カンパニー制とは、企業内の組織をそれぞれ独立した企業のように扱う組織形態です。それぞれの組織の独立性が増すことで、意思決定が迅速になり、売上や利益の責任の所在が明確になります。顧客のニーズの変化にいち早く対応するためのより弾力性の高い経営を行うことができるようになるため、カンパニー制を導入する企業が増えています。また、似たような組織形態に事業部制がありますが、その違いも正しく理解しておきましょう。今回は、カンパニー制の概要や事業部制の違い、カンパニー制のメリットやデメリット、導入の際の注意点、そして実際の導入事例までさまざまな角度から解説します。
目次
カンパニー制は、複数の事業を持つ企業がそれぞれに採算を分け、まるで独立した1つの企業かのように扱う形態を指します。同じオフィス内に席を構えながらも、おのおのの事業部は独立しています。加えて、社長に該当するポジションも設けられ、人事・経営・投資などに関わる多くの権限が付与されるのです。1994年にソニーが業績改善の目的でカンパニー制を取り入れたことから、多くの企業でも採用されるようになりました。
そもそも事業部制とは、本社部門の下に事業ごとに編成された組織を配置した形態を指します。本社部門の負担を軽減して各事業部で業務を推進できる特徴がありますが、カンパニー制と異なって独立型ではありません。重要な経営や人事に関連する意思決定については、本社や企業全体の承認や意向の確認が必要です。カンパニー制と比べると意思決定や判断といったポイントでは、事業部制はスピードで負けてしまいます。
カンパニー制導入の際にはいくつかの注意点があります。まず、明確に理解できる業績評価の基準を定めましょう。カンパニーによって優遇が発生していたり評価基準が異なったりすれば、従業員の不満が溜まります。仕事に対するモチベーションも低下しかねないので、公明正大な評価基準が求められます。次に、従業員に対して事前説明を行いましょう。カンパニー制の導入に対して心配を抱いている従業員も少なくありません。そうした不安な気持ちを軽減するためにも、数回に分けて事前説明の実施が望ましいです。経営陣だけで話を進めるのではなく、従業員との意思疎通も大切に考えましょう。
カンパニー制では責任を明確にできます。独立採算制が採用されているため、各カンパニーで売上・利益・コストといった数値がそれぞれ算出されます。各カンパニーの業績の状況は明確で、要因も見えやすいです。もし、カンパニーの不調を発見したら、原因を分析して課題に対する戦略立案を素早く行えます。
カンパニー制は従来の事業部制と比較すると、迅速に事業展開を行えます。カンパニー制ではそれぞれのカンパニーが尊重され、経営に必要な機能が与えられるとお伝えしました。新たに事業を展開する際も本社に判断を伺わなくてもカンパニー内で判断できるので、迅速にビジネスを拡大できます。結果として市場やニーズの変化への対応力が向上するので、収益性の向上も望めるのです。
カンパニー制の責任者は経営者と同等の経験を積めるため、経営スキルを持つ人材を育成できます。具体的に経験できる主な内容は以下のとおりです。
このような本来の業務だけでは習得できないスキルが向上します。企業の将来のリーダーを育成するという点においても、カンパニー制にはメリットがあるのです。
デメリットとしては部門重複によるコスト増大が懸念されます。カンパニー制だと本社が一括で管理していた機能を、それぞれの組織が持つ必要が出てきます。たとえば、社内のカンパニーごとに人事・総務・経理といった機能を設けると、企業内で重複が発生してしまうのです。もし、部門を新設して人材を配置するとなれば人件費が膨らみます。加えて、管理システムの導入などの環境整備も必要となればさらにコストがかかるでしょう。
トヨタ自動車株式会社では2016年よりカンパニー制を導入しています。製品群ごとにカンパニー体制を設置して、中短期の商品計画や製品企画が推進されました。責任や権限はカンパニーの各プレジデントに集約され、企画から生産まで一貫したオペレーションが実施されたのです。カンパニー制の導入には「もっといいクルマづくり」と、それを支える「人材育成」に狙いがあるといいます。トヨタ自動車株式会社の体制はカンパニー制で強化され、資材価格の高騰や半導体不足といった厳しい経営環境でも成長が継続されています。
株式会社みずほ銀行でも2016年よりカンパニー制が導入されました。当時の10ユニット体制から、5カンパニー+2ユニットに再編されたのです。カンパニー制の一番の狙いは、お客様第一の観点からのアプローチを徹底的に強化することだったといいます。より具体的には、顧客セグメントごとに一貫した体制を構築することで、カンパニーごとの収益性を追求する経営体制に転換を図ったのです。加えて、本部スリム化による現場への人員シフトとスピーディな意思決定を行うことで、現場力と営業力の強化も実現されています。
沖電気工業株式会社では2000年からカンパニー制が導入されました。グループ全体の経営と個別の事業遂行のマネージメント体制を明確に分離することが目的だったといいます。さらに、変化するビジネスモデルに柔軟かつスピーディに対応するためにカンパニー制が必要とされていました。結果としてそれぞれのカンパニーの自己完結性が高まり、スピードある経営が沖電気工業株式会社では行われています。加えて、戦略企画機能を高めた小さなコーポレートも実現されました。
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カンパニー制の導入は企業の仕事の進め方を大きく変えます。本社に頼らずにさまざまな意思決定を可能とするカンパニー制は、多くの企業の業務改善を実現してきました。部門重複といったデメリットに配慮は必要ですが、上手に機能させればそれ以上の効果が期待できます。ただし、カンパニー制の導入を成功させるためには、事業部制などとの比較検討も大切です。カンパニー制の特徴を良く把握したうえで企業改革に着手しましょう。
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