厚生労働省は、デジタルマネーでの給与支払いが可能になるよう、規制を緩和することを表明しました。この改正は早くて2019年の春に行われます。デジタルマネーでの給与支払いには、外国人労働者にとっての利便性が高まることや、所得税などの自動徴収が可能になることなどのメリットがあります。今回は、賃金支払いの原則と法改正案、資金移動業者の存在、デジタルマネーでの給与支払いのメリットについて解説します。
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デジタルマネーとは、貨幣を使わずに電子情報のみで代金を支払う仮想貨幣です。電子マネーやスマートフォン決済のような、一定金額をICカードやスマートフォンのアプリ上でチャージし加盟店で決済できる「前払い(プリペイド)型」、クレジットカードやデビットカードのような、後から口座から引き落とされる「後払い(ポストペイ)型」などがあります。また、ビットコインのような仮想通貨もデジタルマネーに含まれます。厚生労働省は、2019年にもカードやスマートフォンの資金決済アプリなどに給与を送金できるようにする予定です。
労働基準法第24条では、賃金の支払い方法は(1)通貨で(2)直接労働者に(3)全額を(4)毎月1回以上(5)一定の期日を定めて、支払わなければならないと定められています。これを「賃金支払いの5原則」と言い、基本的に賃金は通貨によって支払わなければならないことが明言されています。しかし、労働基準法には但し書きで、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合、厚生労働省令で確実な支払いの方法として定められている通貨以外での支払いが認められており、これによって銀行振り込みによる賃金支払いが可能となっています。
以上のように、現行の制度では、賃金の支払いは原則現金手渡しで行い、例外として銀行口座を認めるという厳しい制限が課せられています。
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今回のデジタルマネーによる給与支払いの容認に伴って、これまでの制限が緩和される見込みです。厚生労働省は、2019年に労働基準法の省令を改正し、銀行口座を介さずにプリペイドカードやスマートフォンの賃金決済アプリなどに給与を送金できるようにする方針です。
労働者は、デジタルマネー支払いと現金払いを選択できるようになります。指定したカードや決済アプリに企業が給料を入金し、入金された給与はATMなどで月1回以上、手数料なしで現金で引き出すことが可能です。ただし、仮想通貨は価格変動が激しいことが懸念されるため、対象となりません。
給与支払いをデジタルマネーにする際に利用するサービスは、「資金移動業者」として金融庁に登録した上で厚生労働省の指定を受けた事業者のものである必要があります。
現在主流となっている給与振込口座は安全性が高く、また、銀行にとっても長時間預けてくれる質の高い預金となるためプラスに働いています。日本銀行の統計によると2018年3月時点で個人の預金は、ゆうちょ銀行を除いた国内銀行の預金全体の6割を占めています。これは貸し出しの原資として、住宅ローンや投資信託のような金融商品の販売につながっています。
一方、資金移動業者が給与支払いサービスの担い手になると、入金できる額や資産保全の面で銀行には劣ります。デジタルマネーによる給与支払いは1回あたり100万円が上限で、決済サービス会社がデジタルマネーで入金できる額に独自の上限を設ける可能性もあります。また、資金移動業者は預金を100%以上保全する義務があります。そのため、厚生労働省はより厳しい基準を適用する方向で検討しています。
現在、深刻化する人手不足を受けて、外国人労働者の受け入れが進んでいます。その中で、銀行口座や決済手段などのインフラ整備の不足が懸念されています。銀行口座の開設に手間がかかる外国人労働者にとっては、デジタルマネーの方がスムーズに給与の支払いを受けることができます。
デジタルマネーによる給与支払いでは、支払い時に所得税や社会保険料、消費税も自動徴収することができます。キャッシュフローの把握が容易になるので、税務の効率化が望めます。
欧米に比べると、日本のキャッシュレス決済の比率はまだまだ遅れています。欧米では4~5割であるのに対し、日本は2割程度にとどまっています。政府は、この比率を2025年までに4割に引き上げることを目標にしており、デジタルマネーの給与支払いはその政策の一環とされています。
現金決済のインフラ維持には、警送会社委託費や金融機関窓口人件費、ATM機器等々、多くの固定コストが発生しています。キャッシュレス化の推進は、このような固定コストを削減することにつながります。
外国人労働者の受け入れ拡大に向けて、インフラ整備が必要となります。デジタルマネーの給与支払いは、外国人労働者が働きやすい環境づくりのひとつとなるでしょう。また、キャッシュレス社会の推進や銀行のデジタルサービス向上にもなり、さらなる改革につながるかもしれません。
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