使用者には社員の労働時間を適正に把握する責務があり、厚生労働省は労働時間をタイムカードなどの客観的な方法で記録することを求めています。手書きの勤怠管理からタイムレコーダーに切り替えた場合、導入後にはどんなトラブルが起こりやすいのでしょうか。また、できるだけトラブルを防ぐ方法について解説します。
目次
何が問題に?タイムレコーダー導入時に起こりうること
違法な時間外労働や健康を害するほどの長時間労働は、厚生労働省が削減に向けた取り組みをしてもなかなか改善せず、社会的にも大きな問題となっています。平成27年11月、「過重労働解消キャンペーン」の際に行った重点監督では、実施した事業場のおよそ46%で違法な時間外労働が行われ、是正勧告を行ったそうです。
また、厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」には、労働時間の適正な把握方法としてタイムカードによる記録などが挙げられています。そのため、これまでは出勤簿への捺印だけだった企業や出退勤の時刻を手書きで自己申告していたところでも、タイムレコーダーを新たに導入したというケースを耳にします。
勤怠管理方法をできるだけスムーズに変更するために、タイムレコーダー導入後に起こりやすい問題を具体的に確認しましょう。
- うっかりミスや打刻もれのフォローが大変
タイムレコーダーに切り替えた場合、打刻する習慣がないため「打刻もれ」が頻発する可能性があります。中には、導入直後は社員も緊張感をもって打刻するものの、少し慣れてくると緊張感がなくなり、うっかりミスが増えるといったことも起こります。
もし、打刻がない場合は打ち忘れか、出張や休暇の申請がでているのか等をチェックし、打ち忘れであれば本人に出勤状況を確認し、今後の注意喚起なども必要になるでしょう。このような対応は「想像以上に多い」という担当者の声は少なくありません。
また、営業先への直行、直帰が多い職場では、電話やメールなどで人事労務担当者に連絡がくる仕組みにするとその対応も加わることになり、担当者の負担が増えます。期待するほどの「効率化」は感じられず、むしろチェックに時間がかかり、場合によって担当者の負担感の方が大きくなることもあるようです。
- 夜勤や徹夜などが多い職場で起こりやすいのは?
さらに、タイムカードの機種にもよりますが、出勤、退勤、休憩などのボタンを押してからカードを挿入する場合、ボタンの押し間違いや押し忘れが起こることも多いです。通常勤務(日勤)の場合と早出や夜勤、あるいは休日出勤や徹夜などの「特殊勤務」や「例外勤務」を区別するボタンがあるにもかかわらず、押し忘れが起こります。すると、日勤なのか、特殊勤務なのかの区別がつかず、シフト表と照合しながら集計しなければなりません。今後、ミスをしないように人事労務担当者から注意を受ける社員も、注意をする担当者の方も「今までの方法の方がよかったな?」という思いが湧いてしまうこともあるようです。
また、使用者の立場からみると、社員からのクレームや新たな問題に対応する人事労務担当者の時間外労働が増えたり、勤怠管理をするための人員増が必要になったりします。タイムカードやインクカートリッジ(インクリボン)などの消耗品の購入に加え、想定外の人件費の発生に慌ててしまうことも少なくありません。
*「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」
引用元URL:http://www.mhlw.go.jp/houdou/0104/h0406-6.html
トラブルを予防するには?職場に適した機種選定が第一!
トラブルが多くなるのは、社員がわかりにくい、使いにくい機種を導入してしまったということも関係します。たとえば、最新の機種を導入したところ、デザインもオシャレだが、多機能のため操作ボタンが多く社員にとってはわかりにくく、押し間違いが起こりやすいなどの問題です。
また、カードをレコーダーに挿入するタイプか、ICカードをサッとかざすだけで打刻できる機種かによって、朝の混雑具合も変わります。タイムレコーダーの台数や設置する場所も重要です。朝の長い行列や滞留を防ぐにはどのような動線がよいか、出勤の時間帯やピークは何時頃なのかなどの情報も購入台数を検討するときに役立つでしょう。
それぞれの企業で労働環境は異なり、社員の年齢構成なども違います。新しいことに慣れるのが早い人もいれば、そうでない人もいますが、勤怠管理の変更は一律にすべての社員に変更をお願いすることになるのです。社員ができるだけ使いやすい機種を選び、可能な限りストレスを少なくできる方法を検討することは、新しい管理方法へのクレームを抑えることにもつながります。
選択肢は幅広く!無料体験で社員の声も聞いて機種選び
厚生労働省は、労働時間の客観的な記録方法としてタイムカードのほかに、ICカードやパソコンへの入力などの方法を挙げています。ICカードを使うタイムレコーダーもありますが、勤怠管理システムを採用すると多機能できめ細かいサービスもそろい、「改善したい状態」により近づけられる可能性があります。
勤怠管理システムはパソコンやスマホを使って打刻ができるだけでなく、勤怠の状況をリアルタイムで確認することもでき、休暇などの申請も可能です。人事労務担当者にとっても集計が迅速に簡単に行えるなど、業務の効率化が期待できます。クラウド型であれば月額の利用料は必要ですが、初期費用を抑えられるので導入しやすいでしょう。
また、新しい勤怠管理方法に変える際は、社員に対して事前にどのような説明をして理解を得たかという「導入前の対応」が、導入後のクレームの多さにも影響します。使用者からの一方的に切り替えを強いるのではなく、実際に毎日、利用する社員の目線を大事にしているかどうか、社員が「そう思えるか」が重要です。
そのためには、一つの方法として、無料体験を活用して社員の生の声を参考にするとよいでしょう。無料期間として30日間、あるいは60日間を用意していることもあります。実際に使うことで、社員にとっての使いにくさが具体的に把握するのに役立つでしょう。また、担当者にとって集計のしやすさの確認、場合によっては給与計算への利用なども体験することができます。
無料体験のないタイムレコーダーの場合は、通販で購入できる機種でも可能な限り店舗に出向いて実物を操作し、ボタンの押しやすさなど使いやすさを確認しましょう。新しいシステムの具体的なメリット、デメリットを把握し、得られるメリットの一方で生じうる問題が許容範囲なのかどうかで最終的に判断することになります。
問題が起きたら?利用しやすいサポート体制で問題解決
価格の安いタイムレコーダーはサポートがあまり期待できませんが、中にはフリーダイヤルのサポート体制を整えていることもあります。それに対し、勤怠管理システムは電話やメールはもちろんのこと、最近ではチャット機能を取り入れているなどサポートが手厚いことがメリットです。チャット機能を利用すると、メールのような固さもなく、会話に近いテンポでやりとりができるので問題解決がより早くできるでしょう。
また、中には現在、どの画面で困っているのかをサポートセンターで把握してより迅速なサポートをしているところもあります。トラブル発生で解決を急いでいるとき、自分がどこで、何に困っているかを相手に伝えるのは難しいこともしばしばです。焦っているときであれば、なおさらでしょう。
タイムレコーダーの機能だけでなく、最近ではサポートの方法も進化しています。機種やシステムの導入の際は、それぞれの企業で利用しやすいサポートを提供してくれるのかどうかも検討したいポイントです。
さらに、無料体験を長めにできると、トラブルやその際の対処方法の是非について確認できることもあります。トラブルが起きるのはもちろん困りますが、ゼロとはいいきれません。トラブルが発生したときは、担当者が事態をいち早く捉えるには連絡方法に問題がなかったか、具体的にどんな支障があったか、サポート体制の善し悪しなどを確認しましょう。
こんなメリットも?導入してよかったと思える活用法
勤怠管理システムだけでなく、ICカードを使用する勤怠管理ソフトつきタイムカードの場合、レコーダーに保存した出退勤のデータをパソコンに取り込んでデータを利用できます。給与計算への利用のほか、社内の部署ごとや月ごとの分析などを行うことができるでしょう。現在、どこの職場で残業が多いのか、誰が残業や休みが多いのかを知ることができ、欲しいと思ったときにすぐに出力できます。
また、厳格に勤怠を把握することは、残業手当や休日手当を適切に支払うため人件費が高くなる場合もあります。しかし、残業や休日出勤のデータを検討することは業務の偏りや人員配置の検討につながるもので、経営には必要な検討課題です。
社員にとっても実態に即した手当の支給があること、そして、適切な支給ということは自分が働いたことの会社がきちんと認めたことを意味しています。労働基準法を遵守することは使用者として必要なことですが、社員にとっては会社への信頼感を深めることにつながることも多く、紛争への発展を抑止する効果も期待できるでしょう。
まとめ
社内の勤怠管理方法を変えることは、決して小さな変化ではなく、思ったようにいかないことも少なくありません。しかし、無料体験などを利用し、社員にとって簡単で、使いやすい機種や便利なシステムを選ぶことでトラブルの低減を図ることができます。また、勤怠管理方法の変更については社員の理解を得るように努め、タイムレコーダーのより円滑な導入を目指しましょう。