企業が取り扱う文書の中には、法令で保存を義務づけられているものが多くあります。これらの文書は法定保存文書と呼ばれ、所定の期間、適切に文書を保存しておく必要があるため、法定保存文書の種類やその保存期間をしっかりと把握しておくことが重要です。
今回は、主な法定保存文書の種類や、それぞれの文書の保存期間および起算日、根拠法令について説明します。
目次
定款は、会社の目的や商号など会社を運営していくにあたり必要なルールを定めたものであり、株式会社を設立する際には必ず作成しなければならないものです。また、会社は、本店および支店に定款を据え置くとともに、株主等からの請求があった場合は、定款を閲覧させたり定款の謄本を交付したりしなければなりません。
定款は、法令等により保存期間が定められているものではありませんが、その性質上、永久的に保存する必要があると考えられます。
株主名簿は、その会社の株主の氏名・住所・保有する株式の数など株主に関する情報を記載する帳簿であり、すべての株式会社に作成が義務づけられています。特に、株券不発行会社においては、株主名簿へ記載されていることが株主であることの証明になることから、株主名簿は非常に重要なものだといえます。
株主名簿も、法令等により保存期間が定められているものではありませんが、その性質上、永久的に保存する必要があると考えられます。
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株主総会議事録は、株主総会の日時や場所、議事の結果など株主総会の議事を記載した文書であり、株主総会を開催した場合には必ず作成しなければならないものです。
株主総会議事録は、会社法318条により、株主総会の日を起算日として10年間、本店に備え置くことが義務づけられています。
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取締役会議事録は、取締役会の日時や場所、議事の結果など取締役会の議事を記載した文書であり、取締役会設置会社が取締役会を開催した場合には必ず作成しなければならないものです。
取締役会議事録は、会社法371条により、取締役会の日を起算日として10年間、本店に備え置くことが義務づけられています。
決算書は、会社の経営状況や財政状態を示す書類であり、会社は毎事業年度、決算書として「貸借対照表(BS)」・「損益計算書(PL)」・「株主資本等変動計算書」を作成しなければなりません(これらを「計算書類」といいます)。
計算書類は、会社法435条により、作成した日を起算日として10年間保存することが義務づけられています。
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総勘定元帳とは、すべての取引を勘定科目ごとに記録していく帳簿のことをいいます。会社法では、会社に対して適時に正確な会計帳簿を作成することを義務づけており、総勘定元帳は、この「会計帳簿」に該当すると考えられています。
会計帳簿は、会社法432条により、帳簿閉鎖の時を起算日として10年間保存することが義務づけられています。
取引に関する帳簿は、仕訳帳や現金出納帳等が挙げられ、取引に関する書類は、取引に関して相手方から受け取った注文書や契約書、領収書、見積書等が挙げられます。
取引に関する帳簿や書類は、法人税法施行規則59条などにより、帳簿閉鎖日や書類の作成日・受領日の属する事業年度終了の日の翌日から2ヶ月を経過した日(当該事業年度分の申告書提出期限の日)を起算日として7年間保存することが義務づけられています。
給与所得者の扶養控除等申告書は、労働者が配偶者控除や扶養控除などの所得控除を受けるために企業に提出する書類です。企業は、扶養控除等申告書などの源泉徴収関係書類をもとに、源泉徴収や年末調整などの事務を行います。
源泉徴収関係書類は、所得税法施行規則76条の3などにより、法定申告期限の属する年の翌年1月10日の翌日を起算日として7年間保存することが義務づけられています。
身元保証書は、雇用する従業員の身元保証人を記載した文書です。身元保証書は必ずしも従業員に提出させる必要があるものではなく、各企業が独自の方針に基づいて自由に判断すべきものですが、従業員の採用時に身元保証書を提出させる企業が多いといえます。
「身元保証ニ関スル法律」により、身元保証契約の期間は最長5年とされていることから、従業員に身元保証書を提出させた場合は、作成日を起算日として5年間保存しておくことが望ましいといえます。
健康診断個人票は、労働者の定期健康診断等の結果を記載した書類です。企業には、労働者に対して医師による定期健康診断等を実施し、健康診断個人票を作成することが義務づけられています。
健康診断個人票は、労働安全衛生法施行規則51条により、作成日を起算日として5年間保存することが義務づけられています。
雇用保険の被保険者に関する書類は、資格取得等確認通知書や資格喪失確認通知書、離職証明書、休業開始時賃金月額証明書などが挙げられます。
雇用保険の被保険者に関する書類は、雇用保険法施行規則143条により、その完結の日(被保険者が退職等した日)を起算日として4年間保存することが義務づけられています。
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労働者名簿は、労働者の氏名や生年月日、履歴等について記載した名簿であり、労働者を雇用する場合には必ず作成をしなければならないものです。雇入れまたは退職に関する書類は、労働条件通知書や退職届などが挙げられます。
労働基準法109条および労働基準法施行規則56条により、労働者名簿は労働者の死亡・退職・解雇の日を起算日として3年間、雇入れまたは退職に関する書類は労働者の退職または死亡の日を起算日として3年間保存することが義務づけられています。
災害補償に関する書類は、労働者が労働災害により負傷をして療養補償給付などの保険給付を受ける場合に提出する請求書等が挙げられます。
災害補償に関する書類は、労働基準法109条および労働基準法施行規則56条により、災害補償の終わった日を起算日として3年間保存することが義務づけられています。
社会保険(健康保険・厚生年金保険)に関する書類は、資格取得等確認通知書や資格喪失確認通知書などが挙げられます。
健康保険に関する書類は健康保険法施行規則34条により、厚生年金保険に関する書類は厚生年金保険法施行規則28条により、その完結の日(労動者が退職等した日)を起算日として2年間保存しておくことが義務づけられています。
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今回は、どの業種の企業でも保存が必要となる主な法定保存文書の保存期間や起算日、根拠法令について説明しました。業種によっては、その他の法令により保存が義務づけられている文書もあることから、自社の業種も考慮しながら、法定保存文書の種類や保存期間について改めて確認することが大切だといえます。
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