連続した遅刻や度重なる休暇、このような勤怠の乱れは何を意味するのでしょうか。心身の不調に早く気づくには、どのような症状が現れるのかを予め理解しておくことが重要です。また、怠慢などが理由で遅刻する人への対応も難しいものです。ここでは、勤怠の乱れが認められる社員に対し、上司としてどう対処したらよいかを解説します。
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勤怠管理では出勤日数をはじめ、遅刻や早退の回数、年次有給休暇の取得状況なども把握する必要があります。1年の中ではカゼをひいて休んだり、お子さんなど家族の体調不良を理由に休んだり、遅刻することもあるでしょう。しかし、毎週のように休む、二日、三日と連続して休みを取る、あるいは遅刻が毎日のように続くとしたら上司としての対応が必要になるでしょう。現在の体調をはじめ、受診状況や今後、想定される仕事への影響などを尋ね、職場として支援の必要性などを話し合うことが必要です。
理由が体調不良であっても、あまりに休みが多いなど逸脱した状態では仕事が停滞し、他の社員の負担が大きくなったり、士気が下がったり、さまざまな影響が考えられます。たとえば、午後からの出社が当たり前のような遅刻、あるいはフレックス制のコアタイムにも出勤しないなど基本的なルールを守れない人も少なくありません。いつも気ままな時間に出社したり、無断欠勤があったり、中には出勤率が5割にも満たない社員がいるなど上司も人事担当者も対応に苦慮するケースが実際にあるようです。
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休みが多い、遅刻や早退が多いといってもすべて心身の不調ではないものの、何らかの持病があると症状が悪化して体調を崩すこともあるでしょう。また、長時間労働が続いていると、心筋梗塞や心不全、脳出血などによる過労死の可能性が高くなります。さらに、精神障害で不調となる人も多く、休職して復職するまでに長期間かかることも少なくありません。ここでは、いくつかのうつ病のタイプを紹介しましょう。
「典型的」というのは、うつ病には躁うつ病(双極性障害)や非定型うつ病などのタイプもあるため区別をするときに用いる呼び方です。
典型的なうつ病になると不眠になることが多く、一般に朝が辛く、午後になるとやや動きやすくなるといった変化(日内変動)の影響で遅刻が増えることがあります。また、遅刻の連絡も徐々に遅くなり、上司との関係がストレスとなっている場合は上司のいない時間を見計らって電話をかけてくるといったことも起こりがちです。
うつ病の人はまじめな人が多いため、不調を感じながらも頑張り続ける傾向があり、たとえ「休んでいい」といわれても休まず頑張る人が多いです。しかし、うつ病になると頑張っているのに集中力が低下し、ミスも増え、普段より効率が下がるので結果として労働時間が長くなり、一層、疲弊してしまいます。睡眠不足で疲労も取れず、自責的になって自殺を図ってしまうこともあるので注意が必要です。
躁うつ病は双極性障害とも呼ばれる精神障害で、うつ状態だけでなく、躁状態という気分が明るく、行動も意欲も異常なほど高くなる状態を繰り返すことが特徴です。躁状態になるとやりたいことに満ち溢れ、寝るのを惜しんで行動するため夜遅くまで残業したり、何日も徹夜したり、羽目を外すような言動が目立つようになります。
会議の場でしゃべり続ける、怒りっぽくなって上司とトラブルを起こす、営業の場合は普段より積極的になり、交通事故などを起こしやすくなるといった変化も多いです。躁状態は、「病気」という自覚(病識)を持ちにくいという特徴もあります。
毎年、秋~冬にかけてうつ状態になり、休みが多くなるという人は「冬季うつ病」の可能性があります。冬季うつ病は日照時間が短くなる冬場に体調を崩し、暖かくなる頃に調子が戻るという変化が毎年のように現れるうつ病です。
また、うつ病ではなく、交感神経や副交感神経といった自律神経のバランスを崩しやすい人も季節や気候などの変化に敏感で、季節が変わる頃に症状が現れることがあります。自律神経の働きに関係する脳の視床下部や下垂体は免疫や内分泌の機能も司っているため、自律神経が乱れると免疫力も低下してカゼなどの感染症にかかりやすくなるのです。
普段とは異なる様子がみえたら不調が軽いうちに専門家につなげること、早期発見、早期治療は健康障害の重症化を防ぐ上で極めて重要なことです。また、普段と異なる休みの取り方や遅刻が急に増えたときは明確な症状ではないものの、本人は何らかの変化を感じ始めていることがあります。上司としては気になる様子があったら、声をかけて様子を尋ねるとよいでしょう。
また、長時間労働が健康障害を引き起こすことを踏まえ、勤怠管理をしっかり行うことも必要です。残業時間が多い場合には仕事の質や量の面で問題がないかを検討しましょう。さらに、使用者には安全配慮義務だけでなく、健康配慮義務もあるとされていますので、必要に応じて受診を促すなど専門家につなげることが上司に求められる対応です。
精神障害のある社員には職場としての対応に不安があり、本人から提出された診断書に基づき「就労制限」がなされることが多いです。確かに、短時間労働などの就労制限をすることにより、休職者の職場復帰が可能となり、休職することなく就労の継続が可能となるなど一定の効果が認められています。
しかし、中には短時間労働が1年以上続く、毎日、決まった時間に出勤できない状態でも上司が黙認していることもあるようです。あまりに長期間、過剰な配慮を続けると労働者として本来、提供すべき労働提供義務を果たすことが難しくなることがあります。
短時間労働にしても遅刻が続く、休みが多いなどの状態を黙認するのは、多くの場合、その状態を長引かせることになるでしょう。また、周囲の社員にもよい影響とはなりません。最近の身体の調子や受診状況などを適宜、確認して、場合によっては上司が受診に付き添い、その時期に適した就労制限について主治医に確認することも必要です。
心身の不調だけでなく、社員の怠惰や昼夜逆転などの生活の乱れ、また、電車の遅延や家族の介護などが勤怠の乱れにつながっていることもあります。ここでは、理由別に上司としての対応をみていきましょう。
“社員”と一口にいってもさまざまな人がいます。「効率化」という言葉とは無縁のようなルーズな勤務態度の人や休日に夜遅くまで遊んで休み明けはいつも寝坊で遅刻するといった社員もいるようです。また、自分の問題は棚上げで、注意されると相手をひどく批判するなど対応が難しいケースも多いので上司は困ることでしょう。しかし、黙認していると職場の雰囲気が悪くなり、まじめな社員の労働意欲が低下してしまうこともあるので気をつけてください。
生活の乱れやルーズさが理由で遅刻や休みが目立つ人に対しては、上司は黙認せずに面接の場を設け、どのような理由があったのかを尋ねましょう。そして、このような状態が続くと仕事に支障があり、同僚に迷惑をかけるなど起こりうる問題点を伝え、毅然とした態度で注意し、今後の改善に向けた本人の考えも確認してください。その後、一定の期限を定めて勤怠状態を確認して改善がみられない場合には再度、口頭で注意する、あるいは書面で注意するなど改善がない状態を放置しないことも大切です。
自社の就業規則に懲戒処分の定めがある場合でもいきなり重い処分とせず、何度か注意する段階をつくりましょう。本人に「改善の猶予期間を与える」ことが重要です。
電車の遅れによる遅刻は周囲も「仕方ない」と考え、多くは許容範囲ですが、電車の遅れとはいえ頻繁に遅れる路線であれば仕事に支障を来すこともあります。それが何度も重なり、しかも、「電車の遅延だから」と本人は周囲に迷惑をかけても悪いと思っていないような態度の場合、他の社員から不満の声が出てくることも否定できません。
遅刻があまりに目立つ場合は仕事に支障があることを伝え、電車の遅れを見込んで早めの電車で通うなど、どのように解決したらよいかを本人が考える機会をつくりましょう。
家族の看護や介護による遅刻や早退、休みが続く場合は無理のない範囲で状況を尋ねるとよいでしょう。中には、同僚からサポートを受けているにもかかわらす、感謝の気持ちが乏しい人もいます。周囲はその人がかかえる事情に理解しつつも、コミュニケーションの不足した職場では連続した遅刻を機に人間関係が悪くなることも少なくありません。
周囲の負担が大きくなると他の社員の士気にも影響し、生産性の低下なども考えられます。上司としては「介護離職を防ぐ」といった本人への視点も重要ですが、職場全体への影響も考慮し、コミュニケーション不足などが生じないよう日頃から気をつけましょう。
社員の勤怠を管理することで、社員の健康障害や働き方の問題に早めに気づくことがあります。また、一人の勤怠の乱れが職場全体に影響を及ぼすことも多く、黙認することが後々、大きな問題に発展することも少なくありません。勤怠の乱れの原因は一通りでなく、さまざまな家庭の事情が絡んでいるなど介入の難しさもありますが、理由を把握してそれぞれの理由に適した対応で解決を図りましょう。
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