災害の被害を受けた地域に法人として義援金を送る場合、寄付金として取り扱われます。しかし、義援金を送る先には災害対策本部、日本赤十字社、NPO法人など多くの選択肢があり、それぞれ税務上の取り扱いが大きく異なります。今回は、今後も起こりうる災害に向けて、義援金の送付先によって税務上の取り扱いがどのように異なるのかを解説していきます。
義援金とは
寄付の種類
そもそも、個人か企業かにかかわらず、災害支援のために送ることのできる寄付には、支援金、義援金、寄付金の3種類の言い回しが存在します。これらはそれぞれ定義と内実に違いがあり、どれを選択すべきかも時期によって異なってきます。
- 支援金
災害時に被災地内外で支援活動を行う団体に個別に寄付するものを、支援金と呼びます。お金が渡る団体は寄付を行う側が決定し、ウェブ等の情報を元にそれぞれの指定する方法で直接送ることになります。送付されたお金の使途はその団体が決定するため、現地のニーズに叶った迅速な支援が見込めます。ただし、全額が支援に用いられるかは、その団体に依るため必ずしも定かではなく、通常の運営経費に回されるケースやひどい場合には着服される可能性もあります。 - 義援金
こちらは被災者(被災地)と認定された対象に、寄付で集まったお金を分配するものです。日本赤十字社などの機関や、国・県・自治体などが主導して寄付を募り、集められたお金の総額を各自治体が被害に基づき平等に被災者に支給することになります。被害状況を確認する分、支給までに時間を要する他、地域による差が生じることがあるなど、時として現地のニーズに沿えない嫌いもあります。しかし公式的な性格から信頼性や透明性が高く、寄付したお金が100%支援に用いられることが見込めます。 - 寄付金
災害時に寄せられるお金の種類として明確な定義がある上記2つに比べて、寄付金は災害時に限定されないより一般的な名称です。そのため、災害発生の文脈では、支援金と義援金をまとめて寄付金と称することがあります。なお、寄付金と寄附金という2種類の表記がありますが、意味に違いはありません。
義援金の概要
義援金は本来「義捐金」と書き、「義のもとに私財を捐(捨)てて他者を支援すること」を意味します。前述のようにその仕組みは、自治体や団体毎に募ったお金を、団体の立ち上げた配分委員会等の裁量に基づき平等に各自治体に送って、さらに自治体毎に立ち上げられた配分委員会が被災者の定義や数、状況を加味して支給額を決定するというものです。このような手順を踏むため、実際にお金が被災者の手に渡るまでには時間がかかります。また、被災が著しい場合は自治体でそもそも委員会を立ち上げることが困難であったり、配分が決まっても混乱のために末端まで届けることが難しかったりするという問題が生じる可能性もあります。
なお、送る際の注意点として、義援金は基本的に災害毎に受け付け期限が設定されています。
代表的な送り先
災害にもよりますが義援金を受け付けている団体は複数あり、代表的なものとして、日本赤十字社、社会福祉法人中央共同募金会などの機関、日本政府、あるいは災害が発生した国や地域、市町村など自治体などが挙げられます。
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税務上の扱い
義援金を含めた寄付金全般について、所得税や法人税からの控除を受けられる場合と受けられない場合とがあり、個人と企業では処置が異なります。個人では、その寄付金が後述する「特定寄付金」である場合に、限度額の範囲内で寄付金控除が受けられます。対して企業では、「国または地方公共団体に対する寄付金」か「指定寄付金」である場合に、その全額を損金算入することができます。それでは詳しく説明していきます。
特定寄付金
個人が以下に該当する寄付金を支出した場合、寄付金控除として総所得金額の40%を上限に所得控除を受けることができます。ただし、学校の入学に際して行われる寄付はすべて除かれます。
- 国または地方公共団体に対する寄付金
- 指定寄付金
- 特定公益増進法人に対する寄付金
公共法人等のうち、教育、科学、文化、社会福祉、公益増進に著しく貢献すると認められた特定公益増進法人への寄付金で、かつその法人の主目的に関連あるもの - 特定公益信託の信託財産とするための金銭
主務大臣の証明を受けた特定公益信託のうち、その目的が教育、科学、文化、社会福祉、公益増進に著しく貢献すると認められる一定の公益信託の信託財産とするために支出したもの - 認定NPO法人等に対する、有効期間内での寄付金
認定NPO法人などの、特定非営利活動法人のうち一定の要件を満たすものとして認められた法人への寄付金で、かつ特定の非営利活動に関連あるもの - 政治活動に関する寄付金
政党、政治資金団体、その他の特定の政治団体、一定の公職の候補者に対する、個人による寄付金のうちで一定の要件に該当するもの - 特定の新規中小会社が発行した株式の取得に必要な費用等
国または地方公共団体に対する寄付金
こちらには以下が該当します。
- 国または地方公共団体に直接寄付したもの
- 日本赤十字社の「東日本大震災義援金」口座へ直接寄付した義援金と、新聞や放送メディアに直接寄付したもので、最終的に国または地方公共団体に渡されるもの
- 社会福祉法人中央共同募金会の「東日本大震災義援金」として直接寄付したもの
- 国または地方公共団体に対する寄付金と指定寄付金の該当しない団体に寄付したもので、その団体を通じて最終的に国または地方公共団体に渡されることが明確なもの
指定寄付金
こちらは、公益社団法人・公益財団法人その他への寄付金で、広く一般に募集されていて公益性と緊急性が高いものと財務大臣が指定したものを指します。東日本大震災の際には、以下のものが指定を受けました。
- 社会福祉法人中央共同募金会の「災害ボランティア・NPO活動サポート募金」へ直接寄付した寄付金
- 東日本大震災の被災者支援活動に特に必要な費用のための、認定NPO法人への寄付金
- 東日本大震災の被災者支援活動に特に必要な費用のための、公益社団法人・公益財団法人への寄付金
- 東日本大震災により損害を受けた建物等の復元に必要な費用のための、公共法人・公益法人・特例民法法人・認定NPO法人等への寄付金
- 東日本大震災の被災地域を地区とする商工会または都道府県商工会連合会が、全国商工会連合会の作成した計画に基づき行う、その地区の商工業に関する施設の復興などの事業に必要な費用のための、全国商工会連合会への寄付金
- 東日本大震災の被災地域を地区とする商工会議所が、日本商工会議所の作成した計画に基づき行う、その地区の商工業に関する施設の復興などに必要な費用のための、日本商工会議所への寄付金
- 東日本大震災の被災地域の農業・水産業等の産業や生活環境の整備により、その地域の復興を進める事業に必要な費用のための、公益財団法人ヤマト福祉財団への寄付金
損金算入する際の手続き
企業が国等に対する寄付金および指定寄付金を損金算入する際は、確定申告書の別表14(2)「寄附金の損金算入に関する明細書」の「指定寄附金等に関する明細」に、寄付した義援金等に関する事項を記入した上で、義援金等を支出したことが確認できる書類を保存することが必要になります。
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まとめ
義援金や支援金を適切な相手に適切なタイミングで送ることは、効果的な復興支援を行う上で重要であり、おまけに節税に繋げることもできます。被災地への寄付を行うことによって企業の社会的責任を重んじる姿勢を示せば、イメージアップなどの好影響も見込めます。