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「雇止め法理」って何? どの有期労働契約が対象?

「雇止め」とは、有期労働契約者の契約期間の満了時に契約更新が行われず、労働契約が終了することを指します。平成25年の労働契約法改正において、有期労働契約者の権利の保護のため、一定の不合理な場合について雇止めを認めない「雇止め法理」が条文化されました。今回はそんな雇止め法理について、満たすべき要件や手続きについて解説します。

雇止め法理とは

有期労働契約で労働者を保護するための考え方

雇止めとは「有期労働契約者が合理的な理由なく契約更新を拒否されること」を指しており、雇止め法理はこれを違法とする考え方です。有期労働契約とは期間を定めて締結される雇用契約のことで、契約社員や派遣社員、パートタイマーの多くがこれに該当します。

もともと有期労働契約は人材の流動化を狙って導入された制度でしたが、結果として、契約を更新しないという形で使用者が解雇に関する法規制に抵触せずに簡単に人を切れる仕組みになってしまいました。こうした状況を受けて、雇止め法理の考え方が労働者の働く権利を適切に保護するための試みとして生まれました。

なぜ「法理」と呼ばれているか

「雇止め法理」における「法理」は、「判例法理」を指しています。判例法理とは、裁判所が示してきた判例の蓄積から形成された考え方を意味します。「雇止め法理」も、いわゆる東芝柳町工場事件や日立メディコ事件などの最高裁判所判決を通して確立されていましたが、長らく法律による明文化はされず、このように呼ばれていました。しかし平成24年の労働契約法改正により、この最高裁判所判決での雇止め法理の内容や適用範囲を変更することなく、同法第19条に条文化されました。したがって現在では法律に明文化されたルールとなっています。

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雇止め法理が成立する要件

ではこの雇止め法理はどのような場合に成立し、また成立しないのかを見ていきましょう。

対象となる有期契約

労働契約法第19条は、

有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす

と定めた上で、対象となる有期労働契約について、最高裁判所判決に従って以下のように規定しています。

  1. 過去に反復して更新されたことがある有期労働契約で、その雇止めが無期労働者を解雇することと社会通念上同視できると認められるもの(同条第1号)
  2. 労働者において有期労働契約の期間満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められるもの(同条第2号)

 

いずれも具体的な契約期間や契約回数が示されてはいませんが、1つ目の規定は、これまでの契約更新のされ方から考えてその契約が実質的に期間を定めていない契約と同等になっているものを想定しています。2つ目の規定は、たとえ1つ目に該当しなかったとしても、例えば当事者間の普段のやり取りなどから、労働者が雇用の継続を期待するのが合理的であると一般的に考えられる状況であれば、雇止め法理は適用されることを示しています。ここで言う「合理的理由がある」かどうかについては、例に挙げた当事者間の普段のやり取りだけでなく、業務内容の性質、有期労働契約の期間や更新回数から、総合的かつ個別的に判断されます。

2つ目の規定ついて、仮に労働者が雇用契約の継続に期待を持つのが合理的である状況であったにも拘わらず、契約期間が終了前になって使用者が一方的に更新年数や更新回数の上限などを伝えたとしたら、どのように扱いになるでしょうか。その場合、労働者はその後の自身の契約継続が制限されると通告されたわけで、雇用継続を期待する理由はなくなってしまうようにも思えますが、これでは労働者を保護できません。そのためこのような状況では、双方の同意なしで契約回数や契約年数を定めたとしても、雇用継続を期待する「合理的な理由」がなくなるとされることはないと厚生労働省のガイドラインに明記されています。

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ルールが適用される条件

上に引用した労働契約法第19条に示されている「更新の申込み」及び「締結の申込み」は、必ずしも正式な契約書等である必要はありません。労働者は何らかの反対を使用者の雇止めに示せばいいこととなっているので、口頭でも構いません。伝え方も直接使用者に伝えるだけではなく、紛争調整機関への申立て、団体交渉等によって間接的に伝わることも許容されます。あくまで形式ではなく実態が重視されます。

また同条文には、「遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合」というように「遅滞なく」という文言が盛り込まれています。これは有期労働契約の契約期間の満了後の申込みは同条文の対象にはならないということではなく、合理的な理由による申込みの遅滞は許容されるという意味であることに注意が必要でしょう。

 

ルールが適用されないためには

では、逆に雇止め法理が適用されないにはどうすればよいのでしょうか。完全な答えはありませんが、1つの正攻法として考えられるは、次回の契約更新の際には労働契約を更新しないことを使用者と労働者の間で同意した上で、その旨を明記した契約書を作成することです。契約書の他にも労働者が雇用継続への期待を持つ要素は多くありますので、このような取り組みのみで雇い止めが適法とみなされるとは限りませんが、少なくとも労働者は契約書にサインしていることによって次回の契約更新に対する合理的期待を持ちにくくなったはずだと判断されるでしょう。ただしこの場合であっても、労働紛争が起きた際には、使用者は労働者がこのことを理解した上で契約を結んだことを後々示す必要があります。その場合のためにも、日頃から使用者側は労働者と契約を結ぶ際にしっかりとした説明を行い、万が一紛争が起こったとしても、その説明を適切に行ったという証拠が出せるようにしておくことが重要となるでしょう。

 

まとめ

雇止め法理はもともと判例によって形成された考え方でしたが、労働契約法の改正により条文化されました。この事実は、企業がこの原則を守ることが一層求められているということを示しています。どのような時に雇止め法理が適用され、また逆に適用されないのかを充分に理解した上で、雇用関係を結ぶことがより必要になってくるでしょう。

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