平成30年4月6日に国会へ提出された働き方改革関連法案には、労働時間の規制の強化や非正規雇用者の待遇問題への対処などが盛り込まれています。今回は働き方改革関連法案の内容について具体的に解説していきます。
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働き方改革とは、多様な働き方を可能にし、労働生産性を向上することを目的とする一連の取組みを指します。安倍内閣が提唱する1億総活躍社会の実現のための「最大のチャレンジ」として位置づけられています。
少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少という構造的問題に加え、雇用形態による大きな待遇の差、長時間労働の蔓延、硬直したキャリアパスにおける選択肢の少なさなどが、日本企業の労働生産性の向上を阻んでいます。現在の日本が直面しているこうした種々の課題を包括的に解決し、労働者1人ひとりが労働に対するモチベーションを高く持てるための労働制度の抜本的改革として、働き方改革は構想されています。
平成30年度通常国会に提出された働き方改革関連法案の原案は、安倍総理が議長となって労働界・産業界のトップと有識者達を多数交えた働き方改革実現会議にて検討されました。様々なアクターの思惑が交錯する形で練られたこの法案が、現在の国会での審議を経て最終的にどのように成立するのか、注目すべきポイントは多岐にわたります。
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より良い労働環境を作ると一口にいっても、様々な方法がありえます。働き方改革では長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方、雇用形態にかかわらない公正な待遇という3つの大きな軸を中心に、いくつもの施策が検討されています。
現行の労働基準法の規定では、法定労働時間を超える労働は、同法第36条に基づいた労使間の協定が提出されていることを条件に、月45時間、年360時間まで認められています。ただし例外措置として、短期的に特別な事情がある場合は、年間6ヶ月を限度に延長することが可能となっています。その際、使用者は労働者側の合意さえ得られれば、労働時間の上限を好きに設定することができます。
働き方改革法案では、法定労働時間外労働の原則的な上限時間は従来通りの月45時間、年360時間ですが、臨時的な特別な事情がある場合にも、ひと月のみなら100時間未満、複数月にわたる場合は平均80時間、年720時間という上限を設けています。これは労働時間についての規制がより強化されていると評価できます。
なお、医師や建設業従事者など、適用が除外または猶予される事業・業務も存在します。
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柔軟な働き方に関する改革案のひとつに、高度プロフェッショナル制度があります。これは医師などの高度な専門性を必要とする業務に従事し、1,000万円を超える年収がある労働者を対象に、一定の条件を満たせば労働時間や休日、深夜割増賃金に関する諸々の労働基準法の規定を適用しなくてもよいという制度です
上記の「一定の条件」として挙げられるのは、①労使委員会の決議、②本人の同意、③仕事場内外での労働時間を把握する手立て、④年間104日以上の休日の付与です。また、次のうちのいずれかを満たすことも義務とされます。
この制度は、成果主義を前提とした柔軟な働き方の実現を目的とします。しかしながら、職種を限定しているとはいえ労働時間の上限規制の撤廃に対する批判の声は大きく、今回の働き方改革関連法案の中でも成立の可否をめぐって最も注目を集めています。
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テレワークとは、簡単に言えばインターネット等の通信技術を用いて、オフィスから離れた場所からでも仕事に参加する働き方のことです。日本でもテレワークによる在宅勤務が徐々に普及しつつありますが、移動中の業務やサテライトオフィスの利用によって、労働生産性を高める余地はまだまだ残っています。働き方改革では、特に育児・介護と仕事の両立や副業・兼業の推進のためにテレワークの更なる活用を推し進めながらも、それが長時間労働へとつながらないよう、種々のガイドラインを刷新・策定しようとしています。
新たなガイドラインの制定において特に考慮されるべき点として、以下のものが指摘されています。
いずれも、場所や時間を選ばずに仕事に参加できるというテレワーク制の長所から発生してしまう問題といえるでしょう。これらの問題には、例えばフレックスタイム制度や事業外みなし労働時間制度といった既存の制度を活用する動きがあるようです。
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現在、日本の全労働者のうち非正規雇用労働者が占める割合は約4割にも上ります。能力や意欲があっても様々な理由により非正規で働かざるをえないという人も多く、そうした人々が自らの能力をいかんなく発揮できる環境を整えていくことが日本経済の再生へとつながると考えられています。
その一環として、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に存在する大きな処遇の格差を解消するため、同一労働同一賃金の実現が目指されています。この原則は、その名の通り同じ質や価値の仕事に対しては、雇用の形態にかかわらず同一の報酬を与えるというものです。働き方改革ではその実現に向けて、以下の項目を含むガイドラインの策定が予定されています。
このガイドラインの実効性を確保するため、パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法の改正が目指されています。
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働き方改革関連法案の具体的な内容を解説してきました。現在審議されている様々な施策が、今後のわたしたちの労働のあり方に大きく影響するものであることがおわかりいただけたのではないでしょうか。その全てが果たして狙い通りの効果を上げるかは未知数ですが、この法案がどのような形で成立するのか、今後も注視していくべきでしょう。
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