労働安全衛生法により、労働者が業務中に負傷して死亡した場合や休業を要した場合、「労働者死傷病報告」の提出が義務づけられています。労働者死傷病報告を適正に提出していない場合、「労災かくし」として処罰されることもあるため、報告義務についてきちんと把握しておくことが重要です。
今回は、労働者死傷病報告の概要や、労働者死傷病報告の記載内容・提出期限等について解説します。
目次
労働者死傷病報告とは
労働者死傷病報告は、労働者が労働災害等により死亡または休業した場合に企業が所轄の労働基準監督署長に提出しなければならない書類であり、労働安全衛生規則第97条によりその提出が義務づけられています。
労働者死傷病報告は、労働災害統計の作成などに活用されており、提出された労働者死傷病報告をもとに労働災害の原因の分析が行われ、同種労働災害の再発を防止するための対策の検討に生かされるなど労働安全衛生の推進のために役立てられています。
労働者死傷病報告を故意に提出しなかったり、労働者死傷病報告に虚偽の内容を記載して提出したりした場合は、「労災かくし」として処罰の対象となることから、労働災害等の発生により労働者が死亡したり休業したりした場合は、適切に労働者死傷病報告を提出することが必要です。
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労働者死傷病報告の提出が必要となる場合
労働者死傷病報告の提出が必要となる場合は、下記のとおりです。就業中以外でも、事業場内やその附属建設物内等で負傷等した場合には、労働者死傷病報告を提出する必要があることに注意が必要です。
- 労働者が労働災害により、負傷、窒息または急性中毒により死亡し、または休業したとき
- 労働者が就業中に負傷、窒息または急性中毒により死亡し、または休業したとき
- 労働者が事業場内またはその附属建設物内で負傷、窒息または急性中毒により死亡し、または休業したとき
- 労働者が事業の附属寄宿舎内で負傷、窒息または急性中毒により死亡し、または休業したとき
労働者死傷病報告の記載内容および提出期限
労働者死傷病報告の記載内容や提出期限は、負傷等した労働者の休業日数により異なります。この場合の休業日数は災害の翌日から数え、休業を要する期間内に休日等が含まれる場合は、これを含めた歴日数が休業日数となります。
休業日数が4日以上の場合または死亡の場合
労働者の休業日数が4日以上の場合または労働者が死亡した場合、「労働安全衛生規則様式第23号」により、災害発生後すみやか(おおむね1週間から2週間以内程度)に労働者死傷病報告を提出しなければなりません。
災害発生から「労働者死傷病報告」の提出まで1ヶ月を超過している場合は、提出が遅れた理由について書面(報告遅延理由書)による提出を求められることがあるため、できるだけ早く提出するようにしましょう。
様式第23号には、下記のような内容を記載することが必要です。様式は、厚生労働省のホームページからダウンロードすることができます。虚偽の内容を報告した場合は処罰の対象となることから、負傷等した労働者本人や関係者から事実関係を聞き取り、正確な内容を記載するようにしましょう。
- 事業場の名称・所在地
- 労働者の氏名・生年月日・年齢・性別・職種・経験年数
- 休業見込期間または死亡日時
- 災害発生状況および原因
- 傷病名・傷病部位
- 被災地の場所
- 略図(発生時の状況を図示する)
休業日数が3日以内の場合
労働者の休業日数が3日以内の場合、「労働安全衛生規則様式第24号」により、3ヶ月に一度、期間ごとに発生した労働災害をとりまとめて労働者死傷病報告を提出することが必要です。具体的には、1~3月発生分は4月末まで、4~6月発生分は7月末まで、7~9月発生分は10月末まで、10~12月発生分は1月末までに提出しなければなりません。
様式第24号には、下記のような内容を箇条書きで記載することが必要です。様式は、厚生労働省のホームページからダウンロードすることができます。
- 事業場の名称・所在地
- 労働者の氏名・年齢・職種
- 傷病名および傷病の部位
- 休業日数
- 災害発生状況
注意すべきポイント
労災保険関係書類との関係
労働者が労働災害により負傷した場合、労働基準監督署長に労災保険に関する書類を提出することが必要ですが、労災保険関係書類と労働者死傷病報告はまったく異なるものです。死亡災害や休業災害については、労災保険に関する書類だけでなく、労働者死傷病報告も必ず提出しなければならないことに注意が必要です。
派遣労働者が休業または死亡した場合
派遣労働者が派遣先で負傷等をして休業または死亡した場合は、派遣元および派遣先の双方に労働者死傷病報告の提出義務が課せられます。
派遣先は、労働者死傷病報告を作成して所轄の労働基準監督署に提出するとともに、その写しを派遣元企業に送付することが必要です。
派遣元は、派遣先から送付のあった写しの内容を踏まえて労働者死傷病報告を作成し、所轄の労動基準監督署に提出しなければなりません。
まとめ
労働者が労働災害等により負傷し、休業したり死亡したりした場合は、労働者死傷病報告を必ず提出しなければなりません。労働者死傷病報告を故意に提出しなかったり虚偽の内容を報告したりする「労災かくし」は犯罪であり、処罰の対象となります。労働者死傷病報告について正しく理解し、適切に報告を行うことが大切だといえます。