平成30年度の税制改正により、働く人のための保育の提供に取り組む企業に対して税制上の優遇がされることとなりました。待機児童問題に象徴されるように、働く女性にとっての保育施設の需要は非常に高いですが、社内に保育所を設置する企業は未だ少数に留まっている現状があります。今回はそんな事業所内保育所を設けるメリット、実際に導入している企業の事例について解説します。
目次
はじめに、託児所の設置に関する税制優遇の措置について、その内容を簡単に確認しておきます。
この措置は平成30年度の税制改正で創設されたものであり、「個人又は法人が、平成30年4月1日から平成32年3月31日までの間に、企業主導型保育施設用資産の取得等をして、その保育事業の用に供した場合には、3年間12%(建物等及び構築物については、15%)の割増償却ができる」ことを定めたものです。
対象となる減価償却資産としては、企業主導型の保育施設の建物などに加え、遊戯用の構築物・遊戯具・家具・防犯設備などの幼児遊戯用構築物などが挙げられます。
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1つ目に、やはり税制優遇措置の恩恵を受けられることが挙げられます。この措置で言及されている減価償却とは、建物や機械、備品など年数の経過に伴って価値が減っていく減価償却資産を取得した際に、取得したときに全額を経費とするのではなく、その資産を使用できる期間全体で分割して経費としていくというものです。
この減価償却に関して、今回創設された措置では3年間の割増償却が認められています。割増償却とは、通常認められる減価償却の限度額以上を必要経費として計上することを指します。例えば1年目の普通償却限度額が20万円であるとして、12%の割増償却が認められている場合には、20+20×0.12=22.4万円を経費として計上できます。これにより、通常の場合と比べて3年間の償却額が増え、資産を早期に費用化することができます。最終的な償却費の合計金額は通常の場合と変わりませんが、対象資産が法定耐用年数よりも早く使用できなくなるといったリスクを考えると、早いうちに償却できるのはメリットと言えます。また、最初の3年間は計上できる費用が増え課税額が減少するため、節税効果も見込めます。
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2つ目に、従業員の働きやすい環境を作ることができるという点が挙げられます。外部の保育園などに子供を預けて働く場合、自宅や職場から保育園までの送り迎えや、急な病気や残業発生時の対応など、様々な課題を解決しなければなりません。しかし、事業所内保育所に子供を預けることができれば、送り迎えの手間や費用も削減できます。事業所内保育所は、企業の都合に対応できるように延長保育や夜間保育、短時間保育などにも柔軟に対応可能な場合が多いため、従業員としては安心して子供を預けることができるでしょう。
また副次的な効果として、優秀な人材の流出を防ぐことができるという点も挙げられます。子供を外部の保育期間に預けながら働くことに不安を感じて、結婚や出産などを機に転職や退職をしてしまう可能性が減るため、企業にとって必要な人材に、育児をしながら働いてもらいやすくなります。
さらに、待機児童問題なども取り上げられている近年、事業所内保育所を持つ企業は社会的にも注目を集めます。従業員を大切にする企業として、企業のイメージを向上させることにつながるでしょう。
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実際に事業所内保育所を導入している企業の例を見てみましょう。
ハッピーローソン保育園はローソン株式会社が設置している事業所内保育所であり、2014年に開園されました。ローソン本社があるビルの中に設置されており、子育てをしながら働きたい社員が利用することができます。このハッピーローソン保育園では保育だけではなく、「ハッピーローソンプログラム」と呼ばれる、子育てが初めての社員に向けた講座も開講しており、男女ともに子供を育てながら働ける環境づくりが進められています。
株式会社ワークスアプリケーションズが設置しているWith Kidsも事業所内保育所の一例です。仕事と子育てを共に会社で行うという働き方を目指して作られたこちらの保育所は、社員の働き方に合わせた育児環境を提供するために様々な制度を導入しています。例として、お迎えの時間に融通が利き延長保育でも追加料金がかからないため、残業が発生した場合も安心である他、当日申し込みでも一時保育が可能で、急に子供を預けなければならなくなった際にも対応してもらうことができます。
また、With Kidsの特徴の1つに、従業員が子供と一緒にランチを食べられるという点があります。自分の子供と一緒にランチを食べることができれば、業務終了までずっと離れているよりも安心できますし、リフレッシュして午後の仕事にも集中して取り組むことができます。保育所を利用している他の同僚との交流の場にもなるため、ママ友のような感覚で仕事や育児に関する相談をし合うこともできるでしょう。
最後に紹介するのが、GMOインターネットグループが設置しているGMOBearsです。こちらの保育所の大きな特徴は、子供が保育園で過ごす上で必要なもののほとんどを園が用意してくれるという点です。タオルやオムツなど、園生活では様々なものが必要となりますので、出勤時に多くの荷物を持っていくのが大変という場合も多いでしょう。しかし、GMOBearsではこれらを園側に用意してもらえるため、従業員にとっては大きな負担軽減となっています。
事業所内保育所を設置すると、社員が働きやすい環境を整備できるだけではなく、今回創設された税制優遇措置の恩恵を受けることもできます。この記事ではいくつかの事業所内保育所の事例を紹介しましたが、これらはほんの一部に過ぎず、近年事業所内保育所を導入する企業の数は徐々に増加してきています。特色ある事業所内保育所を設置している企業もありますので、それらも参考にしつつ、事業所内保育所の導入について検討してみてはいかがでしょうか。
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