労働者災害補償保険法とは、労働者が通勤途中に負った傷病や、業務に起因する災害に遭った際に補償される制度です。労働者補償保険法の改正により、2020年から複数の勤務先を持つ労働者の労災保険給付や評価方法が変更されているため注意が必要です。今回は労働者災害補償保険法の内容や給付の種類、現行法と今回の改正後の相違点、給付請求時の注意点について解説します。
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労災保険では、業務や通勤が原因となり、負傷・疾病・障害・死亡などが生じた労働者に対して、必要な保険給付を行うことで、治療にかかる費用や働けない間の生活費を補償します。労災保険給付の意義は、ケガや病気によって働けない労働者の社会復帰を促進したり、労働者本人や、労働者が死亡した際はその遺族の生活を補償したりすることだけではありません。保険給付によって本来企業が支払うべき多額の損害賠償金が肩代わりされるため、企業の倒産を防ぐことも大切な役割の一つです。
どのような業種であるかに関わらず、労働災害を完全に防ぎきることは困難です。企業の発展と、労働者が安心して働ける環境を維持するためにも、労災保険は重要なものといえるでしょう。
労災保険法には、8種類の労災保険給付が設けられています。
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改正労災保険法では、施行日である2020年9月1日以降に、傷病や疾病が生じた労働者と、死亡した労働者の遺族が対象となります。
近年では、パートやアルバイトの掛け持ちなど、一つの勤務先だけに縛られない、多様な働き方をする人が増加しています。また、企業の業績不振により、副業をせざるを得なくなった労働者も少なくないでしょう。
これまでの労災保険法では、労災事故の認定は、一つの勤務先でのみ行われてきました。しかし、上記のような状況を鑑みて、労災事故の認定についても、複数の勤務先における総労働時間や、総合的なストレス負荷を判断する必要性があることが指摘されていました。これまでは例外的な扱いであった「複数事業労働者」が一般的になったことで、新たな仕組み作りが必要になったのです。
改正前は、保険給付のもととなる給付基礎日額については、事故が起きた勤務先の賃金額のみをもとに算出していましたが、改正後は、すべての勤務先の賃金を合計した額をもとに算出されるようになります。
これまでは、労働時間やストレスなどの業務に起因する負荷を、勤務先ごとに個別で評価していました。そのため、それぞれの勤務先の労働状況を判断した結果、労災事故と認定されない場合がありました。このように、勤務先ごとの個別評価で労災認定できない場合、すべての勤務先の労働時間やストレス負荷などを総合的に評価して労災認定できるようにしたのが今回の改正です。対象となる疾病は脳・心臓疾患や精神障害などです。
今回の改正には、経過措置が設けられているため、改正労災保険法の施行日の2020年9月1日以後に発生した傷病のみが対象です。従って、2020年8月31日以前に発生した傷病については、改正前の制度が適用されます。
また、労災保険には、各事業所の業務災害の多さ・少なさに応じて労災保険率や保険料を増減させるメリット制が設けられています。今回の制度改正においてメリット制に影響はなく、これまで通り、労働災害が発生した事業場における保険給付額のみがメリット制に影響することを覚えておきましょう。
制度改正に伴い各種様式が変更されているので、提出時に不備がないように注意しましょう。
複数の勤務先がある場合、「その他就業先の有無」欄に以下の項目を適切に記入する必要があります。未記入の場合は複数事業労働者とみなされないため、注意してください。
複数の勤務先がある場合、勤務先ごとに別紙を記入し、事業所の証明を受けたうえで、労災保険給付の請求時に提出します。別紙の提出が必要となる場合は以下のとおりです。
「複数業務要因災害」として労災認定されるのは、一つの事業場において「業務災害」として認定されない場合に限ります。従って、「業務災害・複数業務要因災害用」として、保険給付の請求書を兼用することになります。なお、疾病に関する申請の場合、脳・心臓疾患、精神障害およびその他2以上の業務を要因とする疾病以外の請求ができるのは、一つの事業場における「業務災害」のみです。
また、「業務災害」と「複数業務要因災害」の保険給付請求は同時に行うことが可能です。ただし、支給される保険給付はいずれかのみである点と、業務災害として労災認定される場合は、業務災害が優先される点には十分注意しましょう。
複数業務要因災害に係る労災保険給付の請求であっても、いずれか一つの勤務先の管轄労働基準監督署に提出すれば問題ありません。複数の勤務先の管轄労働基準監督署すべてに対し請求書を提出する必要はないことを覚えておきましょう。
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今回の改正をきっかけに、企業は、自社における労働者の働き方を把握するのはもちろんのこと、その労働者がほかに勤務先を持っていないか、またその勤務先における労働条件がどのようなものか、しっかり把握しなければならなくなったといえます。
副業は、収入アップだけでなく、スキルアップや人脈形成の機会にもなります。企業の負担が増えるからといって安易に副業を禁止するのではなく、自社の魅力や労働条件の向上に努め、少なくとも労災事故に発展するような「働きすぎ」を防止できる社会を作りましょう。
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