労働者の老後の安定に寄与する退職金制度ですが、中小企業では独自で退職金制度を設けることが難しい場合もあります。そこで、中小企業が活用できる国の退職金制度として「中小企業退職金共済制度」があります。
今回は、中小企業退職金共済制度の仕組みや加入手続き等について解説します。
目次
中小企業退職金共済制度とは
中小企業退職金共済制度とは、1959年に国の中小企業対策の一環として制定された「中小企業退職金共済法」に基づいて設けられた、中小企業のための国の退職金制度です。中小企業において退職金制度を実現させることで、従業員の福祉の増進や雇用の安定を図り、ひいては中小企業の振興と発展に寄与することを目的としています。
退職金制度は、労働者の老後の安定に寄与するものですが、中小企業の財政力では従業員の退職金を自社で貯蓄しておくことが困難な現状があります。そこで、中小企業者の相互扶助と国の援助で退職金制度を確立するため、中小企業退職金共済制度が設けられました。
中小企業退職金共済制度を活用することで、中小企業でも手軽に退職金制度を作ることができます。また、国による掛金の助成等のメリットを受けることができます。
中小企業退職金共済制度の仕組み
中小企業退職金共済制度は、下記の仕組みで運用されます。
- 事業主が、雇用する従業員を対象に中小企業退職金共済機構と退職金共済契約を結ぶ
- 毎月の掛金は全額事業主が負担し、金融機関に納付する
- 従業員が退職したときは、当該従業員の請求に基づき、中小企業退職金共済機構から当該従業員に退職金が直接支払われる
加入条件
加入できる企業の条件
中小企業退職金共済制度に加入できる企業の条件は、業種によって異なります。具体的には、下記のいずれかに該当する企業が加入することができます。
- 一般業種(製造業・建設業等):常用従業員数300人以下または資本金・出資金3億円以下
- 卸売業:常用従業員数100人以下または資本金・出資金1億円以下
- サービス業:常用従業員数100人以下または資本金・出資金5,000万円以下
- 小売業:常用従業員数50人以下または資本金・出資金5,000万円以下
なお、中小企業退職金共済制度への加入後に、従業員の増加等により上記の条件に当てはまらなくなった場合には、従業員の同意を得るなど一定の要件を満たすことで、確定給付企業年金制度や確定拠出年金制度(企業型)等の企業年金制度に、退職金相当額を引き継ぐことができます。
加入させる従業員の条件
加入させる従業員は、原則として全員となります。ただし例外として、下記に当てはまる従業員は加入させなくてもよいことになっています。
- 期間を定めて雇用される従業員
- 季節的業務に雇用される従業員
- 試用期間中の従業員
- 短時間労働者
- 休職期間中の者およびこれに準ずる従業員
- 定年などで相当の期間内に雇用関係の終了することが明らかな従業員
掛金について
掛金月額
掛金月額は、5,000円から30,000円の範囲で16種類が設定されており、事業主はその中から、従業員ごとに額を選択することができます。パートタイマー等の短時間労働者の場合は、2,000円から4,000円の特例掛金月額を選択することも可能です。掛金月額は、それぞれの従業員の賃金や役職、勤続年数等によって決めるのが一般的です。
なお、毎月の掛金は全額事業主が負担しなければならず、いかなる場合でも従業員に負担させることはできません。
掛金月額の変更
掛金月額の増額変更は、「月額変更申込書」を事前に提出することで、いつでも行うことができます。なお、18,000円以下の掛金月額を増額変更する場合は、増額する月から1年間、増額分の3分の1について国からの助成を受けることができます。
一方、掛金月額の減額変更は、下記のいずれかの場合に限って行うことができます。
- 掛金月額の減額について、従業員が同意した場合
- 現在の掛金月額を継続することが著しく困難であると厚生労働大臣が認めた場合
掛金月額の助成
新規加入助成
初めて中小企業退職金共済制度に加入する事業主は、加入後4ヶ月目から1年間、国からの助成を受けることができます。助成期間中は、加入している従業員の掛金月額の2分の1(従業員ごとに上限5,000円)が国から助成されます。また、短時間労働者の特例掛金月額の場合、さらに上乗せして助成されます。
月額変更助成
先述のとおり、18,000円以下の掛金月額を増額変更する事業主は、増額月から1年間、増額分の3分の1について国から助成を受けることができます。
通算制度
中小企業退職金共済制度では、制度加入前の勤務期間を通算したり、企業間を転職した場合に掛金の納付実績を通算したりすることができます。これにより、退職時にまとまった退職金を受け取ることができます。
過去勤務期間の通算
初めて中小企業退職金共済制度に加入する企業に限り、すでに1年以上勤務している従業員について、加入申込時までの継続した雇用期間(最高10年)を通算することができます。
この場合、通常の掛金とは別に、加入前の勤務期間分についても掛金を納付することになります。
転職した場合の通算
中小企業退職金共済制度の加入企業から他の加入企業に転職した従業員について、下記の要件を満たしていれば、前の企業での掛金の納付実績を、そのまま新しい企業での契約に通算することができます。
- 前の企業で掛金が12ヶ月以上納付されていること
- 前の企業を退職してから3年以内に申し出ること
- 前の企業で退職金を請求していないこと
退職金額について
従業員が受け取る退職金額は、基本退職金と付加退職金の合算によって計算されます。
基本退職金は、掛金月額と掛金納付月数に応じて決まる金額であり、法令により定められています。例えば、2017年3月現在、掛金月額10,000円で20年間掛金を納付した場合、基本退職金は2,666,600円となります。 付加退職金は、基本退職金に上積みするもので、運用収入の状況等に応じて定められます。
なお、掛金の納付が1年未満の場合には、退職金は支給されないので注意が必要です。
中小企業退職金共済制度への加入手続き
中小企業退職金共済制度の加入に必要な手続きは、下記のとおりです。面倒な手続きは必要なく、簡単に手続きを行うことができます。
- 加入させようとする従業員の同意をとる
- 各従業員の掛金月額を決定する
- 退職金共済契約申込書と預金口座振替依頼書に記入・押印する
- 中小企業者であることの証明書等、必要な添付書類を確認する
- 最寄りの金融機関に必要書類を提出する
まとめ
手軽に退職金制度を導入することができ、国からの助成も受けることのできる「中小企業退職金共済制度」は、自社で退職金制度を構築するのが困難な企業にとって、非常に魅力的な制度だといえます。
優秀な人材の確保や従業員の福利厚生の実現のためにも、中小企業退職金共済制度をうまく活用し、退職金制度を充実させましょう。
監修者
社会保険労務士として独⽴開業時より、ソニーグループの勤怠管理サービスの開発、拡販等に参画。これまでに1,000社以上の勤怠管理についてシステム導入およびご相談に対応。現在は、社会保険労務士事務所の運営並びに勤怠管理システムAKASHIの開発支援を実施。