環境問題への懸念の増大とステークホルダーからの厚い要望により、環境経営への積極的な取り組みが必要とされています。環境経営を行う場合、環境保全活動を促進するだけはなく、経営のあらゆる場面において環境負荷の低減に貢献しなくてはなりません。今回は、環境経営の意味と実施における重要なポイント、環境マネジメントシステムの意味、企業の実施事例について解説していきます。
目次
環境経営とは
持続可能な開発が叫ばれる昨今、企業としても、環境への負荷をまったく配慮せずに事業を行うことは許されません。ですが一口に配慮と言っても、具体的に何をしたら効果があるのか、どの要素を重視する必要があるのか、どれから手を付けたらコストが抑えられるのか等、考えるべきことは多岐にわたります。この際、環境経営という概念が、ひとつの指針として有用です。
概要
環境経営とは、企業が地球環境の保護や維持に継続して取り組みつつ、経営を通した経済的な価値創出および企業自身の発展と両立させていくことを意味します。これには、環境に関する様々な法律や条例、取決めなどの遵守のみならず、環境に優しい経済活動を自発的に追及していくことが含意されています。環境経営が広がることで持続可能な社会が構築され、環境に優しい消費と生産の市場が拡大して経済と環境の好循環が実現することが目指されています。
重要なポイント
環境省は、環境経営に関して特に重視すべき要素を取上げています。これらは、変化やリスクに柔軟に対応できる能力として企業の長期的持続可能性に資するものです。
環境経営での重要な要素
- 経営者の主導的関与
経営者がまず、環境経営を実行することを社会に対してコミットすることが必要とされます。 - 環境への戦略的対応
重要な事業機会やリスク、変化等に対しては、戦略的に対応することが必要とされます。 - 組織体制とガバナンス
環境経営を適切に遂行するための組織体制を整え、その際に組織体制が効率的に機能する基礎となるガバナンスも構築していくことが必要とされます。 - ステークホルダー(利害関係者)への対応
自社を取り巻くステークホルダーの期待や要望をよく理解しておき、経営活動の中で還元していくことが必要とされます。具体的な方法として、顧客相談、従業員満足調査、対話等が挙げられます。 - バリューチェーン志向
原料の調達から廃棄までの製品ライフサイクル全体で発生している環境負荷を洗い出した上で重要な課題を特定し、これらについて対話していくことが必要とされます。 - 持続可能な資源・エネルギーの利用
資源効率を向上させる等、資源やエネルギーの消費においても持続可能に配慮した利用が必要とされます。
戦略的な環境経営プロセス
- 環境負荷の状況(インプット、循環利用、アウトプット)を、製品等のライフサイクルで把握
- ステークホルダーへの対応
- 経営への影響から重要な課題を特定
- 重要な課題に対するための方針、事業戦略の策定
- 中長期・短期における計画の策定
- 組織体制の適切な運用と全従業員への周知
- 実績の把握と経営者による評価・改善策
重要な課題を決定する際の考慮事項
- 財務的影響(収益獲得機会とリスク)及びその想定期間
- 同業種における共有課題や同業他社の対応状況
- 法規制等における共有課題や同業他社の対応状況
- ステークホルダーからの要請や社会的な関心
- 自然災害・事故などによる物理的影響
環境マネジメントシステムとは
マネジメントシステムとは、国際間での商品の取引や比較、評価を容易にするために決められている国際基準です。商品のサイズや質の度合い等が規定されていて、基準は総称としてISO(International Organization for Standardization、国際標準化機構)規格と呼ばれます。このISO規格には、「ISO+数字」という形で豊富な種類が存在し、どのタイプを選ぶかは企業の目的や重視事項に依ります。このうち、環境配慮型のものがISO 14000シリーズで、特にISO 14001では環境マネジメントシステムの規格としてクリアしなくてはならない要求事項が定められています。
ISO 14001の要求事項
ISO 14001では、環境マネジメントを継続的に改善していくために、以下のようなPDCAサイクルを構築することが求められます。
- Plan:計画
組織の環境方針に沿った結果を生み出すために、適切な環境目標とプロセスを設定します。 - Do:実施及び運用
計画通りにプロセスを進めていきます。 - Check:点検および評価
環境方針、環境目標、運用基準に照らしてプロセスを監視・測定します。 - Action:経営層による見直し
継続的に改善するための処置を取ります。
このようなサイクルを通じて、まずは、企業が関わっている環境上の問題や立地上の影響を明確にすることになります。次いで、機会、変化、リスクをそれぞれ見据えながら、環境への影響を考慮して計画を立てていきます。そして、実施した計画は必ずその結果を評価し、必要に応じて柔軟に改善していくことが必要になります。
環境経営の実施例
経済産業省によりまとめられた「我が国の環境経営の動向」という資料によると、環境経営とその促進の一環として、様々な取組みが既に実施されています。
大手企業による地元企業へのコンサルティング活動
- 省エネルギー診断
地域企業を対象とした取組みで、地元企業に無料でコンサルティングを行います。 - 販売パートナー企業の環境管理活動支援
自社製品を取扱う販売店を始めとしたパートナー企業への支援を行います。パートナー企業の各社がインターネットを活用して、短期間でのISO 14001の認証取得や、効率的な環境管理システムの運用といったことを手助けします。 - ゼロを目指した活動の一環として、休憩時間等を利用して従業員の家庭にある不要品を集めた「リユースマーケット」を実施し、得られた収益金は地元地域への寄付や工場の緑化資金に充てられます。
環境パートナーシップ・CLUB(EPOC)
こちらの団体は、産業界の環境オピニオンリーダーが中心となり、エコ・エフィシェンシー(環境効率性)の実現を追及すること、中部地域から環境対応に関する様々な情報を発信し、世界に誇れる環境先進地を形成すること、安全で快適な「環境型経済社会」を構築することを目標に立ち上げられました。環境経営手法の開発と普及、エコ・エフィシェンシーへの挑戦を掲げています。
- EPOC環境宣言企業
会員企業が自社の環境への取組みを宣言し、これを誰でも閲覧・問い合わせできるというシステムを構築しています。
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まとめ
環境に大きな負担をかける企業は批判を浴びる現在、各企業にとって、経済競争と価値創出のための戦略と、環境保護への配慮の両立は大きな課題となっています。この流れに出遅れては、いち早く持続可能な経営を実現したライバル企業に優位なポジションを取られてしまいかねませんので、この機会に環境経営について改めて考えなおしてみると良いでしょう。