企業の福利厚生の一環として、企業が従業員にお金を貸し付ける「従業員貸付制度」があります。充実した福利厚生を採用時にアピールできることなどから企業側にもメリットがある従業員貸付制度ですが、金銭が直接的に絡むほか返済手続きが必要なことからトラブルが発生する可能性も否定できません。従業員貸付制度における適切な制度設計の方法を理解して、トラブルを回避しましょう。今回は従業員貸付制度の内容、導入のメリット、導入のフロー、導入時の注意点を解説します。
目次
従業員貸付制度を導入する企業が増えている
従業員貸付制度とは
従業員貸付制度とは、企業が自社の従業員に福利厚生の一環として低利でお金を貸し付ける制度です。企業にもよりますが制度が設けられている場合、就業規則などで規定されており、名称はさまざまです。また、住宅購入や住宅建築など使途が規定されている場合もあります。法令に義務付けられたものではないのですべての企業にあるわけではなく、任意の法定外福利厚生の一種として導入されています。
従業員貸付制度のメリット
従業員貸付制度は社員に対する福利厚生ですが、企業にとってもメリットがあります。代表的なメリットは以下の通りです。
- 従業員の金銭問題の発生を予防できる
- 従業員の満足度を向上させられる
- 従業員採用などで企業の魅力としてアピールできる
まず、従業員が金銭の必要に迫られて、多重債務などに陥る事態を防止できます。さらに、福利厚生制度の充実によって従業員満足度の向上や、採用活動において求職者に魅力としてアピールできる点も強みです。
従業員貸付制度を利用できる条件
従業員貸付制度は法定外福利構成であるので、その内容や規定は導入している企業によってさまざまです。例えば、制度を利用できる職種としては、正社員に限定している企業が目立ちます。正社員であっても勤続年数や役職によって、利用上限額が異なる場合も珍しくありません。また、資金使途も従業員貸付制度を利用するにあたっての審査対象です。浪費・ギャンブル・借入金の返済といった目的での利用は基本的に禁止されています。無条件で誰にでもお金を貸し出しているわけではありませんので注意しましょう。
従業員貸付制度の導入フローをチェックしよう
規定を定める
まずは、従業員貸付制度の規定を定めましょう。法定外福利厚生は基本的に企業の独自の制度が含まれるため、規定を作成しなければなりません。規定で定めるべき代表的な項目は以下の通りです。
- 目的
- 金利
- 対象
- 限度額
- 使途
- 担保
- 返済方法
- 禁止事項
- 手続き
従業員貸付制度の運営を成功させるための基準となる項目なので、よく話し合って規定を考えましょう。特に、怪我・病気・教育資金・資格取得といった使途が不明確だと、問題が発生しやすいので明確なルールが必要です。
労使協定を締結する
従業員貸付制度の返済方法は給料からの天引きが一般的ですが、そのためには労使協定の締結をしなければなりません。労使協定とは従業員と企業の間で取り交わされる約束事を書面契約した協定です。労使協定には従業員貸付制度以外にも、さまざまな種類があります。例えば、時間外労働を行うために必要な36協定などが代表例です。企業と労使協定と結ぶ際の、従業員側の代表者については以下の通りです。
- 従業員の過半数で組織する労働組合の代表者
- 労働組合がない場合は、従業員の過半数の代表者
スムーズに従業員貸付制度の運用を開始するためにも、忘れずに労使協定を締結しておきましょう。
従業員へ周知する
従業員貸付制度を始める準備が整ったら、忘れずに従業員に周知を行ってください。一般的な周知方法は以下の通りです。
- 朝礼などで口頭によって説明する
- オフィスの見やすい場所に掲示する
- 社内サイトに掲示する
- 書面を従業員に交付する
- デジタルデータで配布する
注意点としては、限られた方法のみではなく複数の周知手段を用いましょう。口頭の説明のみでしか周知が行われていないと、すべての従業員が正しく新しい制度を理解しているとは言い切れません。必ず社員説明用の書面を作成し、疑問点や不明点を従業員がすぐに確認できるように工夫しましょう。
従業員貸付制度の導入時の注意点について
与の前借りではない
従業員貸付制度と類似している制度としては、給与の前借りがあります。給与の前借りとは給料日を早めてもらう法的義務のある制度で、従業員貸付制度のように返済の必要性はありません。緊急を要する場合にすでに労働した分について、給与の前借りでは支払いを受けられます。一方、従業員貸付制度の原資は企業の利益であり、借りたお金は返済しなければなりません。制度の扱いとしても従業員貸付制度は法定外福利厚生に該当するので、給与の前借りとは大きな違いがあると認識しておきましょう。
人事評価に影響はない
従業員貸付制度は社員に認められた権利として導入されています。利用することは社員の正当な権利であり、人事評価に影響はありません。給与からの天引きによる返済を利用すれば、返済が滞るリスクも軽減でます。ただし、利用者である従業員が何を行っても良いというわけではありません。借入の目的を偽ったり滞納をしたりすれば、企業からの信頼は失われてしまいます。規定に従って利用することを前提に、従業員貸付制度を運用しましょう。
従業員のプライバシーを保護する
従業員貸付制度では従業員のプライバシー保護を徹底しましょう。従業員貸付制度の手続きでは、人事や経理部などを通じるケースが一般的です。そのため、手続きに関係する社内の人には制度の利用は知られてしまいます。そうした際に、従業員のプライバシーを守るためにも、漏洩がないよう注意しなければなりません。従業員貸付制度を利用した事実が漏れているような事態が発生しては、企業の信頼が大きく損なわれます。情報の取り扱いに注意するだけでなく、閲覧には権限設定を設けるなど工夫を施しましょう。
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まとめ
企業の福利厚生は採用活動や人材定着にも大きく関わる制度です。特に、従業員貸付制度といった法定外の福利厚生は、企業が独自に導入しているユニークな制度も少なくありません。こうした福利厚生の導入や運用を成功させるためには、事前の準備と従業員への丁寧な周知が大切です。導入フローなどに問題があると、思わぬトラブルが発生してしまう恐れが高まります。解説したポイントや注意点を参考にして、従業員貸付制度をスタートさせてみてはいかがでしょうか。