「治療」と「就労」ー両立のため適切な職場環境を作りましょう

近年がんなどの疾病治療と仕事の両立へのニーズが高まっており、病気を抱える労働者の9割以上が仕事を継続することを望んでいるという報告もあります。しかしこれらの両立支援が不十分なために、病気を抱える労働者の就労継続や治療後の復職は多くの企業で困難な状況です。今回は、「治療」と「就労」を両立させるため、企業が行うべき支援とその注意事項について解説します。

治療と就労の両立とは

平成25年の厚生労働省の調査によれば、国内の70%近くの企業において、疾病により1ヶ月以上休職している従業員がいるとされています。また、かつては治療が困難だった疾病においても生存率が向上したことで、労働者が病気になったからといって、すぐに離職という状況は現在あてはまりません。

しかし、疾病や障害を抱える労働者の中には、仕事上の理由で適切な治療を受けることができない場合や、疾病に対する労働者自身の理解が不十分であることや、職場の理解・支援体制不足により、離職に至ってしまう場合もみられます。今後、労働力の高齢化に伴って、疾病を抱えながら就労を続ける場面は増えていくと見込まれており、厚生労働省によって「事業場における治療と就労の両立支援のためのガイドライン」を策定されるなど、企業が行うべき「治療」と「就労」の両立支援の拡充は急務と認識されています。

治療と就労の両立において目指すべき理想は、以下が達成されることにあります。

  • 働く意欲・能力のある労働者が、仕事を理由として治療機会を逃すことがないこと
  • 治療の必要性を理由として就労の継続を妨げられないこと

 

企業による両立支援の意義

従業員が治療と就労の両立を図るための企業の取組は、従業員の健康確保対策の一部として行う必要があります。働き方の多様性や柔軟性が求められる中、両立支援を行うことで、企業には以下のようなメリットがもたらされます。

  • 継続的な人材の確保
  • 従業員の安心感やモチベーションの向上による、人材の定着・生産性の向上
  • 健康経営の実現
  • 多様な人材の活用による組織や事業の活性化
  • 組織としての社会的責任の実現
  • 従業員のワークライフバランスの実現

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治療と就労の両立のための取り組み

企業の両立支援プランの策定と従業員への啓発

企業が治療と就労の両立支援に取り組むにあたっては、そのプランの策定、従業員への両立支援の意義の啓発、治療と就労を両立しやすい職場風土の醸成などを実現することが望ましいとされています。

相談窓口等の明確化

治療と就労の両立支援は、健康診断において疾病を把握した場合を除いては、労働者からの申出を原則とします。労働者が安心して相談・申出を行えるよう、相談窓口の設置や、申出が行われた際の情報の取扱い等を明確にする必要があります。

休暇制度、勤務制度の整備

短時間の治療が定期的に繰り返され、就業時間に一定の制限が必要な場合、以下のような休暇制度、勤務制度について検討し導入することが望ましいです。

  • 時間単位の年次有給休暇
    労働基準法に基づく年次有給休暇は、1日単位で与えることが原則です。一方で、労使協定を結ぶことで、年次有給休暇を5日まで時間単位で付与することが可能となります。
  • 傷病休暇・病気休暇
    企業が自主的に設ける法定外の休暇であり、入院治療や通院のために、年次有給休暇とは別に休暇を付与するものです。企業ごとに、取得条件や賃金の支払い等の処遇を定める必要があります。
  • 時差出勤制度
    時差出勤制度は、企業が自主的に設ける勤務制度で、1日の労働時間はそのままに始業又は終業時刻を変更するというものです。従業員の療養中や療養後、身体に負担のかかる通勤時間帯を避けることが可能となります。
  • 短時間勤務制度
    企業が自主的に設ける勤務制度であり、療養中・療養後の負担を軽減すること等を目的として、所定労働時間を短縮する制度です。
  • テレワーク
    企業が自主的に設ける勤務制度であり、パソコンなどの情報通信機器を活用した場所にとらわれない柔軟な働き方を導入する方法です。自宅やサテライトオフィス等で勤務することにより、通勤による身体への負担を軽減することが可能となります。
  • 試し出勤制度
    企業が自主的に設ける勤務制度です。長期間にわたり休業していた労働者に対し、 円滑な復職を支援するため、勤務時間や勤務日数を短縮した試し出勤等を行うものです。

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取り組みを行う上での注意事項

安全と健康の確保

疾病の症状や治療の状況を踏まえた上で、疾病を持つ労働者に必要な就業上の措置や配慮を行い、仕事の繁忙等を理由にこれらが損なわれる状況を避けなければいけません。

治療と就労の両立支援の性質を踏まえた対応

入院や通院、療養のための時間が必要になるだけでなく、疾病の症状や治療の副作用、障害等によって、労働者自身の業務遂行能力が一時的に低下する場合があります。従業員の時間的制約に対する配慮だけでなく、本人の健康状態や業務遂行能力も踏まえた就業上の措置等が必要となります。

個人情報の保護

症状や治療の状況等の疾病に関する情報は個人情報であるため、健康診断において把握した場合を除いては、企業が本人の同意なく取得してはいけません。また、企業が把握した健康情報については、取り扱う者の範囲や第三者への漏洩の防止も含め、適切な情報管理体制の整備が必要です。

 

まとめ

労働人口の減少により疾病の増加が見込まれる中、従業員の就労を支援する対策は急務といえます。治療と就労の両立支援を拡充し、従業員が働きやすい職場環境を構築しましょう。

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