2023年6月7日に成立した「不正競争防止法等の一部を改正する法律」によって商標法の一部が改正され、2024年4月1日に施行されます。今回の商標法改正により、コンセント制度が導入されました。コンセント制度とは、先登録商標権者が類似の後願商標を登録することに同意すれば、両商標の併存登録を認める制度のことを指します。また今回の改正によって、他人の氏名を含む商標の登録要件を緩和する改正も行われました。
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知的財産の分野におけるデジタル化や国際化の進展に伴い、スタートアップ・中小企業等による新規事業を後押しするため知的財産制度が見直されることになりました。「不正競争防止法等の一部を改正する法律」によって不正競争防止法、商標法、意匠法、特許法、実用新案法、工業所有権特例法が改正されます。本記事で扱う商標法とは、事業者が自社の取り扱う商品・サービスを他社のものと区別するために使用する目印を商標として保護することで、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、消費者の利益を保護する制度です。
人の知覚によって認識できる文字や図形、記号、立体的形状または色彩、またはこれらの結合、音その他政令で定めるものです。事業で商品を生産・販売したり、サービスを提供したりする際に使用するものが保護対象となっています。2014年5月からは商標の定義が見直され、「動き」「ホログラム」「音」「位置」「色彩」なども保護対象として認められることになりました。
商標権は、審査で登録査定となった後に一定期間内に登録料を納付することで、商権登録簿に登録されて効果が発生します。商標が登録されれば、事業者は商品やサービスにその商標の独占的な使用が可能です。第三者が指定商品や指定サービスと類似する商品やサービスに自社の商標と同一または類似の商標を使用することを禁止できます。ただし、商標権の効力は日本国内に限られているため外国で事業を行う場合は、その国での権利を取得しなければなりません。
設定登録から10年間が商標権の存続期間です。とはいえ、商標は事業者の営業活動によって蓄積された信用の保護を目的としているため、存続期間の更新登録を申請すれば10年の存続期間を何度でも更新できます。
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商標法では、他人の登録商標または類似する商標に係る商品・サービスに類似するものについては、登録申請をしても受け付けてもらえません。諸外国・地域においては、同一または類似する商品であっても、先に登録した人の同意(コンセント)があれば、後から申請した人の商標の併存登録を認める「コンセント制度」が導入されています。日本では、当事者間で合意がなされただけでは併存する類似の商標について消費者が商品・サービスの出所を誤認・混同するおそれがあるとして導入が見送られてきました。
しかし、中小・スタートアップ企業による知的財産を活用した新規事業でブランド選択が限定される点や、国際的なコンセント(併存合意)契約の締結が困難な点といった課題が指摘されていました。このような導入ニーズの高まりを踏まえて、今回の商標法改正により、日本でもコンセント制度が導入されることとなったのです。
他人の登録商標であっても、先行登録商標権者の承諾を得ており、かつ先行登録商標と出願商標との間で混同するおそれがないものについては、登録が認められることになりました。同日に2つ以上の商標登録出願があった場合もコンセント制度の利用が可能です。一方の権利者の使用により他の権利者の業務上の利益が害されるおそれがあるときは、混同を防ぐために適切な表示をするべきことを請求(混同防止表示請求)できます。また、一方の権利者が不正競争の目的で他の権利者の商品やサービスと混同する使用をした場合、商標登録の取り消しの審判の請求(不正使用取消審判)が可能です。このように、商標権者の合意があったとしても、出所混同のおそれがあると判断される場合には登録できない「留保型コンセント制度」が採用されています。
類似商標が複数存在することで商標調査が煩雑になることが懸念されています。コンセントによる登録であることが特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)で公表されるとはいえ、検索時に特許庁が審査で非類似と判断したものなのかコンセントによるものなのか都度調べなければなりません。また、コンセント制度で認められているとはいえ明らかに類似の商標が存在している場合、消費者が商品・サービスを購入する際に混乱・誤認する可能性が出てくるでしょう。
改正前の商標法では、商標に他人の氏名を含むものは、本人の承諾がない限り商標登録をしても受け付けてもらえませんでした。出願に係る商標や他人の氏名の知名度にかかわらず、他人の氏名を含む商標は、同姓同名の他人全員の承諾を得なければなりません。同姓同名の他人が存在した場合は商標登録できないことから、従来の制度に対して、創業者やデザイナーの氏名をブランド名に用いることの多いファッション業界を中心に要件緩和を求める声が多くあがっていました。
「他人の氏名」に一定の知名度の要件と、出願人側の事情を考慮する要件を課し、他人の氏名を含む商標の登録要件を緩和するものです。他人の氏名とは、他人の肖像、他人の氏名、名称、著名な雅号、芸名、筆名、著名な略称を含む商標または他人の氏名を含む商標であって、政令で定める要件に該当しないものを指します。改正後は、以下の要件を満たせば商標登録が可能です。
氏名に一定の知名度を有する他人が存在しなければ同姓同名の他人全員からの承諾は不要となりました。「不正な目的」とは、商標を先取りして買い取らせるといったことが該当します。
まず、「一定の知名度」の程度や、知名度を判断する際の消費者の範囲などの判断基準が課題として挙げられます。また、無関係な者による出願への対応について、出願者側の事情を考慮すべきか否かも検討しなければなりません。そのほか、侵害の局面において、濫用的な出願について商標登録がなされてしまった場合、商標法によって保護されるのか、保護されるとしたらどの範囲まで保護対象なのかという点も争点となるでしょう。
今回は、商標法改正における「コンセント制度」と「他人の氏名を含む商標の登録要件が緩和」について解説しました。コンセント制度は、他人の登録商標または類似する商標に係る商品・サービスに類似するものでも、先行登録商標権者の承諾を得ており、かつ先行登録商標と混同するおそれがないものであれば商標登録できる制度です。また、他人の氏名を含む商標の登録要件の緩和によって、一定の要件を満たせば他人の氏名を含む商標登録ができるようになりました。中小・スタートアップ企業は、従来より知的財産を活用した新規事業におけるブランド選択の幅が広がることになるでしょう。
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