ」緊急対策では、違法な長時間労働を是正するため、労働者の実労働時間と申告時間に乖離がある場合に使用者が実態調査を行うことなどを定めたガイドラインを策定する方針が示されています。こちらも併せて確認するようにしましょう。

 

・関連記事:長時間労働や過労死を撲滅!厚生労働省、「過労死等ゼロ」緊急対策を公表

 

なお、A社の事例では、労働者が行う清掃活動に対して賃金を支払っていないことも問題とされました。A社の事例から分かるとおり、賃金不払残業を防止するためには、労働時間の範囲を正確に把握することが重要です。どのような業務が労働時間に該当する可能性があるかについては、下記の記事で解説していますので、参照してください。

 

・関連記事:着替えや仮眠も?!―「労働時間」の範囲、徹底解説!

https://ak4.jp/column/working-time/

 

 

まとめ

賃金不払残業は、労働者の勤労意欲を低下させるだけでなく、企業の社会的評価を著しく下げてしまう恐れもあり、今後の企業運営に影響を与える可能性が大きいといえます。

また、残業代の不払いが裁判になった場合、残業代の不払い部分を支払う必要があるだけでなく、それと同額の付加金の支払いが命じられる可能性もあります。

残業代の不払いが裁判で争われた事例については、下記の記事で紹介していますので、参照してください。

 

・関連記事:判例から見る!残業代未払いが企業に与えるリスク

https://ak4.jp/column/precedents-of-overwork-pay/

 

 

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