株主総会で行う決議について、あらかじめ株主の全員が賛同しているとわかっていながら株主総会を開くことは、参加者にとっても大きな負担となります。そのような場合には、書面や電磁的記録などによって株主の意思表示を得ることで、株主総会が開かれたとみなすことができます。今回は、みなし株主総会について解説していきます。
目次
みなし株主総会とは?
みなし株主総会には、決議と報告の2種類があります。
みなし株主総会(決議)
株主総会決議事項に関して、株主が書面や電磁的記録などで意思表示をすることによって、その事項に関する決議が株主総会において行われたとみなすことができます。たとえば、株主の1人が定款の変更を提案し、電子メールなどで株主全員から賛同の意思表示が得られた場合、株主総会を行わずともその提案の決議が取られたとみなされ、定款の変更が行われます。
みなし株主総会(報告)
決議だけでなく、定時株主総会における事業報告なども省略することができます。事前に報告事項を株主に通知し、株主全員が株主総会において報告を省略することに同意した場合は、株主総会で報告したものとみなされます。
みなし株主総会(決議)は、株主総会で決議する事項についてあらかじめ株主全員の賛同が得られると分かっている場合や、M&Aの意思決定など決議に迅速な対応が求められる場合に有効な手段とされています。また、みなし株主総会(報告)を行うことで、招集を行うコストが削減できたり、取締役や社長、株主の時間の有効活用ができたりなど、様々なメリットを享受することができます。
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みなし株主総会(決議)を行う方法
以下の流れをたどることによって、みなし株主総会(決議)を行うことができます。
みなし株主総会を行う提案
まずは、みなし株主総会の決議事項の提案が必要になります。この提案は、取締役または株主が行うことができます。ただし、取締役が決議事項の提案をする場合には注意すべきポイントがあるので、下記の「みなし株主総会の注意点」の項目をご確認ください。
株主全員の同意
みなし株主総会の決議事項の提案書を株主全員に送付し、それに対する同意書を得ます。同意書は、書面でも電子メールなどの電磁的記録でも、どちらでも可能です。株主全員の同意が必要となるため、余裕を持った期間設定をしましょう。
議事録の作成・保管および同意書の保管
株主全員の同意を得られた時点で、みなし株主総会決議が行われたことになります。その後は、2つの事後処理が必要となります。
1つめは、議事録の作成および保管です。会社法施行規則72条4項によって、みなし株主総会があった場合は議事録を作成しなくてはいけないと定められています。このとき議事録には、以下の項目を必ず記載しなくてはいけません。
- 株主総会の決議があったものとみなされた事項の内容
- 上記の事項の提案をした者の氏名または名称
- 株主総会の決議があったものとみなされた日
- 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
作成した議事録は、会社法318条2項の定めるところにより、10年間会社の本店で備え置きする必要があります。
2つめは、同意書面の保管です。会社法319条2項によって、みなし株主総会の議決で用いられた同意書は、書面または電磁的記録の形で10年間会社の本店で備え置くことが定められています。
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みなし株主総会(報告)を行う方法
大まかな流れは、みなし株主総会(議決)を行う方法と同様です。まず株主に報告事項を通知し、株主総会での報告の省略に関して株主全員からの書面または電磁的記録による同意を得ることで、株主総会で当該事項の報告がなされたものとみなされます。
その後、会社法施行規則72条4項に則り、以下の項目を必ず記載して議事録を作成しましょう。
- 株主総会で報告があったとみなされた事項の内容
- 株主総会での報告があったとみなされた日
- 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
みなし株主総会の注意点
取締役がみなし株主総会の決議事項を提案するときの注意点
取締役が決議事項を提案するには、取締役会設置会社の場合、取締役会での決議が必要となることがあるので注意しましょう。これは、決議事項の提案が、会社法362条4項の「取締役会は次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない」という規定における「重要な業務執行の決定」にあたると考えられるためです。この解釈には異論もありますが、念のため取締役会で決議しておくと良いでしょう。
みなし株主総会の成立日に関する注意点
前述のように、みなし株主総会は株主全員の同意が集まった時点で成立することになります。たとえば、3月30日に議決したいと考え、締め切りを3月30日に設定していたとしても、3月20日の時点で同意書が全て集まってしまえば、その日に議決されたことになります。これによって、定款の変更などが決議事項だった場合は、予定よりも早く変更されてしまうことになります。
成立日に関するトラブルへの対策としては、決議事項の中に発効日を記載することや、株主の1人と同意書の提出日を調整することなどが考えられます。
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まとめ
今回は、みなし株主総会について解説してきました。この制度は多くの手間を省くことができる有用さから、幅広く利用されています。特に中小企業などで株主が少ない場合は、より容易に行えるので便利です。最後に述べた注意点にも気を配りながら利用してみてください。