企業が従業員に給与を支払う場合、所得税等の「源泉徴収」を行い、従業員に代わって国に納付しなければなりません。また、個人に原稿の執筆を依頼する場合や社会保険労務士に業務を依頼する場合など一定の報酬を支払う際にも源泉徴収が必要です。納税ミスを避けるためにも、源泉徴収が必要となる所得の範囲を把握しておくことが欠かせません。
今回は、源泉徴収の対象となる所得の範囲について解説します。
目次
源泉徴収とは、給与や報酬等の所得の支払いを行う会社や個人が、その所得からあらかじめ所得税や復興特別所得税を差し引いて、所得者に代わって国に納付する制度のことをいいます。
日本では、納税者の申告によって税額を定める「申告納税制度」を採用していますが、所得税について、所得のある全ての人が自ら申告納税するのは非常に困難であることから、効果的かつ効率的な徴税方法として源泉徴収制度が設けられています。
所得税や復興特別所得税を所得者に代わって国に納税する義務のある会社や個人、団体などは「源泉徴収義務者」とされます。源泉徴収義務者は会社や個人に限らず、給与の支払いをする学校や官公庁、さらに社団や財団などの団体も含まれます。
ただし、以下のいずれかに該当する場合は源泉徴収をする必要はありません。
給与所得とは、俸給や給料、賃金、歳費、賞与のほか、諸手当や現物給与も含みます。給与所得は基本的に源泉徴収の対象となりますが、以下のとおり、課税されない範囲もあるため注意が必要です。
交通機関または有料道路を利用している人に支給する通勤手当や、交通機関を利用している人に支給する通勤用定期乗車券は、合理的で経済的な交通機関の利用をしていることを条件に、1ヶ月あたり150,000円まで非課税となります。
また、自動車や自転車などを使用している人に支給する通勤手当は、通勤距離に応じて、1ヶ月あたり下表の金額までは課税されないことになっています。
通勤距離(片道) | 非課税上限額 |
55km以上 | 31,600円 |
45km以上55km未満 | 28,000円 |
35km以上45km未満 | 24,400円 |
25km以上35km未満 | 18,700円 |
15km以上25km未満 | 12,900円 |
10km以上15km未満 | 7,100円 |
2km以上10km未満 | 4,200円 |
2km未満 | 全額課税 |
なお、自動車や自転車を利用した上で交通機関や有料道路を利用している場合は、交通手当の合計が1ヶ月あたり150,000円に達するまでは課税されません。
報酬や料金の支払いも源泉徴収の対象となりますが、源泉徴収が必要となる報酬や料金の範囲は、支払対象が個人か法人かによって異なります。
<① 支払いの対象が個人の場合>
支払いの対象が個人の場合、以下の報酬や料金の支払いの際に源泉徴収が必要となります。
<② 支払いの対象が法人の場合>
支払いの対象が法人の場合は、馬主である法人に支払う競馬の賞金のみ、源泉徴収の対象となります。
退職手当等に関しても、源泉徴収を行うことが必要です。この退職手当等には、退職したことに基因して支払われるすべての給与を含めなければなりません。
報酬・料金の源泉徴収に関しては、特に下記の点について注意することが必要です。
支払いの名目が謝金、取材費、調査費、車代などどのようなものであっても、実態が報酬や料金と同じであれば源泉徴収の対象となります。
例えば、原稿の作者へ送った金品が「謝礼」という名目であっても、その実態は原稿料であることから、源泉徴収を行わなければなりません。
支払いを受ける者が団体である場合、団体として独立して存在していること又は法人税を納める義務があることを明らかにした場合のみ、法人として扱われます。
源泉徴収の対象となる報酬や料金は、金銭に限りません。報酬や料金が物品によって支払われている場合にも、源泉徴収を行わなければなりません。
源泉徴収を行う際には、支払う報酬や料金の額の中に消費税や地方消費税の額が含まれているかどうかを確認する必要があります。これらが含まれている場合、原則として消費税等の額を含めた金額が源泉徴収の対象となりますが、請求書等において報酬や料金の額と消費税等の額が明確に区分されている場合には、その報酬や料金の額のみを源泉徴収の対象とすることができます。
源泉徴収の対象となる所得は給与のみでなく、個人に支払う報酬や退職手当など様々な所得が対象となります。納税ミスを避けるためにも、源泉徴収の対象となる所得の範囲を適切に把握し、適切な納税を行うことが大切だといえます。
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