現在、多くの企業で使われているITに関連するさまざまなシステムが、2025年頃に複雑化や老朽化、ブラックボックス化することが懸念されています。これにより、業務の効率性、生産性が低下することが予想され、経済産業省は警鐘を鳴らしています。企業は今後、既存のシステムを改修する必要性や、今後取り入れるべきテクノロジーの取捨選択を迫られていくでしょう。今回は「2025年の崖」の意味や背景、企業が抱える課題、今後の取り組みについて解説します。
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「2025年の崖」は、2018年7月に経済産業省が発表した「DXレポート」のなかで使われた、「既存の複雑化・老朽化・ブラックボックス化した柔軟性と機動性に欠けるシステムが残存した結果、国際競争や経済発展にネガティブな影響を与えかねない事態」を表した言葉です。経済産業省は、「2025年の崖」によって引き起こされるさまざまな問題について警鐘を鳴らしており、企業に対して、既存システムを刷新し、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進することを呼び掛けています。
「2025年の壁」に内包される問題のなかに、事業を運営するにあたって必要不可欠な複数のサービスが、2025年前後の時期にサポート期間を終了するという問題が挙げられます。終了するサービスには、以下のようなものがあります。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、IT技術を浸透させることで、事業の技術革新を導き、人々の生活をより良いものへと変革させることをいいます。経済産業省が「DXレポート」で指摘しているように、DXの推進状況において、日本は先進諸国だけでなくアジア諸国からも大きく差を付けられています。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大を契機に、国内で生活様式や働き方に大きな変化が生じた結果、DX推進が大きく加速することになりました。在宅勤務やテレワークが推進されたことにより、多くの領域でデジタル化が進み、システム変革が強く求められるようになっています。DX需要の大きさに対して、IT人材が不足しているという課題はあるものの、多くの国内企業で、DXが推進される流れが生まれつつあります。
DXとは、単なるシステムの刷新という意味だけではなく、社内ルールやビジネスモデルの転換まで、広く影響するものです。そのため、資金不足の企業や、現状の事業運営に問題を感じていない企業では、すぐに利益に直結する訳ではないDXという概念に対し、経営資金を投じることを躊躇する場合も多いようです。また、DXの必要性は認知しているものの、既存システムが古いあまりに、どこから手を付ければ良いのかわからないケースも少なくありません。しかし、どのような理由があっても、DXを全く推進しない場合には、以下のようなデメリットが生じる可能性があります。
DXは、企業のIT部門が主導したり、事業部門が個別に実施したりするものではありません。事業運営や組織文化まで、幅広い領域における革新的戦略を練っていく必要があるため、経営者が主体となって進める必要があります。経営者が自社のDX推進でどんなことが実現できるか、またどんな戦略を立てる必要があるかしっかり認識していないままでは、DXの成功は難しいでしょう。
日本国内で約8割の企業が抱えているといわれるレガシーシステムとは、メインフレームやオフィスコンピューターが、長年の使用によって複雑化し、最新技術を適用できなくなってしまった状態を指します。導入したいシステムがあってもうまくいかないケースが少なくないため、新規事業の成功を妨げているといえるでしょう。
国内企業では、インターネット黎明期から大規模なシステム開発に携わってきた人材の定年退職が進んでいます。これまで人材に依存していたノウハウが喪失するだけでなく、現在すでに深刻な問題となっているIT人材不足に拍車をかけていくでしょう。「2025年の崖」を前に、最適なIT人材が確保できない企業が増えています。
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自社で使われているシステムがどのようなものであるか把握しましょう。まず、社内で行われている業務をできる限り細分化し、書き出していきます。業務の種類ごとに、大分類・中分類・小分類の3つに分類して体系化すると分かりやすいでしょう。新しいシステムを導入するためには、小分類の業務が正確に実施することができ、かつ大分類の業務にもスムーズに繋がるものにする必要があります。このように、業務フローを可視化することで、自社の業務内容に合ったシステムがイメージしやすくなるのです。
DXを推進するためには、自社の課題を自己診断するためのツールとして経済産業省が公開した、「DX推進指標」を活用すると良いでしょう。DX推進指標は、9つのキークエスチョンとサブクエスチョンから構成されており、これらのクエスチョンに対して、それぞれの項目の達成度が定義されています。これらクエスチョンに回答していくことで、DXに関する自社の課題や、現状とのギャップが浮き彫りになり、現状を放置した場合の経営リスクと、対応した場合の経営メリットも共有しやすくなります。
経済産業省は、DX人材について、「デジタル技術やデータ活用に精通していると同時に、各事業部門においてデジタルで何ができるかを理解し、DXの取り組みをリードできる人材である」と定義しています。「エンジニアやプロデューサーならすでに社内にいる」という企業は少なくありませんが、DX人材には、技術・ビジネス・マネジメントという3つのスキルセットが必要です。企業は、このようなスキルを兼ね備えた人材を確保していく必要があります。
DX人材を確保するためには、自社で人材を育成する以外にも、外部のDX人材を派遣常駐してもらったり、DX推進のサービス提供を受けたりするなど、外部のソリューションベンダーの協力を仰ぐ方法があります。しかし、デジタルの専門家としての知識だけでなく、現場の事情に精通しながらビジネスを前進させる人材は、自社で育成する姿勢が大切であるという考えが主流になっているようです。
DX人材の育成を支援する制度には、厚生労働省による「人材開発支援助成金」などがあります。計画に基づいて専門的な知識や技能を修得するため、職業訓練や教育訓練休暇制度を実施した事業主は助成を受けることができます。DX人材の育成を考える企業は積極的に活用しましょう。
「2025年の崖」について警鐘が鳴らされるなか、多くの日本の企業にとって、DXの推進は喫緊の課題となっています。これまでは、日本独自の企業文化や伝統によって、事業におけるデジタル化は簡単なことではありませんでした。しかし、コロナ禍をきっかけに、日本のDX推進は加速しています。既存のシステムの見直しだけでなく、事業を大きく前進させるDXを実現するため、全社が一体となって取り組むことが大切でしょう。
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