テレワークの普及が進んだことにより、ハンコを押すためだけに出社する「ハンコ出社」が注目を集め、脱ハンコ化へ向けた議論が活発に行われました。ハンコ文化は働き方改革やペーパーレス化を進める上で障害となっており、脱ハンコ化をすることで生産性向上につながります。電子印鑑や電子署名を導入することで、脱ハンコ化に取り掛かりましょう。今回は、日本のハンコ文化の現状や脱ハンコ化に向けた課題、脱ハンコのメリット、取り組む方法について解説していきます。
2020年6月19日に内閣府、厚生労働省、経済産業省が発表した「押印についてのQ&A」によると、「契約とは当事者の意思の合致により成立する」ものであり、契約書に押印をしなくても契約の効力に影響は生じないとされています。しかし、多くの日本企業において契約の際は押印が必要なものとなっているのが現状です。これは民間企業だけでなく政府でも同様で、押印の廃止やペーパーレス化への対応が進んでいません。
上記の背景には、日本特有の組織改革のしにくさや、デジタル技術に対して「冷たい」印象があるといった文化的要因が挙げられるでしょう。すなわち、政府・民間ともに意思決定者の権限が明確化されておらず決定の度に周囲の同意が必要とされる事情や、非効率であっても丁寧さが見えることを良しとする日本人の価値観が脱ハンコ化を妨げているといえるのです。
脱ハンコ文化に向けた課題は三つあります。一つ目はハンコを電子化するための初期費用です。ハンコの電子化のためにシステムを導入するとなると高額な費用が発生するため、気軽に導入できるものではありません。二つ目は、自社のみ導入しても、取引先がハンコの電子化に対応していなければ効果を得られない点です。取引先が紙の書類やハンコによる契約形式のままであれば、これまでと同じ作業が必要となってしまいます。三つ目はセキュリティの問題です。一般的に普及している電子印鑑は印影画像を登録したいわゆるただの画像データの場合が多く、安全性が高いとはいえません。このように、初期費用や取引先の理解・契約形式、セキュリティ性が脱ハンコ化の課題となっています。
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オンライン上で契約のやり取りをすることによって、印刷・製本・押印・郵送、さらには相手方の押印・返送などの業務を省略できるため、業務効率化につながります。また、紙の書類にハンコを押す場合は、社員がハンコを持つ人に書類を持っていかなければなりませんでした。しかし、オンライン上で完結すれば、いつでもどこでも依頼や承認が可能です。また、後日、契約関連の書類を探す際も電子データであれば検索をかけるだけですぐに探し出せます。このように、脱ハンコ化によって従来までの無駄な作業が減り、事務作業が大幅に短縮できるでしょう。
ペーパーレス化することで、郵送代や封筒代、紙代、インク代、プリンターのメンテナンス代、契約書の保管コストなどのコスト削減が期待できます。また、契約書などで課税対象の書類の場合は印紙を貼付しなければなりませんが、電子契約であれば印紙税もかからないため、印紙代がかかりません。さらに、印刷や封入、郵送をするための人件費や郵送費なども削減できるでしょう。年間に換算すると、多額のコスト削減になり得ます。
電子印鑑とは、パソコンで使用できるデータ化された印鑑のことです。PDFなどのデータ化された書類に押印できます。電子印鑑には、印影をそのまま画像にしたものと印影に使用者や日付などのデータを加えたものの2種類があります。前者は費用が無料、あるいは低価格なため手軽に作成できますが、その分簡単に複製できるため重要な書類には使用できません。一方、後者の印影の使用者や押印日時などのデータが入った電子印鑑は、識別情報が組み込まれていることから印鑑としての効力が高くなります。しかし、企業や個人によっては電子印鑑の使用を認めていない場合もあるため、使用時は取引先や相手の確認が必要です。
電子署名とは、電磁的記録に記録された情報について作成者を示す目的で行われる暗号化の措置のことです。簡単にいうと、誰でも知ることができる公開暗号や作成者のみしか知らない秘密鍵、署名した時刻を証明するタイムスタンプを用いたセキュリティ性の高い電子印鑑を指します。前述した印影の使用者や押印日時などのデータが入った電子印鑑を電子署名と呼ぶこともあります。2016年4月1日に施行された電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)に基づき、国指定の認証局により電子証明書を発行してもらうことで正式な署名としての証明が可能です。ただし、電子署名の場合も取引先に使用の可否の確認をする必要があります。
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ここまで、脱ハンコ化には初期費用や取引先の理解・契約形式、セキュリティ性などの課題が残されていることや、実現すれば業務効率化やコスト削減などのメリットが得られることについてご紹介しました。印影をそのまま画像にした電子印鑑は社内の書類、暗号化されて使用者や押印日時などのデータが入った電子署名は社外との契約書に使用するなど、使用用途に応じて使い分けるのも効果的です。業務効率化やコスト削減のためにも脱ハンコ化に向けた取り組みを進めると良いでしょう。
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