GXとは、企業活動において発生する温室効果ガスの排出量と、温室効果ガスを吸収・除去する量を中立させる「カーボンニュートラル」の実現に向けた企業の成長戦略をいいます。GXを推進することで、環境に配慮した経済活動を展開するとともに、産業構造に変革を起こし新たな成長領域の創出ができるとされています。この記事では、GXの概要、関心が高まっている理由、取り組むメリット、事例について解説していきます。
目次
GXとはGreen Transformationの略で、温室効果ガスを発生させない再生可能エネルギーの活用を推進することによって産業構造や社会経済を変革させ、成長につなげる取り組みを指します。
温室効果ガス削減の必要性は、すでに世界中で認識されており、真新しい話題には聞こえません。しかし、GXのポイントは、「成長につなげる」という部分にあるといって良いでしょう。国際基準に則って温室効果ガスの排出量を削減したり、再生可能エネルギーに転換したりするだけでは、経済活動にポジティブな影響は及ぼしません。むしろ、排出規制に縛られることで、さまざまな生産活動の抑制につながってしまうでしょう。
そこで、温室効果ガスの排出を抑制し環境に優しい事業運営を目指しながらも、その活動そのものを成長戦略の一環にしていくという取り組みが提唱されました。それがGXです。つまりGXとは、地球環境に配慮する行動を、経済成長につなげるための改革といえるのです。
GXが注目される背景には、地球温暖化への対策としてのカーボンニュートラルへの取り組みが挙げられます。
カーボンニュートラルとは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの「排出量」から、植林や森林管理などによる「吸収量」を差し引いて、合計を実質的にゼロにすることを意味します。例えば、植物を燃やした際に発生する二酸化炭素は、植物のからだを成長させるために必要であるため、大気中の二酸化炭素総量の増減には影響しません。しかし、化石燃料の燃焼など、人間の活動で発生する二酸化炭素は大気中に蓄積され、自然の吸収能力を上回ってしまいます。カーボンニュートラルを実現するためには、排出量と吸収量を中立にするため、排出量削減の努力をすると共に、再生可能エネルギーの活用や二酸化炭素を吸収する仕組みづくりに取り組まなければなりません。
日本を含む120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」を目標と掲げており、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすると宣言しています。
カーボンニュートラルという大きな目標を実現するにあたって必要とされるのが、企業によるGXの取り組みなのです。
カーボンニュートラルを目指すにあたって、重要なキーワードは再生可能エネルギーの活用です。そのため、まずGXで成長が期待されるのは、エネルギー産業や、サプライチェーン上で再生可能エネルギーを活用する産業となるでしょう。また、自動車・蓄電池産業では、ガソリン自動車に代わるEVやFCVの技術的成長に期待が寄せられています。環境に優しい自動車が各業界で活用されれば、カーボンニュートラルの実現に近づく企業・業界は増えるはずです。このように、それぞれの産業は密接に関連し合っているため、カーボンニュートラルと無関係な業界は存在しないといえます。すでにさまざまな企業が業界を問わずカーボンニュートラルを宣言しており、官民一体の施策として動き出しているといっても過言ではありません。日本政府が掲げた「グリーン成長戦略」では、以下の14分野の産業がGXによる成長事業として記載されています。
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これまで、光熱費や燃料費の節約というと、事業運営の足かせともなり得るネガティブなイメージがありました。しかしカーボンニュートラルの考え方においては、必ずしも温室効果ガスの排出量を抑制しなければいけない訳ではありません。排出する代わりに再生可能エネルギーの生産や、温室効果ガスを吸収・貯留する技術分野に参入することで、排出と吸収をプラスマイナスゼロにすることができます。そのため、GXは事業領域の幅を広げ、成長を目指すきっかけにもなるでしょう。また、再生可能エネルギーを活用する仕組みを整えておくことで、中長期的に見て光熱費や燃料費の低減にもつながります。地球環境への貢献とコスト削減を同時に実現できることは、企業がGXに取り組む大きなメリットです。
GXへの取り組みは、自社の競争力強化と売上・受注の拡大につながります。カーボンニュートラルの考え方においては、サプライチェーン全体で温室効果ガスの排出量削減に取り組まなければならないとされています。そのため、環境への意識の高い大企業を中心に、サプライヤーに対しても排出量の削減を求める傾向が顕著になってきました。例えば、Apple社では取引先に対して再生エネルギー電力の使用を求めています。国内企業においても、トヨタや積水ハウスなどの大企業を中心に、サプライヤーに対する働きかけが広がっています。このように、GXへの取り組みは、企業の信頼度を高め、競争力を強化するためにも良い影響を与えます。
GXに積極的に取り組む企業は、世界的トレンドを理解し先進的知見をもって事業運営を行っているとして、知名度や認知度の向上につながります。環境に優しいポジティブなイメージが定着すれば、その企業で働きたいと思う人材は増えるはずです。近年は若者を中心に、企業の社会貢献性などを重視して就職先を選ぶ価値観が広まりつつあります。そのため、GXに取り組んだ結果、優秀な人材の獲得に有利に働く可能性があります。
Appleは、データセンターなど企業運営で使用する電力を、風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーでカバーすることによって、カーボンニュートラルを推進している代表的な企業です。さらに、自社事業だけでなく、製造サプライチェーン・製品ライフサイクルのすべてを通じて、2030年までに気候への影響をネットゼロにすることを目指すと宣言しています。具体的には「低炭素の再生材料を使用した製品デザイン」「更なるエネルギー効率の拡大」「再生可能エネルギーによる企業運営の継続」などで目標を達成するとしています。
NTTは2020年5月に「環境エネルギービジョン」を策定し、自社の再生可能エネルギー利用率を2030年までに30%以上に引き上げると宣言しました。カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みも活発で、2021年9月には新たな環境エネルギービジョンである「NTT Green Innovation toward 2040」を掲げています。具体的には、再生可能エネルギー利用の拡大とIOWN導入による電力消費量の削減で、それぞれ温室効果ガスを45%削減すると目標を設定しています。
トヨタ自動車は持続可能な開発目標SDGsの実現に向けて、「トヨタ環境チャレンジ2050」を推進しています。電動車と再生可能エネルギーでCO2ゼロ、ホームプラネットの資源保全で人と自然が共生する社会を構築すると目標が掲げられました。この大きなビジョンの達成のため、5ヵ年の実行計画と目標を定めた「トヨタ環境取組プラン」を策定しています。2025年までには、「新車が排出するCO2を平均30%以上削減」「グローバル工場のCO2を30%削減」「水使用量3%/台削減」などの6つのチャレンジが目標として設定されています。
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これまで、経済発展と環境破壊は切っても切り離せない関係にありました。私たち人類は長きに渡って、経済成長を優先するあまり、地球環境への影響は見過ごされる歴史を歩んできました。そこで、経済成長と環境への配慮を両立できる考え方として提唱されたのがカーボンニュートラルです。
従来の火力発電などから完全に脱却するのではなく、成長事業の一環として再生可能エネルギーの活用を広めるモデルは画期的といえるでしょう。
カーボンニュートラルは、環境に対する善意の取り組みを越え、投資先としても大きな注目を集めています。今後は、地球環境に配慮した事業が顧客や取引先から選ばれる時代になっていくはずです。私たちの地球の明るい未来を築く脱炭素社会の実現に向けて、取り組みを強化しましょう。
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