事業の縮小・廃業・転換は、時として企業が生き残っていく上で避けては通れない転換点となります。これらに伴い30人以上の離職者が発生する場合、事業主には再就職援助計画を提出する義務があり、提出によって再就職援助と雇い入れの際の助成金申請が可能になります。今回は、再就職援助計画の手続きの概要と、再就職援助計画に関連した助成金について解説します。
再就職援助計画とは
概要
再就職援助計画とは、厚生労働省による労働者の再就職支援のための制度の1つです。経済的な理由により、1つの事業所につき1ヵ月に30人以上の労働者を離職させざるをえない場合、最初の労働者が離職する日の1ヵ月前までに作成しなければなりません。また、離職者が30人未満の場合でも、再就職援助計画の書類は必要事項を記載した上で公共職業安定所(ハローワーク)の所長へ提出し、承認を受けることで任意で作成できます。労働者の再就職を支援する措置を行い、一定の要件を満たした場合は労働移動支援助成金の受給を申請することができます。助成金の支給額は適用されるコースにより異なります。
計画作成義務の生じる場合
助成を受取る場合の計画作成が必須となる場合は以下の4ケースです。
- 事業を全て廃止する
- 事業の規模を縮小する
事業に関係する施設や設備の一部または全てを、譲渡ないし廃棄する状況を指します。 - 事業の活動を縮小する
事業の一部または全てを休止する状況を指します。 - 事業を転換する
事業の一部または全てを廃止するか縮小して、それまでとは目的とする物、仕事、材料、技術、販路、機能などが異なる事業を、開始または拡充する状況を指します。
必要となる書類
ハローワークに提出すべき書類は、再就職援助計画、別紙1と呼ばれる事業規模の縮小等に関する資料、別紙2と呼ばれる計画対象労働者に関する一覧の3種類です。
- 再就職援助計画
再就職援助計画には、事業の現状説明、計画を作成する事業所の現状説明、計画作成へ至る経緯、計画の対象となる労働者と計画期間、再就職援助のための措置、労働組合等の意見といった事項を記入します。援助内容の例としては、取引先企業や関連企業への再就職の斡旋、求人情報の提供、求職活動を行うための有給休暇の付与、教育訓練受講の費用負担などが挙げられます。また、記入時は以下の点に留意してください。
- 申告する労働者数は、短期間のみ臨時で雇用される者を除きますが、継続して6ヵ月以上雇用される者およびその予定の者は労働者数に入れます。
- 計画の対象となる労働者の合計数を書き入れる際、その内の障害者の数を括弧でくくり追記します。
- 労働組合等の意見については、労働組合が存在しない場合は労働者の過半数を代表する者の意見を聴きます。労働者側の代表者の同意の有無を記載し、代表者の氏名を自署で書き入れます。
- 別紙1 事業計画の縮小等に関する資料
こちらに記入する事項は、事業規模、事業規模の縮小等の理由、縮小等を行う予定の期間、縮小等の内容です。事業規模の欄では、中小企業と大企業とに区別されますが、その基準となる「企業の資本の額または出資の総額」と「企業全体の労働者数」は業種により異なりますので、厚生労働者が公開している「再就職援助計画の提出手続き」のパンフレットに記載された表を参照してください。また、事業規模の縮小等の理由については、事業を取り巻く国内外の競争の変化、需要構造の変化、為替相場の変動、国内の経済の状況等の事情、生産量や売上高等の現状など、背景的な部分も含めて具体的に記載することが求められます。 - 別紙2 計画対象労働者に関する一覧
こちらは計画の対象となる労働者が、助成金の特例対象者に該当するかどうかを確認するための書類です。特例対象者の条件に該当する場合は、確認できる書類を提示する必要があります。特例対象者とされた労働者がある程度の成長性の見込まれる企業に雇用された場合、雇い入れた企業には優遇助成が支給されるため、労働者の早期の再就職が促されます。
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コースの内容
再就職援助計画を作成した場合は再就職援助コースを利用でき、また再就職援助計画の対象となる労働者を受け入れる場合は早期雇入れ支援コースと人材育成支援コースを利用できます。それでは以下、助成の種類をコース毎に説明していきます。
再就職支援コース
- 再就職の支援を職業紹介事業者に委託する場合
対象となる労働者の再就職の支援を専門の職業紹介事業者に委託し、その結果として離職から6ヶ月以内に再就職が果たされた労働者の人数に応じて助成金が支給されます。中小企業と大企業では支給額が異なるので、個別の条件と計算式については上掲のパンフレットを参照してください。なお、平成30年3月31日までに計画を提出した中小企業に限り、委託開始申請分として10万円を受給することができます。この場合、後に再就職実現時の助成金を受ける際には、10万円を引かれた額が支給されます。 - 求職活動のために対象者に休暇を与える場合
対象者が再就職を達成した際に、求職活動のために与えていた休暇1日につき5,000円(中小企業事業の場合は8,000円)が給付されます。この時の上限日数は180日となっています。また対象者が離職日の翌日から1ヵ月未満以内に再就職した場合は、更に1人につき10万円が加算されます。 - 教育訓練施設等に委託して再就職支援のための訓練を対象者に行う場合
30万円を上限として、委託に要した費用の3分の2が給付されます。
早期雇入れコース
再就職援助計画の対象者を離職後3ヵ月以内に雇用し、かつその雇用が無期で持続的な場合、雇用から6ヵ月後に1人につき通常30万円が雇い入れた企業に給付されます。ある程度の成長性が見込まれる企業が、上述の特例対象者を雇用した場合、優遇助成として1人につき80万円に増額されます。さらに、優遇助成の条件を満たしてかつ雇用した日から1年後に対象者の賃金の2%以上上昇した場合、1人につき100万円に増額されます。
人材育成コース
本来は、再就職援助計画の対象者を離職後1年以内に無期で雇用し訓練(Off-JTのみまたはOff-JTとOJT)を行った事業主に対して支給がなされるコースですが、平成30年3月31日をもって廃止されます。
「大量雇用変動届出」との違い
再就職援助計画とよく似た性格の書類として、大量雇用変動届出があります。どちらも雇用対策法に基づき、1ヶ月以内に30人以上の離職者が見込まれる場合に作成が義務付けられ、提出先も同じです。両者の違いは、再就職援助計画が事業の縮小等の経済的理由によって離職者を出す場合に提出が求められるのに対し、大量雇用変動届出は離職者が出る理由を限定していないという点です。したがって、再就職援助計画の提出者は大量雇用変動届出を出した者と同等に扱われますが、その逆は成立しません。他にも、大量雇用変動届出は労働組合等の意見を必要としないなど細かい点での差異が存在しますが、最も重要な違いは、労働移動支援助成金が申請できるのは再就職援助計画を提出した事業主に限られるということです。
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まとめ
再就職を巡る援助の制度には様々なものがありますが、そのなかでも再就職援助計画は条件が比較的易しく設定されているため、利用できる場面が多く存在する傾向にあります。知らずに損しないためにも、正確にその内容を把握しておくことが重要だと言えるでしょう。