エコ活動や健康への関心の高まりにより、自転車に乗って通勤する人が増えてきています。自転車通勤は満員電車の混雑緩和や道路渋滞の解消にもつながる取り組みですが、通勤中の事故や通勤費の取り扱い、駐輪場の確保など、問題も多くあります。今回は、自転車通勤をすることのメリット・デメリットと、企業が行うべき自転車通勤者への対応について解説していきます。
目次
近年、都市部では満員電車の回避や健康維持のために自転車通勤をする人が増えてきました。しかし、公共交通機関や自動車といったこれまでの通勤方法に比べると、自転車通勤を制度として正式に導入するまでには様々な問題が山積しており、いまひとつ企業側のメリットが見えてきません。社員の自転車通勤を奨励するメリットには、どのようなものがあるのでしょうか。
自転車通勤制度導入のメリットとして最初に挙げられるは、コスト削減です。マイカー通勤のための駐車場の維持費用や、ガソリン代の支給が大幅に削減できます。また、公共交通機関を利用している社員が自転車通勤に変更した場合、自転車通勤の手当てを支給したとしても、公共交通機関の定期代よりも支給額が削減されることが期待できます。さらに、自転車通勤はエコ対策にもなりますので、環境に配慮したエコ意識の高い企業としてPRすることができます。
自転車通勤制度を導入することは、社員の健康維持増進につながります。スポーツ庁が行った2018年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」によると、運動不足を「感じる」「大いに感じる」とする割合は80.5%にものぼっています。また、運動不足の原因については、男女ともに「仕事や家事が忙しいから」が40~60%程度と高い割合となっており、日常的に運動不足を気にしつつも、運動をする時間がないという人が多いことがわかります。企業が自転車通勤制度を取り入れれば、社員の健康的な生活を促進することになり、ひいては仕事へのモチベーションアップ、生産性アップにもつながるでしょう。
関連記事:
・はじめよう、健康経営―企業の活力は、従業員の健康から―
・「エコとはなにか?」あらためて考えさせられる海外企業の環境保全CSR活動7選
自転車通勤には上記のようなメリットがある一方で、正式な導入の前に考えなければならない問題も存在します。
自転車通勤には様々な危険が潜んでいます。転倒によるケガや自動車との接触事故、さらには自転車を運転している社員自身が加害者になってしまうケースがあります。国土交通省が2015年度に実施した調査によると、自転車と歩行者の間での事故は過去10年で1.3倍に増加しており、死亡事故も増加傾向にあります。記憶に新しいところでは、信号を無視した46歳の会社員の自転車が横断歩道を横断中の75歳の女性と衝突し、女性が死亡したケースがあります(2014年1月東京地裁の判決)。また、自転車で出勤中の男性会社員の自転車が、散歩中の77歳の男性と衝突したケースでも、歩行者の男性は3日後に死亡しました(2013年3月東京地裁)。このように、自転車と歩行者の事故は大きなニュースとして取り上げられることも多く、賠償問題に発展した場合、事故を起こした社員に支払能力がなければ、自転車通勤を容認した企業の使用者責任が問われる事態にもなりかねません。また、免許を必要としない自転車は誰でも気軽に運転できますので、出勤途中や帰宅途中に寄り道がしやすくなります。自転車通勤を容認するなら、自転車の通勤途中の事故について、「合理的な経路および方法」を外れた場合は労災保険の対象外であることを周知徹底する必要があるでしょう。
都心部のオフィス街に駐輪場を確保できるのか、また、確保できたとしても費用は社員が負担するのかどうかも決めておかなければなりません。また、自転車の放置や違法駐輪が社会問題となっていますので、違法駐輪をした場合の社内ルールなども整備しておく必要があります。
上記のような自転車通勤の問題は、どのように解決すればいいのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
自転車通勤を申請してきた社員に対して、民間の自転車保険への加入を義務付け、保険証書の提出を求めます。自転車保険は、社員が被害者・加害者になってしまった時に、「自分のケガ」および「相手への賠償」が補償されます。もちろん、通勤時の事故による負傷は「合理的は経路および方法」で通勤しているなら労災保険が適用されます。しかし、前述したように相手にケガをさせてしまった場合、自転車を運転していた社員に支払能力がなければ企業に使用者責任が及ぶ可能性があります。民間の自転車保険は1年更新のものがほとんどですので、契約切れにならないよう契約更新時にも保険証書の再提示を求めておきましょう。
公共交通機関やマイカーでの通勤規定は整備されていても、自転車通勤の通勤規定は設けていないという企業がほとんどではないでしょうか。自転車通勤の通勤費の取り扱いは、マイカー通勤の規定を応用する形で、距離に応じた通勤手当の支給基準を設けておくと、体調不良や悪天候時に公共交通機関を利用した場合でも、都度交通費を実費で支払うといった煩雑な作業をする必要がなくなるでしょう。
自転車通勤を認める場合は、就業規則で自転車通勤規定を設けましょう。自転車保険への加入はもちろん、整備不良の自転車運転の禁止、通勤圏内の距離範囲、交通ルールの厳守(飲酒運転、イヤホンやヘッドホン、傘の利用の禁止)などを明確にしておく必要があります。また、自転車通勤規則の社員への周知を徹底しておきましょう。
関連記事:
・通勤中に事故に遭ったらー第三者行為災害とは?
・「通勤災害」の範囲をマスター!直行直帰の場合は?親の介護のための寄り道は?
・STOP労働災害! 日常でできる労災の防止策を紹介
自転車通勤のメリットや問題点をお伝えしてきました。企業にとって自転車通勤を認めることはリスクが伴います。しかし、社員の健康維持増進やモチベーションアップにつながり、エコを推進する企業としてのイメージアップも図れます。考えうるリスクを適切に対処する明確なルール作りをすれば、自転車通勤の課題をひとつずつクリアしていけるのではないでしょうか。
This website uses cookies.