メンタルヘルスケアの一環として試し出勤を導入しましょう

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公開日:2018.10.19

メンタルヘルスの不調によって休業した従業員の職場復帰を支援する方法の1つとして、試し出勤があります。試し出勤では業務の負荷を軽くしたり、短い勤務時間から業務を始めたりすることで、出勤のリハビリを行います。今回は、職場復帰までの流れや復帰後の配慮などについて解説していきます。

多くの企業が抱えるメンタルヘルス問題

2012年に行われた「労働者健康状況調査」によれば、メンタルヘルスに関する理由で1ヶ月以上仕事から離れたり退職したりした従業員がいる事業所は、全体の約8.1%にもなります。5,000人以上の従業員を抱える大規模な事業所の場合、9割以上がそのような従業員がいたことがあると回答しています。従業員のメンタルヘルス問題は、どこの事業所にも関わることだと言えるでしょう。

 

メンタルヘルスの回復をどう判断するか

従業員のメンタルヘルスの問題を未然に防止するのも重要ですが、彼らがメンタルヘルスの問題を抱えた後、職場にどう復帰するかの筋道を作ることも同様に重要です。しかしながら、メンタルヘルスの不調を抱えた従業員に職場復帰をさせてもいいかどうかの判断を下すことは簡単ではありません。

バセドウ病を患っていた従業員と土木建築の企業が争った片山組事件における最高裁判所の判決によれば、その企業の組織における現実的な従業員の配置を考慮した上で、従業員が働く場所があり、なおかつ従業員が働く意思を示しているかどうかで、職場復帰の可否を判断するべきとされています。この判例のように多くの要素が判断の材料となり、復帰の判断は容易ではないのです。ちなみに、このケースにおいて企業側は病気だった従業員の復帰を認めませんでしたが、裁判ではこれらの条件が満たされていたとして企業側は敗訴しました。この事例からわかるように、従業員と企業が納得の行く形で復職を実現させなければ、トラブルの原因となりうることにも注意が必要です。

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復職判断のための試し出勤

メンタルヘルスに不調を抱えた従業員の復帰判断には、試し出勤が役立ちます。試し出勤はリハビリ勤務制度とも呼ばれており、本格的な職場復帰をする前の慣らしとして部分的な職場復帰を行い、復帰のための様子見をすることを指します。法律で制度化されているものではなく、各企業が自社の裁量で実施している制度となります。

 

試し出勤制度の種類

試し出勤には多種多様な形態があります。厚生労働省が発表している「改訂・心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(PDF)」では、模擬出勤、通勤訓練、試し出勤がその例として挙げられています。

模擬出勤

模擬出勤では、会社には行かずに、勤務時間と同様の時間帯に図書館やカフェなどで仕事に近い模擬的な軽作業を行います。復帰後の仕事の再現度は低いですが、メンタルヘルスの不調を抱えていた従業員に、その原因となっていた職務にいきなり触れさせるのはかえって症状を悪化させることもあるので、そのリスクを避けるためには有効な方法でしょう。しかし、オフィスの外で行うため、会社側がどのように関与するのか、どのようにそれを評価するのかを決定することが難しいことにも留意する必要があります。

通勤訓練

通勤訓練では、自宅から勤務場所まで実際の通勤経路で移動し、職場の周辺で一定の時間を過ごすことで、復職への慣らしとします。模擬出勤よりも実際の仕事の再現性を高めているものの、依然模擬出勤と同様のメリットとデメリットを持ち合わせています。

試し出勤

試し出勤は、仕事の内容や勤務時間帯を徐々に広めながら、従業員に実際に職場で働いてもらう方法です。本復帰後と同様に、従業員には適切な配慮を用意すべきです。「改訂・心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」においては、配慮の例として、短時間勤務、軽作業や定型業務への従事、深夜業務の禁止、残業や出張の制限、交替勤務制限、高所作業、運転業務、危険作業、窓口業務、苦情処理業務などの制限、フレックスタイム制度の制限または適用が挙げられています。

 

試し出勤の注意事項

試し出勤制度は、すでに述べたように職場へのスムーズな復帰において大きなメリットを有しますが、同時にデメリットがあることにも留意しましょう。

まず、試し出勤制度は従業員の復帰前とは違う働き方になるので、その違いがストレスになるかもしれません。また、メンタルヘルスの問題を抱えた人として配慮されること自体が、周囲の目を気にする従業員にはストレスになりえます。このようなストレスにより、せっかく治りかけていたメンタルヘルスの不調が逆に悪化してしまう可能性があります。

また、試し出勤制度はルールをしっかり定めておかなければ、労使間のトラブルを引き起こす原因にもなります。例えば、職場での試し出勤は本復帰前の措置とはいえ実際の勤務に当たるので、試し出勤として勤務を開始した時点で休職期間が打ち切られることになります。試し出勤の結果、職場復帰にはまだ十分ではないとされた場合はもう一度休職に入ることになりますが、就業規則に特別な定めがない限り、その際は休職期間が再びゼロから起算されることには特に注意が必要です。

模擬出勤や通勤訓練のように出社や退社の自由があり、従業員が会社から指揮命令を受けていないと判断される場合の労働災害においては、労災保険は適用されません。他方、実際に職場での勤務を行う試し出勤の場合は、本復帰後と同様に労災保険が適用されると考えるのが一般的です。

 

まとめ

試し出勤は従業員と企業双方にとってメリットがある制度ですが、かえって病状を悪化させてしまうおそれや、制度設計における注意点も存在します。メンタルヘルスに不調を抱えた従業員と企業の双方が納得して制度を取り入れることが重要であると言えるでしょう。

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