自由な働き方を実現するABWとは?フリーアドレスとの違いについて解説

ABWとはアクティビティ・ベースド・ワーキングの略で、労働者が、自身の業務効率を最大化できる場所や時間を選択して働くことをいいます。フリーアドレス制度とは異なり、オフィスに縛られない働き方が可能な一方で、働く様子が把握しづらいことや、コミュニケーション不足の懸念といったデメリットがあるため、導入前に慎重にルール作りを行いましょう。今回は、ABWの意味やフリーアドレスとの違い、メリット・デメリット、導入のポイント、オフィス事例について解説します。

ABWで私たちの働き方が変わる

ABWとは

そもそも、ABWという言葉は、経営学誌「ハーバード・ビジネス・レビュー」において1985年に掲載された論文を起源とします。その後、1990年代にオランダのコンサルティング会社であるヴェルデホーエン社による著書や、ABWを導入したオフィスの建築プロジェクトなどによって、世界的に知られるようになりました。ヴェルデホーエン社によれば、仕事とは、以下のようなアクティビティに分類することができるため、それぞれの業務がストレスなく行えるオフィスのレイアウトにすることが望ましいとしています。

  • 一人で行う業務
  1. 高集中
    企画書や資料作成など、一人で集中することで最もパフォーマンスがあがるとされる作業です。外部との接触をシャットアウトする環境がふさわしいでしょう。
  2. コワーク
    個人作業をしながらも、質疑応答など他者とコミュニケーションを取ることで、パフォーマンスが上がる作業です。数人で大テーブルを囲んで作業できる空間が良いでしょう。
  3. 電話/WEB会議
    音漏れや外部の話し声が気にならない環境が必要な業務です。
  • 2人で行う業務
  1. 2人作業
    2人で共同して同じ作業をする場合、2人並んで一つのモニターを見ることができる空間があると良いでしょう。
  2. 対話
    1on1ミーティングのように、他者には聞かれたくない話や相談事ができるスペースがあると良いでしょう。
  • 3人以上で行う作業
    3人以上で行う作業には以下のようなものがあります。いずれも、ある程度の人数が着席できる広さで、ホワイトボードやスクリーンなどが設置できる空間が望ましいでしょう。
  1. 情報整理
  2. 知識共有
  3. アイデア出し
  • その他
  1. リチャージ
    すべての業務から離れて心身ともにリフレッシュできる空間があると良いでしょう。
  2. 専門作業
    専門の道具や設備が必要な作業がある場合、専用の空間を作る必要があります。

フリーアドレスとの違い

ABWを「場所にとらわれない働き方」と理解している場合、フリーアドレスも同じような考え方なのではないか、と思う人もいるでしょう。フリーアドレスとは、オフィス内で個人の特定の席を持たず、自由な席で働くスタイルをいいます。確かに、フリーアドレスもABWの一要素といえるでしょう。
しかし、ヴェルデホーエン社によると、フリーアドレスは単に「席の移動」という物理的選択肢を与えるにすぎず、真のABWの実践とは、「チーム間のより良いコラボレーションを促し、真の繋がりを育み、イノベーションを推進し、優秀な人材を確保するためのアプローチ」であるとしています。要するに、ABWとは、「働きやすさ」を追求することが目的ではなく、企業側が、従業員の働き方や生産性を環境面から積極的にコントロールしていこうという考え方なのです。そのため、業務内容に特化して作りこまれた空間をデザインしていくのがABWの特徴といえるでしょう。また、ABWでは必要に応じて自宅やカフェなどからも仕事を行うことを推奨しているため、働く場所もオフィスだけとは限りません。

アフターコロナとABW

多くの日本企業では、個人のデスクで1日座って作業をする、おなじみのオフィス風景が一般的でしたが、新型コロナウイルス感染症の拡大をきっかけに、私たちの働き方は大きく変化しようとしています。感染予防のための施策の一つとして、テレワークが急速に普及し、従業員の働き方にも柔軟性が認められるようになりました。
その結果、自宅で取り組んだ方が集中できる作業があること、出社しなければ進められない作業があることなど、環境が労働効率に与える影響について、多くの従業員や経営者が実感することになりました。これまでのように、定時に出社し、オフィスの決められたデスクで作業するという常識は崩れ、より業務内容に特化した空間づくりや、最も効率の良い働き方を求める動きが高まっているといえるでしょう。

  

ABW導入のさまざまなメリット

コストの削減に繋がる

ABWを実践すると、固定席を作る必要が無く、テレワークによる勤務も導入していくことになります。そのため、効率的にオフィススペースを利用できるので、オフィスの縮小化が期待できるでしょう。また、賃料や電気代などの固定費の削減にもなります。

生産性が向上する

業務の種類や工程に応じて最適な空間を選べることで、集中力を高め、作業効率アップに繋げることができるでしょう。

従業員満足度が向上する

さまざまな働き方に適応したオフィスは、従業員の仕事へのストレスを軽減します。また、テレワークなどを活用することで、ワークライフバランスの向上にも繋がるでしょう。それぞれの業務がのびのびとできる環境は、仕事に対するネガティブなイメージを払拭してくれるでしょう。

企業イメージがアップする

働きやすいオフィスの実現は、企業のイメージアップにも繋がります。ABWを意識したオフィス作りは、従業員の働く環境にしっかりと向き合うというポジティブな印象を周囲に広めるでしょう。企業のアピールポイントとしてABWを上手に活用して、優秀な人材獲得を目指しましょう。

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ABWを実施する上での懸念点

メリットの多いABWですが、懸念点もあります。第一に挙げられるのはマネジメントの難しさです。従業員がさまざまな場所で仕事を行うため、管理者は従業員の働く様子を見られない状況が考えられます。そのため、従業員管理には工夫が必要になるでしょう。
もっとも、ヴェルデホーエン社は、ABWを効果的に実践するために必要な事項の一つに、「信頼することで責任を生み出す、そして権限を与える」ことを挙げています。このことから、ABWを実践していくためには、従業員による裁量の幅をある程度広く持つことが重要といえるでしょう。従業員の勤務状況を把握したい場合は、固定のミーティングを設定したり、勤怠システムを導入したりすると良いでしょう。

  

ABW導入に成功したオフィス事例集

コクヨ株式会社

コクヨ株式会社の品川SSTオフィスでは、これまで残業が多く、長時間労働が常態化していました。そこで、従業員の心身の健康を確保することを目的に、ABWに特化したオフィスの整備を行いました。具体的には、コワーキングスペースなどの拡充、業務内容や目的に合わせた作業スペースの構築などです。また、位置情報システムの導入によって従業員のスケジュール確認や、コミュニケーションロス問題を解消しています。ABWの導入によって業務の無駄を削減することで、従業員のメリハリある働き方を実現しました。

ハウス食品株式会社

ハウス食品株式会社は、創業100周年事業の一環として大阪本社を新築し、旧大阪本社ビルを含む3拠点を統合しました。新オフィスでは、随所でABWの考え方が生かされており、打ち合わせ・立ち会議・集中コーナーなどが設けられ、自席という場所に縛られない、適業適所の職場環境を構築しました。また、将来のフリーアドレス化を想定した大型ロングデスクや、書類などが収納できる個人ロッカーなども特徴的です。

株式会社イトーキ

株式会社イトーキは2018年秋に首都圏のオフィスを集約し、新本社オフィスとして日本橋にITOKI TOKYO XORKを誕生させました。従業員の仕事における10の活動を最大化する空間機能要件と、心身の健康を保つ空間品質要件を統合して設計された次世代のワークスタイルを実現しています。さらに、仕事から隔絶した環境で心を整え、気持ちの切り替えを促すリフレッシュスペースも用意されており、仕事のさまざまな場面を想定しています。

  

まとめ

ABWという考え方は比較的長い歴史があるものですが、一部の大企業やベンチャー企業を除けば、長い期間、日本の伝統的なオフィス風景にABWの考え方が入り込む余地はなかったといえるでしょう。しかし、コロナ禍によって、働き方の柔軟性が高まり、従業員や経営者の認識に変化が起こったことにより、ABWのメリットが注目されるようになりました。従来の職場環境を改善する際は、ABWの考え方を取り入れてはいかがでしょうか。

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