日本の企業数の99.7%を占める中小企業は日本経済の重要な担い手ですが、その経理体制の整備を十分に行えていない企業が相当数存在するのが現状です。中小企業会計は、経理人員が不足しているなど、経理体制が十分でない中小企業の実態に合わせて作成された会計ルールで、導入することで経理業務の改善といった効果が期待されます。今回は中小企業会計について、その内容から導入のメリットまで詳しく解説します。
中小会計要領と中小会計指針の違い
中小企業向けの会計ルールには、中小会計指針と中小会計要領の2つがあります。どちらも公的機関が制定に関わっていますが、法的拘束力のない規範やガイドラインとしての扱いは共通しています。中小会計指針は国際会計基準(IFRS)の影響を強く受けている大企業向けの企業会計基準をベースにしているのに対し、中小会計要領は日本の伝統的な企業会計原則をベースにしているという大きな違いがあります。
中小会計指針は国際会計基準(IFRS)をベースにしているため毎年大きな基準の変更があり、ほとんどの中小企業にとって使いにくいものになっていますが、一定水準以上の計算書類の作成が期待できます。他方の中小会計要領は頻繁に改訂されることはなく、多くの中小企業が行ってきた会計方法をベースにしています。ほとんどの中小企業にとって中小会計要領の方が企業会計のガイドラインとして簡便で実用的であると言えるでしょう。以下では、この中小会計要領に絞って解説していきます。
中小会計要領の特徴
重視する観点
中小会計要領は、中小企業の経営者が理解しやすく、自社の経営状況の把握に役立てさせることができる会計方法を示すことを目的としています。そのため、以下のような点を重視しています。
- 中小企業の利害関係者(金融機関、取引先、株主など)への情報提供に資すること
- 中小企業の実務における会計慣行を十分考慮し、会計と税制の調和を図った上で、会社計算規則に準拠すること
- 計算書類等の作成負担は最小限に留め、中小企業に過重な負担を課さないこと
対象企業
中小会計要領は、「金融商品取引法の規制の適用対象会社」と「会社法上の会計監査人設置会社」を除く株式会社による利用が想定されています。法人税法で定める処理を意識した会計処理が行われている企業や、会計情報の開示を求められる範囲が取引先、金融機関、同族の株主、税務当局などごくわずかの個人や機関に限られている場合に、特に向いている会計ルールです。しかし、利用はこれらの企業に限定されません。
内容
要領の内容としては、総論で中小企業の会計の原則について述べた後、各論において「収益、費用の処理」や「資産、負債の処理」、「リース取引」など、個別の項目の処理の方針について述べられています。最後に貸借対照表などの様式集が掲載されています。
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中小会計要領で得られる支援
中小会計要領を採用し適切に利用することのメリットの1つが、様々な支援を受けられることです。その具体的な例は以下の通りです。
金融面の支援策
日本政策金融公庫は、中小会計要領の利用や利用を目指す中小企業に対しての優遇がある融資制度を用意しています。「中小企業会計活用強化資金」は、中小企業会計要領の利活用を目指す中小企業に対して基準金利での貸付を行います。また、中小企業会計要領を完全に適用しているか適用する予定であるなどの要件を満たす場合は、基準金利よりも0.4%低い優遇金利が適用されることがあります。また同じく日本政策金融公庫による「中小企業経営力強化資金」も、中小企業会計要領を適用している中小企業に0.1%の利率優遇を行なっています。
また日本政策金融公庫に限らず、多くの地方銀行や信用金庫などが中小企業会計要領を利用している中小企業向けに有利な融資制度を用意しています。例えば遠州信用金庫は、日本税理士会連合会作成の 「中小企業の会計に関する基本要領の適用に関するチェックリスト」に税理士が記名・捺印したものを提出できる場合、融資利率を0.2~0.3%優遇しています。
政策面での支援
中小企業庁などが実施する補助金事業に応募する際に、中小会計要領を採用していると、その審査の過程において加点を受けることができる場合があります。年度によって対象事業は異なりますが、例えば以下のような事業への助成金があります。
- JAPANブランド育成支援事業
- 戦略的基盤技術高度化支援事業
- 中小企業・小規模事業者ものづくり・商業・サービス革新事業
- 小規模事業者持続化補助金
- 下請小規模事業者等新分野需要開拓支援事業
- 地域産業資源活用事業・小売業者等連携支援事業
- 創業・事業承継支援事業
経営面での支援
経営面の分析でも中小会計要領を活用することができます。
例えば、e-statにアップロードされている「中小企業実態基本調査」には、中小企業の財務指標の業種別平均値が掲載されています。自己資本比率など16個の経営指標について記されているので、自社の指標と比較して自社の経営状況を分析することができます。
また中小会計要領を活用して蓄積した自社の財務データをもとに、独立行政法人中小企業基盤整備機構が提供しているシステムを用いて経営の自己診断を行うこともできます。自社の26の決算情報を入力すれば、自社の財務分析、経営危機度を算出することができます。このシステムではCRD(中小企業信用リスク情報データベース)に蓄積された大量データと比較できるので、同じ業種の中小企業の中での自社の位置付けも比較的客観的に把握することができます。無料で利用でき、登録も不要の手軽なシステムになっています。
まとめ
社員数が限られている中小企業にとって間接部門である会計にコストや時間を割くのは難しいかもしれませんが、適切な会計は健全な経営の第一歩です。中小会計要領は、そのような会計処理にコストや時間を割くのが難しい中小企業にとっても扱いやすいようにデザインされているので、この要領をうまく活用して、自社の経営状況をしっかり把握することが望まれるでしょう。