地域別最低賃金が改定され、10月から各都道府県において順次発効しています。地域別最低賃金の全国加重平均額は昨年度と比べて25円上昇し、今年は上昇額が極めて高い年となりました。
最低賃金は月給制や歩合制で働く労働者にも適用されるので、支払われている賃金が最低賃金額の水準を満たしているかどうかを確認することが必要です。今回は、最低賃金制度について解説します。
目次
最低賃金制度とは、最低賃金法に基づいて国が賃金の最低額を定め、使用者はその最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとする制度です。この最低額の賃金のことを「最低賃金」といいます。
仮に最低賃金を下回る賃金を労使間で合意して定めた場合、最低賃金法によりこの合意は無効とされ、最低賃金額と同額の賃金を定めたものとされます。したがって、使用者が労働者に対して最低賃金額未満の賃金しか支払わなかった場合には、使用者は最低賃金額との差額分を支払わなければなりません。
さらに、使用者が最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合は、法律により罰則(50万円以下の罰金)が定められています。
・知っておきたい!総務用語「最低賃金」
最低賃金には、「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」の2種類が存在します。地域別最低賃金と特定最低賃金の両方が適用される労働者には、より金額が高い方の最低賃金が適用されます。
地域別最低賃金は、産業や職種にかかわりなく都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に適用される最低賃金です。各都道府県に1つずつ、計47件の最低賃金が定められています。
地域別最低賃金は毎年見直されることとなっており、2016年度の改定では改定額の全国加重平均額が823円となりました。昨年度の全国加重平均額798円と比べて25円引き上げられ、2002年度以降最大の引上げ額となっています。
2016年度の改定後の地域別最低賃金の最高額(東京都932円)と最低額(宮崎県・沖縄県714円)の比率は76.6%で、この比率は昨年度に引き続き2年連続の改善となりました。
特定最低賃金は、特定地域内の特定の産業について設定されている最低賃金です。最低賃金審議会が、地域別最低賃金よりも金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認めた産業について設定されるもので、2016年3月の時点で全国235件の最低賃金が定められています。
特定最低賃金は、基本的には各都道府県内の特定の産業について決定されます。例えば愛知県の自動車小売業は1時間あたり873円(地域別最低賃金は845円)、北海道の乳製品製造業は1時間あたり813円(地域別最低賃金は764円)といったように、都道府県ごとに地域別最低賃金より高い金額が設定されることが多くなっています。
一方、東京都など地域別最低賃金が高い水準である都道府県の場合等は、地域別最低賃金の方が高くなることもあります。この場合には、地域別最低賃金が適用されます。
最低賃金は、賃金の実態調査結果などの各種統計資料を参考にしながら、公益代表や労働者代表、使用者代表の委員で構成される「最低賃金審議会」で決定します。
地域別最低賃金は、全国的な整合性を図るため、毎年、中央最低賃金審議会から地方最低賃金審議会に対して引上げ額の目安を提示します。そして、地方最低賃金審議会において、この目安を参考にしながら地域の実情を踏まえて地域別最低賃金額改正のための審議を行います。地方最低賃金審議会の答申を得た後、異議申出に関する手続きを経て、最終的に都道府県労働局長が地域別最低賃金を決定します。
特定最低賃金は、関係労使の申出に基づいて最低賃金審議会が必要と認めた場合、地域別最低賃金と同様のプロセスを経て、都道府県労働局長が決定します。
最低賃金の適用される労働者の範囲は、以下のとおりです。
地域別最低賃金は、産業や職種にかかわりなく、都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に適用されます。
特定最低賃金は、特定地域内の特定の産業の基幹的労働者とその使用者に適用されます。したがって、18歳未満または65歳以上の人、雇入れ後一定期間未満で技能習得中の人、その他該当産業に特有の軽易な業務に従事する人は基幹的労働者に該当しないことから、特定最低賃金は適用されません。
一般の労働者より著しく労働能力が低いなどの場合に、最低賃金を一律に適用するとかえって雇用機会を狭める恐れなどがあることから、特定の労働者については、使用者が都道府県労働局長の許可を受けることを条件に、個別に最低賃金を減額する特例が認められています。
派遣労働者の場合は、派遣元の事業場の所在地に関わらず、派遣先の事業場の最低賃金が適用されます。したがって、派遣元の使用者と派遣労働者は、派遣先の事業場に適用される最低賃金を把握しておく必要があります。
最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金です。具体的には、実際に支払われる賃金から、以下の賃金を除外したものが対象となります。
最低賃金は、月給制や歩合制の給与をもらっている人にも適用されます。支払われている賃金の額が、最低賃金額以上になっているかどうかをきちんと確認するようにしましょう。
以下では、給与形態ごとの計算方法を説明します。それぞれ以下の式を満たしている場合は、最低賃金額以上の賃金が支払われていることになります。
◯時間給≧最低賃金額(時間額)
◯(日給÷1日の所定労働時間)≧最低賃金額(時間額)
※日額が定められている特定最低賃金が適用される場合
◯日給≧最低賃金額(日額)
◯(月給÷1か月平均所定労働時間)≧最低賃金額(時間額)
◯(賃金の総額÷総労働時間数)≧最低賃金額(時間額)
計算にあたっては、実際に支払われている賃金から、通勤手当や時間外手当など最低賃金の対象とならない賃金を除くことを忘れないようにしましょう。
最低賃金制度を遵守していない場合、企業には罰則が生じることになります。最低賃金が改定された時や、従業員の給与形態などが変更された時には、支払われている賃金が最低賃金額以上になっているかをきちんと確認することが大切です。
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