最近ニュースでたまに目にする「労働基準監督署の立入調査」。存在は知っているけれど、対応したことがないのでよく分からない、という方も多いかもしれません。
対応する機会はそこまで多くないかもしれませんが、労基署調査が入る可能性はすべての企業にあります。突然の調査に慌てないためにも、きちんと対策をしておくことは欠かせません。今回は、労働基準監督署の調査について解説します。
目次
労働基準監督署の調査とは、企業が労働基準法等の労働関係法令に違反していないかどうかを調査する目的で、労働基準監督官が事業場に立ち入り、労働者の労働条件等について確認を行うことを指し、正式には「臨検監督」と呼びます。
労働基準法や労働安全衛生法等では、労働基準監督官に事業場への臨検(立入調査)権限や帳簿・書類等の検査権限、関係者への尋問権限等の多くの権限を与えており、これが労基署調査の根拠となります。
労働基準監督官は、これらの権限を行使して事業場の監督を行い、法令違反が認められた場合には、事業主等に対してその是正を指導します。また、危険性の高い機械・設備等については、その場で使用停止等を命ずる行政処分を行うこともあります。
さらに、労働基準監督官は司法警察員として、事業主等が度重なる指導にも関わらず是正を行わない場合などの重大または悪質な事案については、労働基準法等の違反事件として取り調べ等の任意捜査や捜索・差し押さえ、逮捕などの強制捜査を行い、検察庁に送検する権限も有しています。
労基署調査は法律上の権限に基づいて行われるものであるため、特段の理由なく拒否することはできません。労働基準法により、立入調査の拒否・妨害や尋問に対する陳述の拒否・虚偽の陳述、書類の提出拒否・虚偽を記載した書類の提出については罰則が定められています。
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労基署調査は、下記の4つの種類に分けられます。
労働基準監督署が主体的・計画的に対象事業場を選定して調査を行う、最も一般的な調査です。あらかじめ定めた監督計画に従って、毎月調査を行います。
労働者からの申告を契機として行われる調査です。労働基準法では、企業に労働基準関係法令違反がある場合、労働者が労働基準監督官に行政指導を求めることができると定められています。従業員や退職者から残業代未払いや違法解雇等について申告があった場合に、その内容を確認するために調査が行われます。
大規模な労働災害が発生した場合に、原因の究明や再発防止のために行われる調査です。
以上の調査が行われた後、指摘事項がきちんと是正されているかを確認するために再度行われる調査です。過去に指導を受けたにも関わらず是正報告書が提出されていない場合や、是正報告書の内容に問題があった場合などに行われます。
労働基準監督官は、事業場のありのままの現状を的確に把握するため、原則として予告することなく事業場に立入調査を行います。しかし実際には、事前に電話やFAXで連絡が来て、調査の日時を指定されることも多いようです。
労働基準監督官は、事業場への立入調査を行い、帳簿の確認や関係者への事情聴取等を行います。そこで労働基準関係法令の違反が認められた場合などは、是正勧告や改善指導がなされます。また、労働災害発生の急迫した危険があるときなどは、その場で作業停止・使用停止等が命令されることもあります。
是正勧告は、調査により法令違反があると判断された場合に行われ、是正すべき事項と期日が記載された「是正勧告書」が交付されます。改善指導は、法令違反ではないものの労務管理上改善すべき点があると判断された場合に行われ、こちらも改善すべき事項と期日が記載された「指導票」が交付されます。是正勧告・改善指導を受けた場合には、定められた期日までに是正・改善のうえ、労働基準監督官に報告書を提出しなければなりません。
なお、法令違反が重大・悪質な事案の場合は、労働基準監督官が司法警察員として捜査を行い、送検等の司法処分が行われます。労働基準法等の違反により検察庁に送検された場合、企業名が公表されます。
労基署調査における主な調査項目としては、以下のものが挙げられます。
従業員を雇い入れた際に労働条件通知書を交付しているか、内容は適切なものかどうか調査が行われます。また、就業規則が適法かつ実態に即した内容で作成されており、労働基準監督署に届け出がなされているか、またその規則が従業員に周知されているか、パートやアルバイトにもきちんと適用されているかという点も重要な調査対象となります。
確認されるのは、以下の書類です。
労基署調査で最も厳格に調査されるのが、労働時間です。タイムカード等の労働時間の記録を調査し、残業時間の端数まで確認されます。時間外労働・休日労働を把握しているか、36協定の届出が適切に行われているかなども調査対象となります。
確認されるのは、以下の書類です。
賃金台帳も隅々まで調査されます。法定の必要記載事項が全て記載されているかどうかを事前に確認するようにしましょう。残業代の支払いは適切に行われているか、残業代の計算方法は適切か、また最低賃金は守られているかなども重要な調査項目です。
確認されるのは、以下の書類です。
従業員の年次有給休暇の取得状況も調査対象となります。有給休暇の取得記録をまとめた管理簿を作成しておくと、調査がスムーズに行われます。
確認されるのは、以下の書類です。
従業員の安全や健康は確保されているかという点も重要です。安全管理者等の選任状況、産業医の選任状況、安全衛生委員会等の設置状況などが調査されます。安全衛生委員会の議事がきちんと取られているか、それが社員に周知されているかも確認されます。
確認されるのは、以下の書類です。
健康診断の実施記録や健康診断結果報告書など、従業員の健康管理に関するデータも調査対象となります。医師による面接指導の結果記録等も確認されます。
確認されるのは、以下の書類です。
会社組織図や労働者名簿等、事業場の基礎的な情報が分かる資料も確認されます。事業場の経営状況の実態を示す財務諸表などについても確認されることがあります。
確認されるのは、以下の書類です。
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労基署調査は1年間で約17万件行われ、そのうち定期監督では69.4%の事業場において何らかの法違反が認められました(2014年実績)。法違反の内容としては、労働時間に関する違反率が30.4%で最も高く、次いで安全基準、割増賃金の順になっています。
労働基準監督署による指導を受けないようにするためには、付け焼刃の対策ではなく、日頃から労働環境を整備しておくことが重要です。特に労働時間に関する違反を防止するためには、従業員の労働時間の適正な把握が欠かせません。
労働時間の管理を出勤簿によって行っている場合は、出勤日だけでなく、始業時刻や終業時刻も必ず記入するようにしましょう。また、自己申告での記録よりも客観性が高く、詳細な時間まで適正に管理できる、勤怠管理システムを導入するのも一つの手段です。
近年では、オンライン上で打刻ができ、集計作業を自動で行ってくれる勤怠管理システムも存在します。これらのツールを活用しながら労働時間を正確かつ効率的に把握し、労基署調査への対策を講じるようにしましょう。
日頃から労働環境の整備に積極的に取り組んでおくことで、突然の労基署調査にも慌てずに対応ができるだけでなく、従業員の過重労働を防ぐことも可能となります。
この機会に、自社の就業規則や賃金規定がきちんと整備されているか、従業員の労働時間を適正に把握できているかなどについて見直してみてはいかがでしょうか。
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