健康保険や厚生年金保険などの社会保険料は、それぞれの保険料率を、基礎となる「標準報酬月額」に掛けることで算出されます。この標準報酬月額には、計算の元となる報酬の範囲が多岐にわたり、さらに複数の決定方法があるなど、複雑な点が多くあります。今回はそんな標準報酬月額について、計算方法や決定する方法を詳しく解説します。
標準報酬月額とは、健康保険や厚生年金保険における保険料額や保険給付額の計算の基盤として、報酬額の等級ごとに設定された額のことです。毎月の給料や交通費なども含めた、被保険者が受け取る報酬の月額がどの等級に該当するかによって決定します。
標準報酬月額を決定する最大の要素である報酬には、いったいどういうものが含まれているのでしょうか。
ここでの報酬とは、健康保険や厚生年金保険の被保険者が労務の対象として使用者から受けるもの全てを含みます。賃金や給料、俸給、手当、賞与、通勤交通費、残業代など、あらゆるものが挙げられます。
しかし例外もあり、売上達成などを記念して与えられる大入り袋や、事故に遭った人に与えられる見舞金などのように臨時的に受ける金銭や、夏と冬の2回のボーナスのような年3回以下の賞与は報酬としてカウントされません。
先述のように、標準報酬月額は報酬月額がどの等級に入るかによって決まります。
厚生年金保険の標準報酬月額は1等級の88,000円から31等級の620,000円までの31段階に区分されており、例えば標準報酬月額を決める4月、5月、6月の平均報酬が205,000円である場合には、報酬月額が195,000円~210,000円の範囲内に含まれているため14等級に該当し、この時の標準報酬月額は200,000円となります。
他方の健康保険の場合、標準報酬月額は第1級の5万8千円から第50級の1,390,000円までの50等級で区分されています。また健康保険では、標準報酬月額の上限該当者が3月31日の時点で全被保険者の1.5%を超えている際には、政令によりその年の9月1日から標準報酬月額の上限を変更することができるようになっています。
このようにして該当する等級から標準報酬月額を導いたら、その年の9月から原則としては翌年の8月までは、その数字を基に保険料額等が算出されることになります。
厚生年金保険料は先述の標準報酬月額と保険料率をかけて以下のように計算されます。
毎月の保険料額=標準報酬月額×保険料率
厚生年金の保険料率は2004年から段階的に引き上げられていましたが、2017年9月を最後に引き上げの終了が公表され、現在は一律で18.3%に固定されています。従って、上記と同様に報酬月額が14等級に該当する場合には、
毎月の保険料額=200,000円×18.3%=36,600円
と計算できます。自己負担額は勤め先と折半することになるので、18,300円となります。
健康保険の保険料率は、住んでいる都道府県によって異なります。また、40歳以上では介護保険料が加わるため、被保険者の年齢によっても変化します。東京都に住んでいる45歳の被保険者で標準報酬月額が200,000円の場合、
毎月の保険料額=200,000円×(9.90%+1.57%)=22,940円
と計算できます。健康保険の場合においても、自己負担額は勤め先と折半することになるので、11,470円となります。
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ここからは標準報酬月額がどのように決定されるかを詳しく解説していきます。
標準報酬月額が決定されるタイミングは大きく分けて以下の3つの種類に分類することができます。
標準報酬月額は基本的に従業員が受け取った報酬の額を元に決定されますが、雇用されて間もない従業員は過去の報酬額を元に標準報酬月額を決定することができません。そこで、事業者は従業員を雇用した時に就業規則や労働契約などの内容から報酬月額を概算し、標準報酬月額を決定します。
資格取得時に決定された標準報酬月額はその年の8月まで使用されますが、資格取得をしたタイミングが6月1日から12月31日までの期間内であった場合は、この標準報酬月額が翌年の8月まで使用されます。
資格取得時の決定以降は、毎年一度、定時決定という方法で標準報酬月額が決定されます。7月1日になる前の3ヶ月(4月、5月、6月)に従業員が事業主から受け取った報酬月額の総額を求め、それを期間の月数で割った平均額を標準報酬月額と定めます。
ただし、4月、5月、6月に受け取った報酬であっても、支払いの基礎となる日数が17日に満たない月は算定に使用されません。その場合は算定に用いられる対象月の総報酬額を対象月数で割ったものが標準報酬月額となります。例えば、4月と6月は30日分の報酬が支払われ、5月は休業していたため報酬を受け取っていないという場合では、標準報酬月額は4月と6月の総報酬額を2ヶ月分で割ったものになります。
また、3ヶ月の報酬月額から算出される標準報酬月額と、過去1年間の月平均報酬月額をもとに算出される標準報酬月額との間に2等級以上の差があり、且つ、この差が業務の性質上毎年発生するものである場合は、年間平均を使用することが可能です。
標準報酬月額の算出に年間平均を使用する際には、被保険者の同意が必要になるので注意が必要です。
例えば、標準報酬月額は4月から6月までの報酬を元に決定されますが、それ以外の期間で報酬額が大幅に減少してしまった場合など、従業員が負担する保険料は標準報酬月額を元に算定されるため、次の定時決定までの間の負担はとても大きくなってしまいます。
そこで、支払われる報酬月額が大幅に変化した時には事業主の届け出によって標準報酬月額を改定する制度があります。このような標準報酬月額の決定方法を随時改定といいます。
随時改定により決定された標準報酬月額も他の決定方法の場合と同様にその年の8月まで使用されますが、改定がその年の7月以降であった場合は翌年の8月まで使用されます。
随時改定が行われる条件は、従業員の固定的賃金に変動があることと、継続して従業員が受け取った3ヶ月の総報酬額を3で割ったものが元々の標準報酬月額と比べて2等級以上離れていることの2つになります。
2018定時決定の場合と同様に、被保険者の同意が必要なので注意しましょう。
標準報酬月額は従業員が受け取った報酬を元に決定され、保険料を算定する際などに用いられます。標準報酬月額を決定する方法は、従業員の入社時期や固定賃金額の変動などの条件を元にいくつかの種類に分けることができます。正しく標準報酬月額を決定するためには、決定方法を把握することと報酬額の正確な認識が必要となります。
社会保険労務士として独⽴開業時より、ソニーグループの勤怠管理サービスの開発、拡販等に参画。これまでに1,000社以上の勤怠管理についてシステム導入およびご相談に対応。現在は、社会保険労務士事務所の運営並びに勤怠管理システムAKASHIの開発支援を実施。
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