2016年12月末、厚生労働省の長時間労働削減推進本部は「過労死等ゼロ」緊急対策を公表しました。近年、違法な長時間労働や過労死等が社会的に問題となる中、厚生労働省はこれらの是正について強力に取り組む方針を示しており、企業にも対策が求められます。
今回は、「過労死等ゼロ」緊急対策の内容や、過労死等ゼロを実現するために企業が行うべき取組について解説します。
目次
日本では、長時間労働やそれに伴う過労死等が問題となっており、長時間労働の削減が喫緊の課題とされています。このため、厚生労働省は、厚生労働大臣を本部長とする「長時間労働削減推進本部」を2014年に設置し、長時間労働対策についての取組を総合的に推進しています。
長時間労働を是正するため、官民を挙げて働き方改革の推進などが積極的に取り組まれていますが、過労死等の発生は未だに後を絶ちません。このような状況を踏まえ、長時間労働削減推進本部は2016年12月末に「過労死等ゼロ」緊急対策を公表し、長時間労働是正や過労死等防止のために、さらに強力に取組を進めていく方針を打ち出しました。
「過労死等ゼロ」緊急対策は、(1)長時間労働の是正、(2)メンタルヘルス・パワハラ防止対策、(3)社会全体で過労死等ゼロを目指す取組、の3つの柱から構成されています。
「過労死等ゼロ」緊急対策の主な内容は、以下のとおりです。
現状では、厚生労働省労働基準局長から都道府県労働局長への内部通達である「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」において、労働時間の適正把握について、下記の事項が示されています。
◯使用者は、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録すること
◯始業・終業時刻を確認して記録する方法は、原則として、使用者が自ら確認・記録すること、または、タイムカード等の客観的な記録を基礎として確認・記録すること
◯上記の方法によることなく、自己申告制にせざるを得ない場合は、労働者に対して、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うなどの措置を講ずること
今回の緊急対策では、使用者向けに、労働時間の適正把握のためのガイドラインを新たに定める方針が示されました。ガイドラインの具体的な内容としては、下記の事項等が明確化されることとなっています。
◯労働者の「実労働時間」と「自己申告した労働時間」に乖離がある場合には、使用者は実態調査を行うこと
◯「使用者の明示または黙示の指示により自己啓発等の学習や研修受講をしていた時間」は、労働時間として取り扱わなければならないこと
現状では、長時間労働に関する労働基準監督署の監督指導は、事業場単位で行われています。一方、今回の緊急対策では、違法な長時間労働等を複数の事業場で行っているなどの企業に対して、全社的な是正指導を新たに実施する方針が示されました。
とりわけ、企業の幹部に対して長時間労働削減や健康管理、メンタルヘルス対策について指導し、改善状況について全社的な立入調査によって確認していくこととされています。
現状では、10人以上の労働者が月100時間を超える残業を行っているなどの違法な長時間労働が1年間に3事業場で認められた場合に企業名が公表されることになっており、これまで1社が公表されています(2016年12月時点)。
一方、今回の緊急対策では現行の要件を拡大し、これまで月100時間超であった部分が月80時間超となることになりました。また、過労死等で労災支給が決定した場合も対象に加え、これらが2事業場に認められた場合には企業本社に対する指導を実施し、それでも状況が是正されない場合に企業名を公表するという方針が示されています。
複数の精神障害の労災認定があった場合に、企業本社に対してパワハラ防止も含めた個別指導を行っていくという方針が示されました。特に、過労自殺に関する事案については企業に新たに改善計画を策定させ、1年間の継続的な指導を行っていくこととされています。
メンタルヘルスに係る企業への指導を行う際には厚生労働省の作成した「パワハラ対策導入マニュアル」等を活用し、パワーハラスメントの予防や解決のために必要な取組等を含めた指導を行っていくという方針が示されました。
メンタルヘルスやパワハラ防止対策の一環として、以下の2点について新たに取り組んでいくこととされています。
◯月100時間超の時間外・休日労働をする労働者の労働時間等の情報を、事業者が産業医へ提供することを義務化し、面接指導等に必要な情報を産業医に集約すること
◯過重労働等の問題のある事業場については、長時間労働者全員への医師による緊急の面接等の実施を、都道府県労働局長が指示できる制度を整備すること
社会全体で過労死等ゼロを実現するため、事業主団体に対して労働時間の適正な把握等についての緊急要請を行うことや、労働者に対する相談窓口を充実すること、労働基準法等の法令違反で公表された事案についてホームページで一定期間掲載することといった方針が示されています。
上記のとおり、厚生労働省は長時間労働の是正や過労死等防止について強力に取組を進めていく方針を示しており、企業においても積極的に対策を講じていくことが求められます。
過労死等ゼロを実現するため、企業は下記のような取組を行っていくことが大切です。
長時間労働を是正するためには、まずは労働時間の適正な把握が欠かせません。また、今回の緊急対策では、労働者の実労働時間と自己申告した労働時間の乖離を厳しく追及していく方針が示されており、残業代を支払わないようにするために労働時間を実際よりも短く申告させるということは、今後通用しなくなってくるということができるでしょう。
勤怠管理システムを導入することなどにより労働時間を管理する体制を構築するとともに、実際の勤務時間に合わせて正しく労働時間を申告するよう、労働者に対して促していくことが欠かせません。
メンタルヘルス対策としては、2015年12月から義務化されたストレスチェック制度を着実に実施することで、労働者のストレス状況の把握やストレスチェック結果に基づいた職場環境等の改善方策を進めていくことが重要です。
ストレスチェック制度の実施にあたって必要な手続きや、ストレスチェック実施後に企業が取り組むべき事項については、下記のURLから無料でダウンロードできる「お役立ち資料」で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
・関連記事:ストレスチェック制度の導入で総務部がやるべきこと【チェックリストつき】
https://www.somu-lier.jp/oyakudachi/stress-check/
過労死等ゼロを実現するため、厚生労働省はさらに強力に取組を進めていく方針を示しました。今後、従業員に長時間労働をさせている企業などに対する監督指導が強まっていくとともに、問題のある企業名の公表基準が拡大することになります。
企業名が公表された場合、「ブラック企業」という企業イメージが定着し、経営活動に影響を与えてしまう可能性も否定できません。労働環境を改善していくことで、過労死等の防止を図っていくことは、企業にとって待ったなしの課題だといえるでしょう。
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