2016年7月に施行された「中小企業等経営強化法」では、人材育成や設備投資などに関する事業計画である「経営力向上計画」の認定を受けた中小企業等に対して、機械装置等の固定資産税の軽減や金融支援等の特例措置を講じています。
中小企業はこの制度を活用することで、自社の「稼ぐ力」を強化することができます。今回は、中小企業等経営強化法の概要や支援措置について解説します。
目次
中小企業等経営強化法とは
少子高齢化による労働力人口の減少や、経済のグローバル化の進展による企業間の国際的な競争の活発化など、経済社会情勢の変化に対応していくためには、中小企業等が経営力の強化を図り、生産性を向上させていくことが必要不可欠です。
このような状況を踏まえ、国が中小企業等の経営力強化をサポートするため、2016年7月に「中小企業等経営強化法」が施行されました。
この法律のポイントは、中小企業等が、人材育成や設備投資など自社の生産性を向上させるための取組内容等を記載した「経営力向上計画」の認定を受けることで、機械装置の固定資産税の軽減や金融支援等の様々な支援措置を受けられるという点です。
これらの支援は、今まで直接的に支援の対象とはされてこなかった企業の「本業」の成長に対する支援であり、日本の地域経済の基盤を支える中小企業の経営力の向上を図ることで、日本全体の経済成長につなげることを目的としています。
中小企業等経営強化法の概要
事業所管大臣による事業分野別指針の策定
製造業や卸・小売業など、それぞれの業種の所管大臣が、それぞれの事業について経営力向上のための「事業分野別指針」を策定します。
「事業分野別指針」には、それぞれの業種ごとに経営力向上計画の認定基準や具体的な数値目標、その業種全体としての現状や取り組むべき具体的な内容などが示されており、事業者はこの指針を踏まえて経営力向上計画を作成することが必要です。
中小企業等による経営力向上のための取組の支援
中小企業等は、「経営力向上計画」を作成し、所管大臣の認定を受けることで、以下のような支援措置を受けることができます。
固定資産税の特例
2017年4月1日から2019年3月31日の期間に、資本金が1億円以下の法人等の中小企業者等が「経営力向上計画」に基づいて下記の要件を満たす機械装置を新たに取得した場合、固定資産税が3年間にわたって2分の1に軽減されます。
- 事業において必要な機械であること
- 取得にあたって160万円以上の費用が必要であること
- 販売開始から10年以内の製品であること
- 生産効率やエネルギー効率など経営力の向上に資するものの指標が旧モデルと比較して年平均1%以上向上していること
また、業種によっては、機械装置以外についても同様の固定資産税の特例措置が適用されます。測定工具及び検査工具は30万円以上・販売開始5年以内、器具備品は30万円以上・販売開始6年以内、建物附属設備は60万円以上・販売開始14年以内などの条件を満たすことが必要です。
中小企業経営強化税制
青色申告書を提出する中小企業者等が、2017年4月1日から2019年3月31日の期間内に「経営力向上計画」に基づいて機械装置やソフトウエアなどの設備を新たに取得し、法令の定める事業のために利用した場合、即時償却又は取得価額の10%の税額控除を選択適用することができます。
政策金融機関による低利融資
「経営力向上計画」が認定された事業者は、日本政策金融公庫や商工中金といった政策金融機関において低金利で融資を受けることができます。
例えば、日本政策金融公庫からは、設備投資に必要な資金について、基準利率から最大0.9%引き下げられた税率で、最大7億2000万円の融資を最長20年にわたって受けることができます。
中小企業信用保険法の特例
「経営力向上計画」を実行する企業が民間の金融機関から融資を受ける際、信用保証協会による信用保証のうち、保証枠の拡大や別枠の追加保証を受けることができ、より多くの融資を受けられることが期待できます。
中小企業投資育成株式会社法の特例
「経営力向上計画」が認定されると、資本金額が3億円を超える株式会社であっても中小企業投資育成株式会社からの投資を受けられるようになります。
日本政策金融公庫の信用状発行による海外通貨調達
「経営力向上計画」が認定された国内企業の海外支店が、日本政策金融公庫と提携している海外の金融機関から現地通貨で融資を受けようとするとき、1法人あたり最大4億5000万円の補償を1〜5年間の融資に対して受けることができます。
食品流通構造改善促進機構による債務保証
食品製造業などの業種の企業は、「経営力向上計画」の実行にあたって民間の金融機関から融資を受ける場合、食品流通構造改善促進機構から債務の保証を受けることができます。
経営力向上計画について
経営力向上計画は、3~5年間を実施期間として策定し、人材育成、コストマネジメント、設備投資など、経営力の向上や企業の成長のための取組内容について盛り込みます。
計画を作成するにあたっては、商工会議所や金融機関など支援機関のサポートを受けることができますので、必要に応じて相談するようにしましょう。
記載事項
経営力向上計画には、以下のような事項を記載します。
- 事業概要や経営状況、市場等の分析
- 経営力向上に関する数値目標および指標
- 資金調達額と調達方法
- 経営力向上設備等の種類や取得価額
申請方法
経営力向上計画の申請書の様式は、中小企業庁のホームページからダウンロードすることができます。申請書に必要事項を記載し、申請書の原本およびその写し、チェックシート、A4サイズの紙を折らずに入れられる返信用封筒を同封して、事業分野ごとの申請先の窓口に提出あるいは郵送することで申請を行います。
なお、税制措置の適用を受ける機械装置等の経営力向上設備等を取得する場合は、上記の書類と合わせて「工業会等による証明書」または「経済産業局による確認書」も提出することが必要です。これらの書類は、設備を生産した機器メーカー等に依頼することで発行してもらうことができます。
まとめ
中小企業等は、経営力向上計画を作成して所管大臣の認定を受けることで、様々な支援措置を受けることができます。設備投資や資金調達に役立てることができますので、ぜひこの制度を活用し、自社の経営力強化を図っていくようにしましょう。