近年、企業がインターネットで情報発信を行うことが多くなっていますが、「著作権」に対する適切な理解がない場合、気付かぬうちに著作権を侵害してしまうリスクがあります。
他者の著作権を侵害した場合、民事・刑事上の責任を問われて企業活動に悪影響を及ぼす可能性があることから、著作権について正しく理解して侵害を防ぐことが必要不可欠です。
今回は、著作権の概要や、著作権侵害を防ぐためのポイントを解説します。
目次
著作権とは
著作権とは、思想や感情の創作的表現である「著作物」を保護し、著作物を無断利用から守るための権利のことであり、「著作権法」により定められています。
著作権法において保護の対象となる著作物には、写真や音楽、コンピュータ・プログラムなど様々なものがあり、著作権に対する適切な理解がない場合、知らず知らずのうちに著作権を侵害してしまうリスクがあります。
他者の著作権を侵害した場合、民事上・刑事上の責任を問われる可能性があるとともに、企業の信頼度が低下するなど企業活動に悪影響を及ぼす恐れがあることから、著作権について正しく理解したうえで、著作権侵害を防ぐことが欠かせません。
著作権侵害を防ぐためのポイント
(1)保護対象となる「著作物」の条件を把握する
著作権侵害を防ぐためには、まず、著作権法上の保護対象となる「著作物」の条件を適切に把握することが必要です。著作物として認められるためには、以下の事項をすべて満たすことが必要です。
①思想または感情が表現されていること
著作物には、創作者の思想または感情が表現されていることが必要です。したがって、思想や感情とは無関係である単なるデータは著作物から除かれます。
②創作的に表現されていること
著作物は、創作者が自らの思想や感情を創作的に表現したものである必要があり、他人の著作物を単純に模倣しただけの作品や、報道された事実の情報は著作物に含まれません。
ただし、独自の創作の結果、他人の著作物と類似のものとなった場合は、著作物として認められます。
③「文芸、学術、美術または音楽の範囲」に属するものであること
著作物は、「文芸、学術、美術または音楽の範囲」に属するものであることが必要です。具体的には、著作権法において、以下のものが著作物の例示として挙げられています。
- 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
- 音楽の著作物
- 舞踊または無言劇の著作物
- 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
- 建築の著作物
- 地図または学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
- 映画の著作物
- 写真の著作物
- プログラムの著作物
④外部に向けて表現されたものであること
ここまで挙げた条件のすべてを満たしていても、それが外部に向けて表現されたものでなければ著作物にはなりません。したがって、アイデアのように、形として表現されていないものには著作物として認められません。
(2)著作者の持つ権利を知る
著作権法では、著作物を創作する者を「著作者」として定め、著作者に対して著作権等の権利を付与しています。著作権侵害を防ぐためには、著作者の有する権利の内容について把握しておくことが必要です。
著作者の有する権利の内容は、「著作者の人格的利益を保護する権利(著作者人格権)」と「著作物の利用を扱う権利(著作権)」の大きく2種類に分けられます。
①著作者の人格的利益を保護する権利(著作者人格権)
- 公表権:著作物を公表するかどうかや、公表の方法・時期などを決定できる権利
- 氏名表示権:著作物に氏名を記したり、別の名を用いたりすることが選択できる権利
- 同一性保持権:著作物の内容やタイトルを勝手に変更されない権利
②著作物の利用を扱う権利(著作権)
- 複製権:著作物を印刷・録画などの方法で複製する権利
- 上演・演奏権:著作物を公衆に向けて上演したり、演奏したりする権利
- 上映権:著作物を公衆に向けて上映する権利
- 公衆送信権:著作物をインターネットでの送信など様々な方法で公衆に送信する権利
- 口述権:本の朗読のように、著作物を公衆に口述する権利
- 展示権:美術の著作物などを原作品により公衆に展示する権利
- 頒布権:映画の著作物を、複製物の譲渡などにより公衆に提供する権利
- 譲渡権:映画以外の著作物を原作品や複製物の譲渡により公衆に提供する権利
- 貸与権:映画以外の著作物を複製物の貸与により公衆に提供する権利
- 翻訳権・翻案権等:著作物を翻訳、編曲、変形、脚色、映画化する権利
- 二次的著作物の利用の権利:翻訳物などの二次的著作物を利用する権利
著作権は、著作物が創作された時点で発生し、原則として著作者の死後50年間保護されます。著作者は、著作物の著作権を専有することから、著作者以外の人が著作物を利用する場合、原則として著作者の許諾を受けることが必要です。
なお、著作権は譲渡や相続をすることができますが(譲渡等をされた人は「著作権者」となります)、著作者人格権については譲渡や相続をすることができません。
(3)著作物を無断で利用できる条件を知る
著作物を利用する場合、原則として、著作権者の許諾を受けることが必要です。ただし、例外として、以下のような場合は著作権者に無断で著作物を利用することができます。
①私的使用
個人的に、または家族内など限られた範囲内で仕事以外の目的のために使用する場合は、著作権者の許諾を得ずに著作物の複製や編集などができます。ただし、映画館等で上映中の映画を録画することは、私的使用の場合であっても認められません。
②教育の場での使用
営利を目的としない学校の授業で著作物を複製したり、入学試験の問題として著作物を複製したりする場合などは、必要と認められる限度において無断で利用することができます。
③引用
下記の事項を満たしている場合、公表された著作物を「引用」として無断で利用することができます。ただし、引用は正当な範囲内で行うことが必要です。
- 他人の著作物を引用する必然性があること
- 自分の著作物と引用部分とが区別されていること
- 自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であり、自分の著作物が主体であること
- 出所の明示がなされていること
④転載
行政機関が発行した資料等は、転載を禁止する旨の表示がない限り、新聞や雑誌等に転載することができます。また、新聞や雑誌に掲載された時事問題に関する論説についても、利用を禁止する旨の表示がない限り、他の新聞や雑誌に転載することができます。ただし、これらの場合も、出所を明示することが必要です。
(4)著作物の利用について許諾を得る
他者の著作物を利用したい場合で、無断利用ができる条件に当てはまらない場合は、著作物の利用について著作権者から許諾を得ることが必要です。
利用の許諾は、口頭で得てもよいとされていますが、後々のトラブル発生を避けるためにも、許諾の範囲や使用料の額などを文書で確認しておくことが望ましいでしょう。
他者の著作物を無断利用して著作権を侵害した場合、著作権者から損害賠償請求などの民事上の請求が行われる可能性があります。また、著作権者から告訴された場合、刑事罰に処せられる可能性もあります。法人が著作権を侵害した場合、行為者が罰せられるほか、法人には3億円以下の罰金が科されます。
まとめ
著作権保護法により保護される著作物には、様々なものがあります。他者の著作物を利用する場合、適切に引用するなど一部の例外を除いては著作権者の許諾を得ることが必要であり、無断で利用すると著作権侵害となります。
企業が著作権侵害を行った場合、企業活動に悪影響を及ぼしてしまうことから、著作権侵害を防ぐことが必要不可欠です。著作権について正しく理解したうえで、他者の著作物を適切に利用することが大切だといえます。