高年齢者雇用安定法では、定年を迎えた60歳から65歳までの従業員を対象に再雇用を行う、継続雇用制度が定められています。継続雇用に際して、退職の手続きと再雇用の手続きの両方を行うため注意が必要です。今回は、定年退職者の退職と再雇用の手続きの手順と、必要な書類について解説していきます。
継続雇用制度とは
継続雇用制度とは、企業に義務付けられている高年齢者雇用確保措置の1種で、定年を迎えた従業員が希望した場合は定年後も引き続き雇用します。2013年の高年齢者雇用安定法改正に伴い、この制度を導入する企業は、希望者全員を対象としなければならなくなりました。ただし65歳以上の従業員の雇用義務は生じず、労使協定などによって企業内で取り決めることができます。
高年齢者雇用確保措置は、厚生年金の受給開始年齢が段階的に65歳まで引き上げられることを受け、一般的な定年退職の年齢である60歳から無収入になってしまうことを避けるためのものです。65歳までの継続雇用の制度の導入の他にも、定年を65歳に引き上げるか、定年を廃止することが手段として認められており、いずれか1つの実施によって従業員の65歳までの安定した雇用を確保することが義務付けられています。
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再雇用を前提とする退職の手続き
退職から1日も間を空けず再雇用することが既に決まっている従業員の場合は、通常の退職時に必要な手続きのいくつかを省くことができます。
退職手続きの手順
- 従業員(とその扶養者)に健康保険被保険者証を提出してもらう
退職する従業員は健康保険の資格を喪失します。再雇用する場合でも、退職者とその扶養家族の保険証を一度返納する必要があります。万が一この際に紛失が発覚した場合は、従業員の退職日から5日以内に企業が健康保険被保険者証回収不能・紛失届を年金事務所に提出しなければなりません。 - 従業員の健康保険の資格喪失もしくは継続の処理をする
前述の通り、再雇用の有無にかかわらず、退職する従業員は資格喪失の処置が必要になります。企業は従業員の退職日から5日以内に、健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届に退職者の健康保険被保険者証等を添付して年金事務所へ届出ます。
なお、再雇用される場合はこの後に資格を再び取得することになりますが、再雇用されない場合は資格喪失のままとなります。しかし再雇用されない場合でも、従業員が退職の前日までに継続した2ヶ月以上の被保険者期間があれば、退職後も一定期間継続して被保険者になることができます。この場合、企業は従業員の退職日から20日以内に、健康保険任意継続被保険者資格取得申出書を全国健康保険協会の都道府県支部へ提出する必要があります。 - 従業員の雇用保険の資格喪失の処理をする(場合によっては必要無し)
雇用保険適用条件は、1週間の所定労働時間が20時間以上であることです。再雇用時にこれに当てはまらない場合、また再雇用しない場合には届出が必要になります。企業は従業員の退職日の翌日から10日以内に、雇用保険被保険者資格喪失届に雇用保険被保険者離職証明書を添付して、ハローワークへ提出します。雇用保険被保険者離職証明書は一般に離職証明票と呼ばれ、この書類をハローワークへ提出すると、雇用保険被保険者離職票(一般に離職票と呼ばれ、離職証明票とは別物です)が発行されます。離職票の発行は任意の場合もありますが、定年退職や59才以上での退職の場合は発行が義務付けられています。離職票は2部発行されますので、一方は退職した従業員本人へ送付します。
上記に加え、退職後に再雇用しない場合には、他にもいくつかの手続きを行わなければなりません。住民税の処理や、各種書類の送付、返却物の受け取りなどが挙げられますが、退職後直ちに再雇用されるのであれば、ほとんどの場合これらはスキップすることができます。
必要な書類
上記をまとめると、必ず提出しなければいけない書類は以下のものです。
この他、場合によっては以下の書類も必要となります。
- 健康保険被保険者証回収不能・紛失届
- 雇用保険被保険者資格喪失届
- 離職証明書
- 離職票
特別徴収に係る給与所得者移異動届出書、雇用保険被保険者証、また源泉徴収票や年金手帳など、通常の退職の手続きに欠かせない書類は、再雇用が決まっている場合には用意する必要がありません。
再雇用の手続き
必要になる手続き
- 従業員に健康保険被扶養者(異動)届、国民年金第3号被保険者資格取得届を提出してもらう
従業員は退職に伴い資格を喪失しているため、再び資格を取得する必要があります。扶養者がいる場合は企業も別途対応する必要があるため、従業員が記入した上で企業に届出てもらいます。 - 従業員の健康保険の資格取得の処理をする
上述のように企業は従業員の退職日から5日以内に、健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届を年金事務所に提出しますが、この際に同日付けでまとめて再雇用の届出も行います。健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届、健康保険被扶養者(異動)届、国民年金第3号被保険者資格取得届を提出します。60歳以上の従業員の場合は加えて、就業規則と退職辞令の写し(退職日の確認ができるもの)、 雇用契約書の写し(継続して再雇用したことがわかるもの)の両方、または従業員の退職日と再雇用日に関する証明書(企業の事業主が押印したものに限る)を添付する義務が生じます。 - 雇用契約書を再度作成する
再雇用の場合は新たに入社することになるため、再度契約内容を確認、変更する必要があります。それまで従業員に渡していた雇用契約書は回収することになります。
必要な書類
- 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
- 健康保険被扶養者(異動)届・国民年金第3号被保険者資格取得届
- 雇用契約書
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まとめ
再雇用の場合は、通常の退職や新規雇用と比べれば手続きが省かれますが、繁雑なことには変わりありません。詳細まできちんと把握しておき、期限遅れや提出漏れなどを防ぐことが重要です。