平成27年12月から義務化された「ストレスチェック制度」の実施について、「ストレスチェック制度とは何か?」や「会社としてメンタルヘルス対策にどう向き合うべきか?」をお伝えしている本シリーズ。
前回の第2回目「まだ間に合う!ストレスチェック制度の基本理解とメンタルヘルス対策~その2」は、ストレスチェック制度の実施の流れと、絶対に押さえておくべき基本事項を「12のポイント」として紹介しました。枝葉末節が多いストレスチェック制度の、幹の部分を再確認していただけたものと思います。
最終回となる今回は、ストレスチェック制度も含め、もっと大きな視点で見た「メンタルヘルス対策」についてお伝えします。
目次
ストレスチェック制度はできたばかりの制度です。また日本特有の制度で、諸外国では同様に義務化された制度はありません。つまり、情報や統計が蓄積されておらず、ある意味「未完成」の制度ともいえます。そのため、制度構築や運用には注意が必要です。
注意すべき点に関しては、日本ストレスチェック協会が指摘する「ストレスチェック制度の7つの『ない』」が参考になるので紹介します(図1)。
図1:ストレスチェック制度の7つの「ない」
それでは、ひとつずつ見てみましょう。
前回の「12のポイント」⑦でお伝えしたとおり、労働者にストレスチェックテストの受検義務はありません。つまり、自社の労働者全員に対して実施できるとは言い切れないのです。
制度や目的の理解、会社の情報管理の安全性など、労働者が安心できる環境を作れなければ、受験者数は減ってしまうかもしれません。
残念ながら、ストレスチェックをするだけでは、うつ病をはじめとする精神疾患の罹患率やメンタルヘルス不調者の数が即座に減るという科学的根拠は今のところありません。
体の健康診断のような血液検査や画像診断ではないため、判定基準はあいまいともいえます。ストレスチェックテストの内容や高ストレス者の基準も会社で独自に定めることも可能。会社の裁量に委ねられている部分も多くあります。
また、制度の目的はあくまでも「メンタルヘルス不調の未然防止」にあり、労働者の気付きと早期の対処を促すことです。決して、精神疾患の罹患者やストレス耐性が低い者をあぶりだすことを目的にしているわけではありません。
同じAさんでも、業務の繁忙期に受検するのと、閑散期に受検するのでは結果の度合いが違ってくるのは容易に想像できるでしょう。場合によっては、朝と夕方でも結果は違うかもしれません。
つまり、タイミングによって結果が変わる可能性が大いにあるため注意しましょう。
ストレスチェックテストの質問項目に、労働者が素直に答えるとは限りません。厚生労働省が推奨する「職業性ストレス簡易調査票」をご覧いただければ分かると思いますが、どの項目をどう答えれば、ストレス判定が高くなるか、または低くなるかは容易に判断できます。
つまり、労働者の置かれた状況によって結果をコントロールすることも可能なのです。「会社にストレス状態を知られたくないから低くしたい」「仕事を軽くして欲しいから高くしたい」など様々な意図があるでしょう。
このような制度のため、過度な期待は禁物です。
ストレスチェック制度は、メンタルヘルス対策のほんの一部、または入口です。これを契機に、会社のメンタルヘルス対策を整えることが肝要です。
以上、いかがでしょうか? これだけを見ると、ストレスチェック制度へ取り組むモチベーションが下がってしまいそうですが・・・。
要は、ストレスチェックテストの詳細にこだわるのではなく、これを機会として、このストレスチェック制度を上手に利用することが大切なのです。そして、メンタルヘルス対策をもっと大きく捉えましょう。
ストレスチェックは、第2回目の12のポイント②でお伝えしたとおり、あくまでも、「労働者本人が自分のストレスの程度に気づくことにより、セルフケアを促し、メンタルヘルス不調の未然防止につなげる」ことが目的です。つまり、ストレスチェックをした後の労働者本人の行動や認識が大切となります。
前述の「7つの『ない』」を読むと「ストレスチェック制度での効果に信頼性がないのなら、やる意味はあるの?」と思われたかもしれません。それが「ある」のです。もちろん、ストレスチェックテストを従業員に受けさせるだけではあまり意味がないでしょう。それを「従業員にストレスと向き合わせる機会」として捉えることが重要です。
従来からある体の健康診断では、最低でも年に1回、自分の体について向き合う機会であることは承知のとおりでしょう。そして、従業員それぞれが、自分の健康について考え、生活習慣などの改善に取り組むキッカケとなります。
それが、「こころの健康診断」でも同じことがいえます。「自分のストレスと向き合う機会」となるのです。そのストレスと向き合った従業員に対し、会社がどのようなアプローチをするかが大切なのです。
そこで、会社として有効な施策としては、大きく分けて2つの方法が考えられます。
まず1つ目は、「相談できる相手を提供する」ことです。その手段としては以下の3つの具体的施策が挙げられます。
①気軽に産業医面談ができる環境を創る
②カウンセラー等の専門の窓口を設置する
③無料相談窓口を周知する
①や②を常設できれば理想的ですが、コスト等もかかるため、特に中小企業では二の足を踏む会社も少なくないでしょう。その場合、③を積極的に行ってください。今は公共、民間を問わず、さまざまな団体が相談窓口を開設しています。電話やメールでも相談可能です。
たとえば、メンタルヘルスポータルサイトの「こころの耳」にもたくさんの相談窓口が紹介されていますので参考にしてください。
そして2つ目は、労働者にストレス対策を学んでもらうことです。会社内で開催する研修でも結構ですし、外部で開催されている講座に労働者を参加させてもいいでしょう。これにより、向き合ったストレスへの対策ができるようになり、メンタルヘルス不調の予防が見込めます。結果、従業員がいきいきと働いてくれれば、会社にとってはとても効果的です。
どのような教育・研修を行えばいいか分からないときは、日本ストレスチェック協会でも「不安とストレスに悩まない7つの習慣」というストレス対策講座や「みる・きく・はなす技術」という管理職研修を各地で開催していますし、企業内研修も行っていますので参考にしてみてください。
全3回にわたり、平成27年12月から施行された「ストレスチェック制度」の義務化およびそれに関連することをお伝えしてまいりました。
さらに詳しくストレスチェック制度を知りたい方は、共著書「ストレスチェック制度対策まるわかり」(中外医学社 刊)をお手に取っていただけると幸いです。ストレスチェック制度に関する皆様の疑問に、労働安全衛生に関する専門家達が解説しているため、お役に立てることと思います。
ストレスチェック制度をうまく活用し、従業員のメンタルヘルス向上につなげていきましょう。
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