通勤手当は合理的な最短経路で通勤した場合に、上限15万円まで非課税で支給されます。ただ、テレワークの普及に伴い出社と在宅勤務が混在するなかで、通勤定期代の支給条件変更や自宅勤務手当への移行検討、就業規約の変更など企業が調整すべき事項は多岐に及びます。今回は通勤手当の定義や通勤手当の変更に関する注意点、就業規約の変更、在宅勤務手当へ変更した場合の注意点を解説します。
目次
通勤手当の定義
通勤手当の支払いは義務ではない
通勤手当とは、従業員の通勤にかかる費用を手当として支給する制度です。通勤費の全額または一部を企業が負担し、現金支給や定期券などの現物支給を行います。通勤手当を導入している企業は多く、従業員にとっては、最も身近な「手当」といえるでしょう。しかし、実は企業に通勤手当の支払いを義務付ける法的な根拠はありません。そのため、通勤手当を導入していない企業もあります。
通勤手当は給与に含まれるのか
- 給与に含まれる
企業には通勤手当の支払い義務はなく、原則は従業員の自己負担です。そのため、通勤手当が支払われる場合は賃金、すなわち所得とみなされます。所得には所得税がかかりますが、通勤手当の場合、最も合理的かつ経済的な経路を利用するという条件を満たせば、15万円までは非課税になります。2016年度の税制改正により通勤手当の非課税限度額の引き上げが実施され、現在の金額になりました。 - 社会保険の計算では含まれる
一方、社会保険料を計算する場合は、通勤手当が収入に含まれるので注意しましょう。通勤手当だけでなく、社会保険については、労働の対償として支払う全てのものが対象となると定義されています。そのため、社会保険に未加入だったアルバイトやパートの方も、通勤手当をもらうことで思ったより収入が増えてしまい、「社会保険加入の壁」とよばれる106万円を超えてしまうケースもあります。
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テレワークで通勤手当を変更するときの注意点
就業規則の変更
就業規則に通勤手当の規定がある場合は、就業規則の変更が必要です。テレワーク導入により、通勤の必要がなくなったことから、通勤手当の廃止、あるいは減額を検討する企業も増えています。しかし、就業規則の不利益変更には合理性があることが必要です。合理性の有無は以下の条件により判断されます。
- 従業員の受ける不利益の程度
- 労働条件の変更の必要性
- 変更後の就業規則の相当性
- 労働組合などとの交渉の状況
テレワークを導入することで、実際に従業員の通勤費用の負担が減るため、通勤手当の廃止、あるいは減額には合理性があるとみなされます。就業規則の変更をする場合は、労使でよく話し合い、「就業規則(変更)届及び意見書」を、労働基準監督署長へ提出するとともに、従業員への周知を徹底することが大切です。また、就業規則に「1週間以上通勤しない日がある者の通勤手当は、日割り計算とし、実際に通勤した日についてのみ支給する」などの文言がある場合は、就業規則の変更せずに支給条件を変更することが可能です。
実費支給にする場合の注意点
テレワークを導入した多くの企業が、通勤手当の実費支給を検討しています。出社しない日が多ければ、実費支給にすればコストメリットがあると見込まれるためです。しかし、このとき注意しなければならないのは、「直近一ヶ月の従業員のテレワーク率」や、「半年後、あるいは1年後のテレワーク率」について、明確な予想ができているかどうかです。ただ闇雲に通勤手当を実費支給にするだけでは、コストメリットが大きくないだけでなく、通勤定期の割引率なども考慮すると、かえって負担が大きくなってしまうこともあります。なお、就業規則に、「通勤費として通勤定期代相当額を支給する」などの記載がある場合は、実費支給への変更の際に、就業規則の変更手続きも必要です。
在宅勤務手当を支給する場合
在宅勤務手当とは
在宅勤務手当とは、テレワークをする従業員に支給される手当です。従業員が自宅で勤務するということは、家にいる時間が増えるため、光熱費が増加します。さらに、家で仕事をするためには、通信設備や周辺機器を揃えるなど、環境整備をする必要があるため、従業員の負担になるでしょう。こうした負担を少しでも軽減をするために、在宅勤務手当を導入する企業が増えています。
在宅勤務手当の課税
- 実費請求の場合は非課税
テレワークで発生する費用を、実費請求している場合、給与に該当しないため非課税になります。たとえば、事務用品や、パソコンなどを従業員がテレワークのために購入し、領収書などを根拠に、費用を企業が負担する場合は、実費請求です。通信費や電気料金についても、業務利用の部分を定められた方法で算出した場合は、非課税対象として扱われます。 - 一律支給の場合は課税する
全従業員に一律で在宅勤務手当を支給する場合は、給与として課税します。一律で支給された場合は、在宅勤務手当といっても、その使用用途は自由です。
従業員の負担の変化
- 通勤手当を同額の在宅勤務手当に変更した場合の変化
通勤手当が15万円までは非課税扱いされるのに対し、一般的な一律支給の在宅勤務手当は課税対象です。そのため、通勤手当を同額の在宅勤務手当に変更した場合、非課税の手当が課税対象となるため、手取り額が減少します。ただし、通勤手当が実費補填であるのに対し、在宅勤務手当の使用用途は従業員の自由であるため、利便性の面では向上するといえるでしょう。 - 通勤手当が高額だった場合、社会保険料に影響
通勤手当は、社会保険料の計算をする際は、収入に含まれます。従って、従来の通勤手当が高額だった場合、在宅勤務手当になることで収入が減る可能性があります。そのような場合、標準報酬が2等級以上変動し、保険料が減額されるケースもあるでしょう。遠方から通勤されている方などで、通勤手当の支払い方法が変わる場合は、社会保険料にも注目してみましょう。また、人事労務担当者は、随時改定(月額変更届)が必要な従業員については、を忘れずに提出しましょう。
非課税の手当を導入する場合
在宅勤務手当を導入している企業は増えていますが、上述の通り、在宅勤務手当は、所得税の課税対象になります。非課税枠が設けられている通勤手当の代わりに導入するのであれば、所得税を気にせずに導入できる非課税手当を検討してみるのも良いでしょう。
非課税手当
企業で実際に導入されている代表的な非課税手当には以下のようなものがあります。
- 食事補助手当
- 旅費手当
- 出張費手当
- 家賃補助
- 現物支給
- 学資金
- 研修手当
- 災害補償金
- 宿直手当
- 見舞金
食事補助手当の場合の運用方法
新型コロナウイルスの影響で、テレワークなど、新しい働き方の導入が進むなか、注目を集めているのが食事補助手当です。食事補助手当の利用方法はさまざまで、ケータリングサービスや、全国にあるカフェやファミリーレストランなどで利用することが可能です。テレワーク勤務と相性の良い食事補助手当ですが、非課税での支給には以下のような条件があります。
- 従業員が食事費用の半分以上を負担していること
- 支給額が1ヶ月当たり3,500円(税抜き)以下であること
上記の条件を満たしていれば、食事補助手当を非課税で支給することができます。
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まとめ
新型コロナウイルスの影響により、ただ単に、従業員の労働環境を整えるというだけでなく、通勤手当から在宅勤務手当への変更や、福利厚生の見直しを求められるケースも増えています。
通勤手当を廃止、あるいは実費支給にすれば、コストカットに繋がるように見えますが、企業のテレワーク率によっては、かえって負担が大きくなる可能性もあります。また、就業規則の変更や、社会保険料の改定など、想定以上の業務が付随する可能性を考慮する必要があるでしょう。手当の廃止や変更をするにあたって、どのような対応が必要か認識し、事前によく検討すると良いでしょう。