銀行取引や契約書など様々な場面で使われる会社の印章ですが、管理が適切でないと、悪用等により多大な損失を被るリスクがあります。リスクを低減するためには、各種印章のそれぞれの法的な役割を認識した上で、適正に管理することが求められます。今回の記事では会社の印章の法的役割を整理し、管理方法について解説します。
目次
会社の印章の法的位置づけ
法的に必要とされる印章は1つだけ
会社設立の際に法人として法的に必要な印章や印鑑は1つだけです。それは代表者印、すなわち法人実印のみです。会社など設立登記する際、法務局に代表者印の届出をしなければなりません。そのため、この代表者印として最低1つの印鑑のみが法的には必要なのです。この代表者印については、一度登録すれば全国の法務局で印鑑証明書を発行でき、それが登録されたものであることを客観的に示すことができます。
印鑑や契約書がなくとも契約は成立する
結論を先に言うと、印鑑は契約の存在を証明する助けにはなりますが、それ以上のものにはなり得ません。しかし、捺印や押印が契約の存在を絶対的に示すわけでもありませんし、捺印や押印がないからと言って契約が成立していないとも言えません。
契約の成立は、当事者間の意思の合致によりなされるものです。したがってその契約を交わす方法自体は問題とならず、たとえ捺印や押印がなかったとしても契約は成立します。さらに言えば、契約書がなくても当事者間の意思の合致さえあれば契約は成立します。
印鑑が意味を持つのはトラブルの時
印鑑が意味を持つのは、契約に関してトラブルが発生し、その契約の有効性を示す必要が生じたときになります。例えば裁判で契約の有効性が争われる場合には、その契約書が契約した本人たちの意思に基づいて成立しているのかが争点になります。その際に契約書などに捺印があれば、その契約を本人たちが同意していたと示すことが容易になります。民事訴訟法第228条には「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する」という文言があるので、文書の押印が本人か本人から委任を受けた代理人によるものであることを証明できれば、文書の真正性が法律上推定されます。
一般に、捺印に加えて直筆による署名があればさらに証拠能力が強いとされます。そのため、署名と捺印双方行うことが、契約後のトラブル回避には重要です。なお、契約書の種類によっては収入印紙を貼る必要がありますが、この印紙が貼ってあるかどうかは当事者と国の関係性の問題であり、当事者同士の契約の有効性には関係ありません。
契約における認印
法的な観点からは、契約の締結において実印が持つ効力と認印や三文判が持つ効力に違いはありません。ただし、印鑑証明を法務局で取得できるのは実印として登録した代表者印のみであることから、実印は公的な第3者機関が認めている唯一の印鑑として、信頼性の点で他の印鑑を上回ることは確かです。この違いが契約後にトラブルが生じた際にどの程度影響するかはケースバイケースですが、重要な契約であれば認印ではなく実印を、印鑑証明書を添付の上用いることをお勧めします。
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印鑑の適切な管理方法
印鑑をいくつか作成し、リスクを分散
先述の通り、会社設立の際に法人として法的に必要な印章や印鑑は1つだけです。しかし、実務上の効率を考えれば複数の印鑑を用いる必要があります。一般的には実印の他、銀行印、角印、ゴム印の4種類の印鑑を用意するのが望ましいと言われています。
特に、登記所に届け出た実印と金融機関に届け出る銀行印を分けることが重要です。この両者に同じ判を用いている企業も多いですが、金融機関と取引をする際に必要な銀行印は実印よりも使用頻度が多いため、紛失の可能性も高くなります。したがって、実印と銀行印を同じにしていると、実印を紛失した際に悪用されるリスクや変更の手間が大きくなってしまいます。リスクを分散させるためにも、実印と銀行印は分けることが望ましいでしょう。
一方、カジュアルに使える印章もあると便利です。その代表的なものが角印、いわゆる社印になります。法人実印が一般的に丸い形であるのに対し、角印はその名前の通り四角形であることが一般的ですが、こうした印章の形は法律の規定があるわけではなく、慣習的にそうなっているものです。領収書や請求書、納品書など、日常的な文書に押印が必要な場合に使用します。
印章管理規程
社判の運用ルールを決めることは悪用や紛失を防ぐために非常に大切です。一般的に、実印や社印など会社にとって重要な印章の管理は管理職が行います。ただ職務においては管理職以外が印章を扱うこともあるでしょう。そのような様々なパターンを想定して、印鑑の適切な管理のために設けるルールを「印章管理規程」と言います。印章管理規程では、通常次のような事項を定めます。
- 印章の種類と定義
- それぞれの印章を使用する範囲
- 印章の保管場所
- 印章の管理責任者
- 捺印が必要な場合の手続き
- 印章の作成・改印・廃止
- 印章の紛失・盗難があった場合どうするか
例えば印章の捺印や保管についての規定であれば、「印章の捺印及び保管は、管理責任者が行なう。やむを得ない事情で管理責任者の代行者を定める場合は管理責任者が事前に承認して委任しなければならない。また、印章を使用しない時は、指定の施錠場所に格納しなければならない」というように、誰がどのような責任を持つのか明確にします。
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まとめ
印章は署名に比べるとそれほどの法的重要性を持ちませんが、契約トラブルの際には、その契約の真正性を示す重要な証拠の1つとされます。また慣習的にも、捺印があるものの方が信頼性が高いと見なされることが多いです。紛失等を防ぐため、印章を適切に管理することがバックオフィス担当者には求められます。