フランスでは、2017年より勤務時間外や休日の業務連絡を拒否できる「つながらない権利」を認める法律が施行されました。日本でもワークライフバランスを推進するきっかけとして、「つながらない権利」に近い制度を導入する企業も増えており、今後も浸透していくと考えられています。今回は、つながらない権利の概要や日本で制度を導入するメリット、実際につながらない権利を導入する際の注意点について紹介していきます。
つながらない権利とは
つながらない権利とは、労働者が勤務時間外や休日などに、仕事に関連するメールなどに対応することを拒否できる権利を指します。
つながらない権利が意識されるようになったきっかけは、フランスで2017年1月から施行された新しい法律です。この法律は、従業員数が50人以上の会社を対象に、勤務時間外の従業員の完全ログオフ権を定義する定款の策定を義務付けるものです。従業員の完全ログオフ権とは、メールなどのアクセスを遮断する権利のことであり、雇用主と従業員らで勤務時間以外のメール等によるコミュニケーションを制限する方法を協議し、そのやり方を定めることなどが求められています。
このつながらない権利は、企業に対して従業員の勤務時間外にメールなど送信することを禁止するものではなく、あくまで従業員がその対応を拒否することを保障するものです。法律の施行時点では罰則規定などは設けられていないものの、つながらない権利を侵害された場合には従業員は訴訟を起こすこともできるようになっています。
フランスではこれ以外にも、週35時間の労働時間制限が義務付けられていたり、午後9時から午前6時の夜間就労を厳しく制限していたりと、先進国の中でも労働規制が進んだ社会として知られています。しかし、ICTの進歩に伴う働き方の変化によって、仕事のオンとオフの境界線が曖昧になってしまうことへの懸念から、今回のような法律が制定されたという背景があります。
各国のつながらない権利の制度の導入
日本での導入事例
- ジョンソンエンドジョンソン株式会社
世界最大級のヘルスケアカンパニーであるジョンソンエンドジョンソンでは、2015年7月からグループ4社で、管理職や役員も含め勤務日の22時以降と休日のメールのやり取りを原則禁止としました。導入の背景として、夜間や休日は仕事を忘れてリラックスした方が勤務時間中の業務効率も上がるという考え方があります。 - 三菱ふそうトラック・バス株式会社
三菱ふそうトラック・バス株式会社では、親会社であるドイツ・ダイムラー社の施策に倣い、2014年12月から長期休暇中に電子メールを受信拒否、自動削除できるシステムを導入しました。長期休暇中に社内からのメールを受信した場合には、「いただいたメールは削除されます」というメッセージが返信されるようになっています。 - 株式会社ロックオン
マーケティング効率化事業などを行う株式会社ロックオンでは、2012年から1年に1回、9日間会社との連絡を断つことを認める山ごもり連休という制度を設けています。山ごもり連休を取っている社員に対しては、社内から電話やメールで連絡を取ることができません。この制度は、社員のリフレッシュを促進することと、日常的に業務の共有を徹底して行うということを目的として設けられました。
世界の動き
- ドイツ
大手自動車メーカーのフォルクスワーゲンでは、夕方の6時15分から翌日の朝7時まで、従業員の仕事用の携帯電話にメールが転送されないよう、ネット上でせき止めるシステムを導入しました。また、同じ自動車大手であるBMWでは、規則を厳密に定めることで柔軟な働き方の利点を損なうような事態を避けるため、職場以外の場所や勤務時間外などに時間外労働として業務を行うことを認めています。 - 三菱ふそうトラック・バス株式会社
通話アプリの浸透により業務時間外でも上司や同僚からメッセージが頻繁に送られてくることが社会問題化し、2017年8月に勤労基準法改正案の審議が始まりました。この改正案では、直接的な業務指示のほか、SNSのグループトークを通じた間接的な業務指示も制限しています。また、労働時間外にSNSを通じて業務指示を出すだけの理由がある場合の業務指示は例外的に認められていますが、その場合は延長労働として通常賃金の50%以上を加算して支給することになっています。
制度を導入するメリット
つながらない権利に関連する制度の導入によって、従業員が質の高い休暇を取ることで質の高い仕事につながるというメリットが挙げられます。
仕事のオンとオフが明確に区別されておらず、休暇中でも仕事のことを考えてしまうような状態が続いていては、心も体も思うように休ませることができません。趣味を楽しんだり、家族や友人と出かけたりしている最中に、仕事に関連するメールや電話が入って仕事モードになってしまうという経験をしたことがある方は多いのではないでしょうか。そうした現状に対し、つながらない権利によって強制的にオフの時間を作り出すことができます。休暇の間に心身をしっかり休めてこそ、仕事の際にしっかりと切り替えて業務を効率的に進めることができるようになります。
従業員のつながらない権利のために出来ること
まず大前提として、労働基準法では法定労働時間が1日8時間、週40時間と定められており、これを超えて例外的に時間外労働を行う場合には、企業と労働者との間で36協定と呼ばれる労使協定を結ぶことが必要となっています。現行の法制度では、これによって認められた趣旨や限度時間の範囲内で例外的に時間外労働を行えるということになっているため、業務時間外にメールや電話に対応しないということは、労働者側が主張することのできる当然の権利です。
したがって、業務時間外の電話やメールなどを無視したことを理由として従業員を処分の対象とすることは不当と判断される可能性が高くなります。通常の業務時間外に電話やメールなどに対応しなければならない場合は、事前に時間を定めて労働時間とするなどの対応が考えられます。また、業務の実態と労働時間に関する制度や考え方が合っていないということも考えられますので、前提となる社内の制度を見直すことも必要です。
そして、そもそもの問題として、情報の共有や仕事の仕方をより一層効率化していくことで、業務時間外に連絡を行う必要を最小限にとどめるような工夫も必要になってきます。
関連記事:
・長期休暇を取りやすく——サバティカル休暇のメリットとは
・「プラスワン休暇」で年休の計画的取得を促進しましょう!
・男性の育休、取得の推進に必要な政策とは?
まとめ
今回はつながらない権利の概要や、海外や日本における関連制度とそれらのメリット、つながらない権利に配慮する際の注意点などについて解説してきました。この機会に、つながらない権利に関連する制度の導入についてぜひ一度検討してみてはいかがでしょうか。